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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
最終章  世界を都合で振り回す二人
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第九話  対応策

 ディアが地面を蹴り、パンサーと並んで森の中に入る。

 ミツキの魔導手榴弾による混乱から立ち直ったスケルトンたちが戦略的撤退を行う朱の大地を追い駆け始めるが、魔術スケルトンと通常スケルトンの足並みがそろっていない。

 魔術スケルトンは身体強化の魔術を使用できるが、通常のスケルトンにはそれがない。元々足の遅い魔物だけあって、身体強化の有無は大きな差になっている。

 つまり、魔術スケルトンが突出する結果を招く。


「ミツキ、凍結型!」

「フリーズ!」


 銃を構えて言ってみたい台詞ランキング三位以内を狙える言葉と共に、ミツキが魔導手榴弾を投げ込む。

 炸裂した凍結型魔導手榴弾が魔術スケルトンの足を凍りつかせ、転倒させた。

 無防備な魔術スケルトンの眼窩に対物狙撃銃の弾丸を撃ち込み、俺はミツキと共に森の奥へディアを走らせる。

 直後、背後で木々が倒れる音がした。魔術スケルトンがロックジャベリンか何かで俺を狙い、流れ弾が木をへし折ったのだろう。


「血気盛んだな」

「血肉もないのにね」


 森の中で反転し、木々の隙間を縫うように魔術スケルトンをもう一体屠る。

 俺たちの正確な位置は分からずとも、どこから銃弾が飛んでくるかは分かったらしく、魔術スケルトンたちが一斉に顔をそむけた。

 アップルシュリンプの甲殻で作った兜と身体強化の魔術で硬度を増した頭蓋骨があれば、対物狙撃銃の弾丸を受けても頭蓋骨にひびが入る程度で済む。中の白い人型魔物パペッターはもちろん、スケルトンの活動にも影響がないレベルの〝軽傷〟だ。

 だが、顔をそむけられたなら回り込めばいいだけの事。


「精霊獣機の機動力をなめるなよ」


 ディアを加速させ、脚部のクッション性を生かして森の中を音もなく疾駆する。

 髪を煽る風を心地よく感じながら、ディアの角の上部にある銃架代わりの窪みに対物狙撃銃を置き直し、銃口を進行方向に対して右に向ける。

 森から街道に飛び出した直後、俺は魔術スケルトンの眼窩を正確に狙い撃った。

 カンッと良い音がして魔術スケルトンの頭蓋骨の中に弾丸が飛び込む。

 街道に姿を現した俺に対して攻撃を加えようとした魔術スケルトンたちは俺の後から出てきたミツキの魔導手榴弾でバラバラに吹き飛ばされる。

 魔導手榴弾の衝撃で空中に放り出された頭蓋骨をちらりと見るが、ひび一つ入っていないようだ。


「ミツキ、魔導手榴弾を地面じゃなくスケルトンの頭に命中させられるか?」


 森の中に入って駆け抜けながら、俺はミツキに問う。


「できるけど、効果は薄いよ?」

「至近距離で爆発させれば仕留められるんだろ?」

「二体か三体なら仕留められるけど、他のスケルトンは普通に耐えきって反撃してくると思った方が良いね」


 俺は森を透かして街道のスケルトンたちを見る。連中が俺たちの攻撃による被害を割り切って朱の大地を追いかけ始めると面倒だ。

 今までは地面に向けて投げ込み、爆発の余波で魔術スケルトンを吹き飛ばして足を止めるのに使用していたが、これからは俺たちを無視できないよう確実に致命の一撃を加えた方が良い。


「ディアが盾になるから、街道に出るときは併走してくれ」

「分かった」


 森の中から変則的に攻撃を加え、度々森を飛び出して魔導手榴弾を放り込む。

 俺たちの攻撃目的が足止めだと気付いたらしい魔術スケルトンが駆け出そうとすると、横合いからスイリュウが攻撃を仕掛けた。

 通常兵装のシャムシールを提げて、森の中から飛び出したスイリュウが街道を横切り、足元のスケルトンを踏み潰しながらシャムシールを薙ぐ。シャムシールの間合いに沿ってスケルトンの群れが半月状に吹き飛んだ。

 しかし、打撃武器であるハンマーと違って正確に頭蓋骨を破壊できないため、仲間の死骸を再利用して体を組み直すスケルトンが続出する。

 それで構わない。スイリュウの攻撃はあくまでも足止めだ。

 俺とミツキのヒットアンドアウェイ戦法に業を煮やしたスケルトンたちが街道を外れ、森の中の捜索を始める。

 こっちの思う壺だ。


「分散してくれるならありがたい。孤立した魔術スケルトンを暗殺する」

「辻斬りだあ!」


 ミツキがパンサーを加速させて重量軽減の魔術を強化、木の幹を駆け上って近くの木の幹へ飛び移らせる。

 森の中をきょろきょろと見回しながら歩いてくるスケルトンに頭上から襲いかかったパンサーはそのままの勢いで頭蓋骨を粉砕し、近くにいた護衛らしき通常スケルトンの頭蓋骨を尻尾の先に付いた扇型の刃で真っ二つにする。

