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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
最終章  世界を都合で振り回す二人
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第三話  一夜城

「始まったな」

「あぁ」


 ミツキと小芝居を挟みながら、遠方にあるボルスから響く戦闘音に耳を澄ませる。

 時刻は昼過ぎ。ワステード司令官は計画した時間通りにボルスのスケルトンたちへ攻撃を開始したようだ。

 俺とミツキを含む開拓者は全員、本日の作戦には参加しない。戦力の温存という意味もあるが、俺が昨夜の軍議でワステード司令官に願ったからだ。

 戦力として参加してくれる人数が不明だったため今まで後回しにしていた防御陣地の作成を本日中に行いたい、と。

 ワステード司令官はたった一日で城を作るという俺の話を疑う事もなく、さっさと手順だけ聞きだして許可をくれた。

 手順は簡単だ。


「鉄の獣さん、森側の最終防壁が完成しました」


 朱の大地の戦闘員が俺たちに報告をくれる。

 視線を向ければ、太い川の向こう岸に高さ三メートル、厚み一メートルの半透明の壁が森に沿って二十メートルほど広がっている。所々に人や精霊人機が抜けるための穴が存在するが、防御陣地としてみればそれなりの強度だろう。

 ミツキと一緒に地図に描いた防御陣地の設計図通りに壁が配置されているかを確認して、朱の大地に休憩を取らせる。

 仲間に休憩の指示を伝えに行く朱の大地の戦闘員と入れ替わりに、青羽根の整備士長がやってきた。


「第一防壁が完成した。材料もまだまだ余裕がある」

「かなり余分に持ってきてたもんな」


 河のこちら側の森に沿って青羽根が作った第一防壁を確認する。設計図と寸分の狂いもない。

 第一防壁は防壁と呼ぶには隙間だらけだ。スケルトンの群れを引き込むため、進行を妨げる事よりも俺たちが駆け込めるように余裕を持たせてある。


「それにしても、よくもこんな奇策を考えついたもんだな」

「本当にできるかどうかは賭けだったんだけどな。材料が揃わない可能性が高かった」


 俺が立てたこの一夜城計画には、スライム新素材が大量に使用されている。

 原料であるスライムそのものが確保できないと大量生産などできないわけで、色々と手を尽くすことになった。

 最終的に、シージェリースライムを代用品に使っている。

 一度フリーズドライしたスライムに水を与えると巨大化する。この巨大化したスライムを原料にしたスライム新素材は水を含むと膨張する。

 故に、俺はこの膨張するスライム新素材を河原で水に浸してから壁材として利用することを考え付いたのだ。

 水を含んでいないスライム新素材は軽く体積も小さい。運搬にはもってこいだ。

 青羽根と月の袖引くの整備車両にスライム新素材を満載した台車を牽引させてこうして現場に持ってきたのである。

 河に放り込んだそばから膨張するスライム新素材をスカイとスイリュウで河岸に引き揚げ、防壁として並べていく。

 急ピッチで構築される防御陣地は作成にかかった時間からは想像もつかない巨大さと頑丈さを兼ね備えていた。


「早くて良いね」

「金は掛かるけどな」


 今回は特許持ちのビスティが月の袖引くにいる事で使用料は免除されているが、他の開拓団や軍がこんなことをしたら金貨が次々飛んでいくだろう。


「スライム、絶滅しないかな?」

「養殖した方が良いかもしれないな」

「お前ら、一応言っておくがスライムは魔物だからな?」


 整備士長にツッコまれて、そうだったと思いだす。


「もう素材か食材としてしか見てなかった」

「またシージェリースライムの胡麻和え食べたいね」

「あれは美味かったよな」


 港町の魔物料理屋で食べたシージェリースライムの胡麻和えは本当に美味かった。あの旨味は他の食材では味わえない。

 ミツキと話していると、整備士長が額を押さえていた。


「スライムに同情する日が来るとは思わなかった」

「いい経験になったか?」

「やかましいわ」


 漫才をしている内に防御陣地が完成した。

 ボルス側の森に沿って作られた第一防壁を抜けると、河の中に作られている迷路状の第一陣地に出る。

 第一陣地に所々ある広い空間は自走空気砲の砲撃地点として設定している。通路を上手く配置してこの広場に誘い込んだスケルトンを砲撃で粉みじんの肥料に変えてやるのだ。

 大型スケルトン、ガシャに体格が近いスカイとスイリュウが各所を通り抜けられるか調べてくれている。


「こんなもんか。問題はガシャの攻撃にどれくらい耐えられるかだな」


 弓兵、四重甲羅、両手ハンマーの三体のガシャはその巨体にふさわしい攻撃力を持っている。

 スライム新素材はそれなりに頑丈だが、ガシャの攻撃で破壊される可能性は高い。

 それでも、通常のスケルトンの侵攻を大幅に遅らせるだけでも戦術的な効果は大きい。


「ガシャに関しては第二陣地へすぐに誘い込んでも構わない。そこでスカイ、スイリュウの二機を主戦力にディア、パンサーの補助で足止めする」


 そのために、第二陣地は広く、スライム新素材の壁は精霊人機の身体が隠れるほどに大きく作ってある。

 青羽根の整備士、戦闘員たちが第二陣地から出てきて、ぞろぞろとこちらにやってきた。


「魔導手榴弾の埋設完了したぞー」

「穴を掘って森まで魔導鋼線を通すの苦労したぜ」

「配線技士になれるな」


