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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
最終章  世界を都合で振り回す二人
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第四話  奇襲攻撃

 ボルス奪還戦二日目も特に目立ったところはなく戦闘が終了し、ワステード司令官率いる奪還軍は野営地に帰って来た。

 そう、目立ったところはなかった。

 だからこそ、あの撤退戦を生き延びた兵士たちがピリピリしている。


「これで終わるはずがない。そう思うのは私だけではないようだな」


 ワステード司令官が会議机を囲む俺たちを見回して、腕を組む。

 前回の撤退戦ではワステード司令官もあやうく死にかけた。だからこそ、スケルトンの実力を正確に評価してる。

 ロント中隊長が口を開いた。


「昨日もそうでしたが、スケルトンの群れはまだ防衛戦そのものに慣れていない様子。しかしながら、連中の戦術眼は前回の防衛、撤退戦でも発揮されており、今後も無策で突っ込んでくるとは考えられません」


 ロント中隊長の意見に同意を示した別の中隊長が報告する。


「森に潜んでいた狙撃手たちの話です。本日は戦闘開始から一貫して防壁の上にスケルトンは姿を現さなかった、と。……学習していることは間違いないようです」


 学習能力の高さは警戒すべき案件だ。人型魔物ギガンテスたちと同じく、こちらの戦術を模倣することもある。

 だが、スケルトンたちは初めての防衛戦に戸惑っている。それでも崩れていないのだから末恐ろしい話だ。


「そろそろ何かを仕掛けてくる。順当に行けば夜襲か、明日の攻撃時に我が軍の側面ないしは後方を突いてくるだろう。各自、警戒するように」


 ワステード司令官はそう言って、伝令を密にするように指示する。

 続いて、ワステード司令官は俺たちを見た。


「索敵能力は鉄の獣に勝る者がいない。期待している」


 俺たちが敵の接近に気付いた時はワステード司令官か遊撃部隊を指揮する中隊長のどちらかに報告すればいいらしい。


「いまのところ、新大陸派に動きは見られない」


 最後にワステード司令官はそう報告して、軍議を解散した。

 俺たちは野営場所へディアとパンサーの足を向ける。

 ミツキがパンサーの背中の上で両足をぶらつかせた。


「警戒は怠れないけど、作戦は順調って感じかな」

「いまのところはな」


 ワステード司令官も来たるべき新大陸派との戦闘に備えて軍に疲労がたまらないように、被害が出ないように、慎重に動かしている。

 おかげで死者も少ないし、精霊人機に至っては現在のところ全て稼働している。

 もっとも、スケルトン側の被害も少ないようだ。

 大型スケルトンことガシャは三体とも健在。

 弓兵ガシャが使用しているアーチェの弓はそろそろ弦が切れる頃ではないかとみられているが、予備がボルスの基地倉庫にあるため戦力が減じることはないだろう。

 四重甲羅や両手ハンマーの装備も壊れていない。四重甲羅に至っては、予備らしきタラスクの甲羅がボルスの中に転がっているのを見たと雷槍隊から報告が上がっている。

 意図したものとはいえ、戦況は完全に膠着状態だ。



 翌日の戦闘も昼から行われた。

 三日目だけあって、スケルトン側もボルスの崩れた防壁の内側に陣取っている。建物の裏から魔術スケルトンが軍の歩兵に狙いを定めているようだ。


「ヨウ君の真似かな?」

「二日目は屋根の上にいたらしいし、俺の動きを参考にしてるのは確かかもな」


 二日目の昨日は屋根の上にいる魔術スケルトンを狙撃手たちがすぐに仕留めたらしいから、学習したのだろう。

 軍の後方で戦闘の様子を見守る俺は、対物狙撃銃のスコープでスケルトンたちを見る。

 魔術スケルトンは相変わらず遊離装甲を身に纏っており、頭には甲殻系魔物の殻で出来た簡易の兜を装着している。遊離装甲はボルスの中に保管されていた車両用の物を流用しているようだ。