 仲間がミツキに奇襲を受けるのを目撃した魔術スケルトンが場所を知らせるために魔術で火の玉を生み出し、空に上げようとする。


「目撃者には死んでもらう」


 対物狙撃銃が火を噴き、目撃者である魔術スケルトンの頭蓋骨の中にいたパペッターが絶命する。

 ミツキがパンサーを加速させてパペッターを失った元魔術スケルトンの頭蓋を粉砕、その他護衛の通常スケルトンを斬り殺した。


「よし、次いこ、次!」


 ノリノリのミツキと共に魔術スケルトンを奇襲する。

 突出した白兵戦闘能力に加えて高機動力を持つパンサーの奇襲とディアによる援護射撃の組み合わせは、森の中での戦闘をかなり楽な物にしてくれる。

 スケルトンを各個撃破していく合間に、俺はライトボールの魔術を二つ空に放ってスイリュウに指示を出す。

 指示内容は、大型スケルトンとの戦闘開始、だ。

 スイリュウがすぐにスカイの援護に向かう。

 いつの間にか甲羅を拾い集めた四重甲羅と両手ハンマーを相手に奮闘していたスカイに、スイリュウが助勢した。

 ボールドウィンが拡声器越しにタリ・カラさんと言葉を交わす。どうやら、スカイが二体のガシャを引きつけ、隙を見てスイリュウが流曲刀第二段階で致命傷を加える作戦のようだ。

 四重甲羅と両手ハンマーの攻勢に陰りが見え始める。スイリュウに牽制されて攻撃に集中できないのだろう。


「ビビッてんじゃねぇぞ!」


 スカイが巨体に見合わない加速力で四重甲羅との距離を詰め、天墜を肩に担ぐように振り上げる。

 まともに受ければ押しのけられることを知っている四重甲羅が数歩下がった瞬間、スカイがスライディングを仕掛けた。

 不意打ち気味に姿勢を低くしたスカイは構えられた四重の甲羅で出来た死角をかいくぐり、ガシャの脚を蹴り払いながら天墜の側面板を展開、足で急制動を掛けながら上半身のバネを使い、圧空の魔術で加速した天墜で四重甲羅を側面からまとめて吹き飛ばした。