 第二陣地の下には魔導手榴弾を埋め込み、スケルトンが一定数第二陣地へ進入してきた場合に作動させ、ガシャと一緒に吹き飛ばすことになっている。


「蓄魔石は?」

「準備だけはしてある。だが、いいのか? あの蓄魔石で魔導手榴弾を起動させると地形が変わるだろ」


 心配そうな整備士長にミツキが人差し指を左右に振った。


「あの魔導手榴弾はギガンテスたちに使った物とはわけが違うんだよ。爆発の方向を指定して、上方向だけ吹き飛ばす様になってるの」


 スカイに使用されている改変圧空の魔術式と似たようなものだ、と教えると青羽根のみんなは納得してスカイを見た。


「指向性の爆発型か。方向を限定する分威力は上がるんだろ?」

「拡散型よりははるかに威力がでかくなる。魔導手榴弾は投げ込む物だから指向性爆発の魔術式は使い道がなかったんだが、マライアさんの考えたこの地雷方式なら有効だ」


 アンヘルとの決闘が決闘場で行われていなかったら、この地雷型を埋めまくって吹き飛ばしていたのに。

 威力は折り紙つきの地雷型だが、ガシャに効果があるかといえば期待は出来ない。

 骨だけとはいえガシャは大型魔物であり、ボルスに保管されている精霊人機用の遊離装甲を纏っている可能性が非常に高い。

 魔力膜だけでも爆発の威力が減衰するのは魔導核を使った実験で分かっている。


「ガシャの遊離装甲を弾き飛ばせれば上出来だと思ってくれ。本命はあくまでもスケルトンを一掃する事にある」

「ボールの奴にも伝えておく。こっちが巻き込まれたら意味がないからな」


 スケルトンとは違って、地雷型の攻撃を受けたら精霊人機はかなりのダメージを受ける。中破しない程度だろうが、乗っている人間が焼け死ぬ可能性だってある。


「水が完全に引いたね」


 河の様子を見ていたミツキが露わになった川底を指差す。

 砂利だらけの川底を眺めてから、俺は上流を見る。

 レムン・ライさんを先頭に、月の袖引くの面々がこちらへ歩いてきていた。


「上流の堤防構築が終了いたしました」


 レムン・ライさんが報告してくれる。

 ここからでは距離があるため堤防を確認できないが、河の水が引いたからには万事滞りなく済んだのだろう。


「細工は流々、だね」

「使わないに越したことはないけどな」


 レムン・ライさんたちが上流に設置した堤防は水をせき止めて防御陣地での戦闘を容易にする他に、スケルトンが第二陣地を突破する可能性が高い場合に決壊させ、スケルトンを下流に洗い流す水攻めの保険としての意味がある。

 ガシャには効果がないだろうが、第二陣地が突破されかけている状況ではスケルトンのほとんどが第一、第二陣地に集まっているため、水攻めで戦場から洗い出してしまえば、俺達人間側はガシャに攻撃を集中できる。

 水攻めで俺たちまで流されては意味がないため、最終防壁は水から身を守れるように作ってあった。


「準備も出来たし、そろそろワステード司令官たちと合流するか」


 開拓者たちを集合させて、俺はディアに飛び乗った。



 夜、昨晩と同じ野営地で国軍と合流した俺たちは軍議に呼ばれ、天幕に顔を出した。

 すでに他のメンバーはそろっていたため、俺とミツキが席に着くと同時に前置きもなくワステード司令官が本日の戦闘の戦果を報告する。


「ガシャは討ち取れなかったが、スケルトンを四十ほど撃破した。この内、ボルスの防壁上に出てきた魔術スケルトンが十三体だ。頭蓋骨の破壊を確認したのは二十四体」


 資料を見ながら、ワステード司令官は報告し、俺たち開拓者を見て戦闘の推移を話してくれる。


「我々は計画通り昼にボルスへの攻撃を開始、崩れた防壁を塞いでの戦闘を行った。スケルトン側の反応は鈍かったが、ガシャ三体はすぐに戦闘へ参加、雷槍隊が出撃してこれに当たった」


 この戦闘で雷槍隊機が一機中破したものの、操縦士に怪我はなく機体も現在修理中。明日には出撃可能だという。

 戦闘は夕方まで続いたが、どちらも戦線を維持して攻め込む事はなかった。

 整備車両や運搬車両の荷台から照準誘導の銃架を用いて狙撃していた狙撃手たちの存在に気付いたスケルトン側が防壁の上から魔術攻撃を仕掛けようとするも、事前に森の中に分散配置されていた別働隊の狙撃手たちが始末したという。

 戦闘の後半ではスケルトン側も警戒したのか、防壁上には出てこなかったようだ。


「今回は昼に攻撃を仕掛けたため夜行性のスケルトンの動きは鈍かったが、明日以降はスケルトン側も襲撃に備えていると予想される。今夜は夜襲を警戒しつつ体を休めるように」


 ワステード司令官からは以上らしい。


「一つ質問をよろしいですか?」


 タリ・カラさんが片手を挙げて発言の許可を求めた。

 ワステード司令官に視線で先を促され、タリ・カラさんは続ける。


「新大陸派の動きはどうなっていますか?」

「本日戦闘を行った事をマッカシー山砦に伝えてある。動くとすれば明日になるだろうな」


 ワステード司令官は俺たち開拓者を見回して、続ける。


「二日以内に新大陸派が動くと考えて、備えておいてくれ。防御陣地の構築は済んだのだな?」

「えぇ。終わってます」


 終わっているのだが、二日もかかるとすれば堤防の拡張をしておく必要があるかもしれない。念のため、定期的に確認はしておくつもりだったが。

 軍議を終えて天幕を出ると、空は雲に覆われて星ひとつ見えなかった。

 嵐の前の静けさ。そんな言葉が脳裏を過ぎったが、口には出さない。

 準備は整えた。過信するつもりはないが、多少の異常事態には対処できるだろう。



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