 さながら、骸骨武者のようなスケルトンたちは歩兵部隊と切り結んでいる。

 ロント中隊の精霊人機が三機で前線のスケルトンを叩き潰していた。だが、大型スケルトンや魔術スケルトンの脅威から歩兵部隊を守るために大型の盾を装備しているロント中隊の精霊人機は動きが鈍く、効率的にスケルトンの数を減らす事は出来ていないようだ。

 前線を任されているロント中隊の後方には雷槍隊機が駐機状態で控え、大型スケルトンの襲来に備えている。大型スケルトンがボルスの中に控えているとは限らないため、どの方角からきても対処できるこの位置にいるのだ。

 俺は対物狙撃銃を肩に掛け、軽く腕周りの柔軟体操をする。


「戦力温存のために待機ってのは分かるけど、暇だな」


 ミツキが頷いた。戦闘に備えて三つ編みにした長い黒髪がぴょこんと跳ねる。


「目の前で戦闘中だからいまいち気が抜けないんだよね。気を張ってる必要はあるから余計に暇を感じちゃう」

「時間が過ぎるのが遅いんだよな」


 緊張しているわけではないが警戒は怠っていない。だからこそ、体感時間が引き伸ばされている。


「歌でも歌おうかな。アニソンとか」

「周りの迷惑になるからやめとけ」

「もう一度戦場の様子でも見て、スケルトンたちにアテレコして暇つぶししよう」


 監視を兼ねた暇つぶしか。よくも次々と思いつくものだ。

 ミツキが双眼鏡を取り出してボルスを見て、首を傾げた。


「防壁の上に白いのが見えたんだけど」

「スケルトンか?」


 ほとぼりが冷めたと思った魔術スケルトンが再び防壁の上から攻撃してくるのだろうか。

 だが、遊離装甲を纏っていたら白いはずはない。甲殻系魔物の殻は赤だし。

 俺も対物狙撃銃のスコープで防壁の上を見る。

 ミツキの言う通り、防壁の上に白い物が見える。

 それが遊離装甲も纏わずに防壁の上に伏せているスケルトンだと気付いた直後、ディアが鳴いた。

 この約一年の経験から反射的に臨戦態勢を取った時、ミツキが乗るパンサーが唸る。


「右から来るよ」

「側面攻撃か。ワステード司令官の言う通りになったな」


 索敵魔術の設定を確認する。野営地を出発した時のまま、範囲は最大になっている。

 おそらく、まだ俺たち以外の誰も気付いてないだろう。


「ミツキは各開拓団に伝令、俺は軍に直接報告してくる」

「分かった。ここで合流ね」


 言うや否やミツキがパンサーを駆けさせ、月の袖引くの下へ向かった。

 俺もディアを発進させ、軍の車両に向かう。

 ロント中隊長やワステード司令官はもう少し前線に近い場所にいる。遊撃部隊を任されている中隊長の方がここからだと近い。

 ディアで駆けこんだ俺に軍人が敬礼する。

 構わずに脇を走り抜け、車両の助手席から俺を見つけて顔を出した中隊長に声を掛けた。


「右から敵の接近反応あり。姿は確認してませんが、とり急ぎ報告まで」

「了解した。伝令、鉄の獣の言葉を聞いたな? ワステード司令官へ伝えろ」


 車両の側に控えていた伝令が敬礼して俺の言葉を復唱し、ワステード司令官の下へ走り出した。

 その間にも、中隊長は遊撃部隊を指揮して軍の右翼側を指揮するべく運転手に車両を動かすよう命じている。

 接近反応を報告した以上、俺の伝令としての役割は終わりだ。

 ミツキと合流しようとディアを反転させた時、防壁の上のスケルトンを思い出した。

 あのスケルトン、防壁の上に伏せて何をしていたんだ?

 狙われやすい防壁の上に遊離装甲さえ纏わずに伏せていたのは何故だ?