 一撃で大質量のタラスクの甲羅が四枚まとめて吹き飛ぶ光景は圧巻の一言だ。

 刹那、スイリュウが流曲刀の刀身を黒く染め、第二段階に移行させながら甲羅を弾き飛ばされたガシャに迫る。

 両手ハンマーが横合いから振り被った攻撃を、機械とは思えない流麗な動作でひらりと躱したスイリュウがさらにガシャに迫る。

 スカイに足を蹴り払われた影響で地面に手を突き、頭を差し出す様にしていたガシャが面を上げる寸前、スイリュウが黒く染まった流曲刀を閃かせる。

 ガシャの頭蓋が真っ二つに斬り裂かれた。


「――ヨウ君!」


 ミツキに声を掛けられるまでもなく、俺は対物狙撃銃の銃口を斬り裂かれたガシャの頭蓋骨から転げ落ちた白い人型魔物パペッターに向け、引き金を引く。

 パペッターがたった一つしかない眼で俺を見て、風魔術による回避を試みる。

 だが、甘い。

 パペッターの脚が弾丸を受けて吹き飛び、空中でバランスを崩して落ちてくる。

 風魔術を利用して自由落下ではなく不規則に落下しようとするのはいいが、滞空時間を延ばすのは愚の骨頂だ。

 俺は素早く次弾を装填し、空中のパペッターの胴体を狙う。頭でなくても、胴体に当たれば弾け飛んで絶命するだろう。

 二発目はパペッターの胴体を見事に撃ち砕いた。

 ばらばらになったパペッターの身体が落下していくのを横目に、俺はウォーターボールを空に向けて二発撃ち出す。ガシャの中身のパペッターを始末した合図だ。


「コト、でかした!」


 スカイからボールドウィンの声が聞こえてきた時、被せるようにディアとパンサーが索敵魔術の反応を伝えてきた。

 瞬時にミツキと視線を交差させる。


「弓兵ガシャ!」

「ちっ、このタイミングで!」


 ディアのレバー型ハンドルを押し込みながら、俺は反応があった方角へ顔を向ける。弓兵ガシャが静かに立ち上がる所だった。

 森の中を匍匐前進で移動し、スカイとスイリュウの背後に回り込んでいたらしい。

 弓兵ガシャがアーチェの大弓にロックジャベリンを矢として番え、引き絞る。

 スカイが弓兵ガシャに気付いて振り返ろうとするがもう遅い。

 ――だが、俺の準備は間に合った。


「させるかよ!」


 弓兵ガシャが弦を放す直前、カノン・ディアが爆音を轟かせる。

 俺が放った銃弾はまっすぐに弓兵ガシャが持つ大弓の弦を撃ち抜き、断裂させる。

 大型魔物の腱から作られたという大弓の弦はバチンと耳が痛くなるような音を立てて上下に分かれ、放たれる直前だったロックジャベリンの矢は行き場を失う。

 弦を手前に力の限り弾いていた弓兵ガシャは突然弦が切れたために後方にたたらを踏んだ。


「……もう一発」


 弓兵ガシャの頭蓋骨にぽっかりと空いた眼窩に狙いを定め、素早くカノン・ディアの第二射を放つ。

 カノン・ディアの二連射には流石にヒート状態のディアでも威力を殺しきれず、俺の肩にも反動がやって来る。

 肩関節が外れるんじゃないかというほどの激痛に耐えて放った二発目の銃弾が弓兵ガシャの頭蓋骨に飛び込み――吹き飛ばした。

 ガシャの巨大な頭蓋骨が〝その形を保ったまま〟後方へ吹き飛んでいく。

 って、おい、冗談だろ。


「あの野郎、銃弾の威力にあえて逆らわずに受け流しやがった!」


 カノン・ディアが命中する直前に頭蓋骨を保持する魔力膜の効果を切り、頭蓋骨ごと後ろに吹き飛ぶ事で頭蓋骨の破損を防ぐ。同時に、威力を受け流すことで頭蓋骨内部で銃弾が跳躍する回数を減らすこともできる。

 後者についてまで考えていたかどうかは定かではないが、どちらにしても目を見張るような判断と決断力だ。

 弓兵ガシャの頭蓋骨の周囲にロックジャベリンが三つ発生する。

 ロックジャベリンの矛先が俺たちの居る地点を向いていた。


「ミツキ、右に全力離脱!」


 声を張り上げ、俺はディアの頭を右に向ける。

 ヒート状態で四肢から青い火花をまき散らしているディアとパンサーが一気に加速する。あまりに急激な加速に体が浮き上がる感覚に襲われた。まるで羽根でも生えたようだ。

 しかし、ここは空とは違って森の中、気を抜いた瞬間に木へ激突してお陀仏という悪環境だ。

 体をディアの背に密着させ、正面を注視する。背後で木がへし折れ、地面が爆発したように爆ぜる音が聞こえ、土砂が無事な木の葉をばらばらと叩く。

 全力で離脱した俺は、すぐ横に無事なミツキの姿を確認してほっとする。

 恐ろしい事に、弓兵ガシャが撃ち込んだロックジャベリンは正確に俺たちが潜んでいた地点にクレーターを作り出していた。あらかじめヒート状態でいなかったら逃げ切れなかっただろう。


「鉄の獣、無事か!?」


 ボールドウィンの焦った声が聞こえてくる。

 俺は無事を知らせるためにライトボールを空に打ち上げ、すぐさまその場を離れる。

 直後、弓兵ガシャから俺たちの居た地点にロックジャベリンが飛んでいった。

 やはり、俺とミツキを狙っているらしい。


「ヨウ君、魔力残量は?」

「もう余裕がない。時間ぎりぎりだが、一時撤退するしかないな」


 ヒート状態からのカノン・ディア二発だ。無理をすればもう一発撃てない事もないが、弓兵ガシャがカノン・ディア対策をしてきた以上は無理してぶっ放すのは得策じゃない。

 すでに四重甲羅を撃破し、弓兵ガシャも吹き飛んだ頭蓋骨を元の身体へ運ぶため時間がかかるだろう。


「ミツキ、スカイとスイリュウに合図だ。撤退するぞ」

「分かった。さっさと逃げよう」


 ミツキがライトボールとウォーターボールを交互に空へ打ち出し、スカイとスイリュウに合図を出す。

 すぐにスカイが天墜を横薙ぎに振るって両手ハンマーを牽制し、スイリュウと共に街道を南下し始める。

 俺もミツキと共に街道沿いの森の中を進み、防御陣地を目指す。

 背後を振り返れば、両手ハンマーは弓兵ガシャが体勢を立て直すまで待つつもりらしくその場に佇んでいる。

 代わりを務めるように、通常スケルトンや魔術スケルトンが追い駆けてきていた。



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