 俺は対物狙撃銃のスコープを防壁の上に向ける。

 スケルトンは相変わらずそこに身を潜めていた。

 魔術を使うわけでもなく、空洞の眼で軍を静かに見下ろしている。

 いや、違う。

 空洞の眼から顔だけ出す様に、白い人型がはっきりと俺を見つめていた。

 一瞬にして鳥肌が立つ。

 何か知らないが、あれはヤバい。

 俺が対物狙撃銃の引き金に指を掛けたのと、スケルトンが空高く火球を打ち上げたのはほぼ同時。

 俺の放った弾丸はスケルトンの頭蓋骨の天辺を削って彼方へ飛んでいき、一命を取り留めたらしいスケルトンは防壁の上を這って完全に姿を隠した。


「――ちっ、逃げられた!」


 なんだ、アレ。さっきの火球は何の合図だ。

 状況から考えて、遊撃部隊が動いたことを味方のスケルトンに知らせる合図か?

 だとしたら、右側の接近反応は陽動?

 とにかく、ミツキと合流を――

 ディアのレバー型ハンドルに指を掛けた刹那、視界の端に白い物が迫って来るのに気付いてとっさに頭を下げる。

 風切音を伴って俺の耳の横スレスレを抜けたそれは、すれ違う刹那にカチンと歯を打ち鳴らした。

 スケルトンの頭蓋骨だ。

 頭を下げてなかったら噛み千切られていた。

 だが、頭だけなら何の問題もない。あの速度なら地面にぶつかった瞬間に衝撃で砕け散る。

 そう思って飛んできたスケルトンの頭蓋骨に目を向けた時、風が吹き抜けた。

 この風はよく知っている。自然のものではない、独特の風。何度も浴びて、何もかも吹き飛ばして、幾度となく利用した。

 ――圧空だ。

 頭の片隅でひどく冷静に俺の声が響く。

 同時に脳裏を駆け巡るのは、殿として残ったワステード司令官や雷槍隊士をスケルトンの群れの中から救出した時の事。

 俺はあの救出時にスケルトンたちへ圧空を放っていた。

 学習していたのだ。あの瞬間にも。

 圧空を使用したスケルトンの頭蓋骨は着地点の土を豪快に吹き飛ばし、そこに埋められていた頭蓋骨を欠いたスケルトンの身体と合体する。

 まさかと思って、俺はボルスを振り返った。


「おいおい、冗談だろ……」


 ボルスから、晴れた空を飛んでくるのは白いスケルトンの頭蓋骨。

 宙を飛ぶ頭蓋骨の群れはあまりにも悪趣味でおぞましく、何よりそれがもたらす残酷な未来が容易に想像できた。


「連中、こちらの陣の真っただ中に兵を湧かす気か」


 着地した頭蓋骨があらかじめ埋めてあった体を掘り起こして次々に立ち上がる。

 どれもが圧空を用いた軟着陸をしているという事は、頭蓋骨の中にはもれなく白い人型通称パペッターが入っている魔術スケルトンなのだろう。

 どうせ、頭蓋骨一つに付き体は一つしか埋まってない、なんてことはない。予備の身体がそこいらじゅうに埋まっているはずだ。

 頭蓋骨を破壊しない限り何度でも復活してくるのだろう。

 しかも、場所が悪い。

 俺は素早く周囲に視線を走らせる。

 ここは本陣の中央やや後方、つまりは補給と整備を行う部隊が詰めている場所だ。遊撃隊も出払っているため、ここには整備士や怪我人しかいない。

 スケルトンも狙ってやったんだろう。防壁の上から観察していたのもこのためか。

 本陣への奇襲成功を喜ぶように、スケルトンたちが一斉に歯を打ち鳴らす。

 何体かが地面にロックジャベリンを撃ち込んで土を抉り、タニシ型の中型魔物ルェシの貝殻を取り出す。

 中型魔物だけあって大きなルェシの貝殻を右手に盾のように構え、スケルトンたちは一斉に俺を見た。

 四方八方から向けられる空洞の眼の奥から、仇敵に出会ったような怒りと殺意が溢れ出している。


「前回の戦いで散々お前らの仲間を撃ち殺した凄腕スナイパー様だ。そりゃあ、覚えてるよな」


 俺はディアのレバー型ハンドルを押し込んだ。


「ほら、刮目しようにも目がないだろうが、よく見とけよ」


 どうせ、追いきれないだろうから。

 脚から青い火花が散った瞬間、俺はディアを発進させ、スケルトンを三体纏めて撥ね飛ばした。



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