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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第一章  何故に、彼と彼女は手を離さないか
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第十五話  港町の状況

 ギルドに戻った俺たちはデイトロさんに合流した。

 デイトロさんはずっと席に座っていたらしく、気を利かせた職員さんが運んできたサンドイッチを齧っている。


「良い物を食べてきたような顔をしているじゃないか。デイトロお兄さんは疎外感と一緒に湿気ったサンドイッチを味わっているというのに……」

「回収屋の皆さんと行ってきたらどうですか?」


 言い返して、芳朝がギルドの裏手を指差した。ギルドの裏手には精霊人機や整備車両を持つ開拓団に開放された駐機スペースがある。回収屋の面々もそこで待機しているはずだ。

 デイトロさんはサンドイッチの最後の一欠片を口に放り込む。


「親睦を深めたいのに君たち二人がその場にいないんじゃ意味がないだろう?」


 愚痴を言って、デイトロさんがコップの水を喉に流し込んだ時、職員さんがやってきた。

 書類とメダルのようなものを持って席に着いた職員さんが、俺たち三人にそれぞれメダルを差し出してきた。

 受け取ったメダルを観察する。ギルドのマークと数字が刻印されていた。


「これ、なんですか?」

「権利書のようなものだと思ってください。受付でそれを提示していただければ、特定のサービスを受けることができます。お二人の場合は精霊人機の部品購入の代行業務ですね」


 紙よりも保管などが楽だからと、メダルになったらしい。

 芳朝が親指でメダルを上に弾き、手の甲に乗せてもう片方の手で隠して俺に突き出した。


「どっちだと思う?」

「表」


 適当に答えると、芳朝は手の甲を見せる。メダルは乗っていなかった。


「正解は無しでした」

「隠していた方の手に握りこんでるだろ。卑怯だぞ」

「有るか無しかを聞いているのに表って言われても困惑しちゃうよね」

「誤魔化すな」


 じゃれ合っていると、デイトロさんに同様の説明をし終えた職員さんがわざとらしく咳払いした。

 じゃれ合いを止めて職員さんに向き直ると、デイトロさんがテーブルに頬杖を突いて俺に声をかけてきた。


「仲良いなぁ。羨ましいなぁ。デイトロお兄さんとも遊んでほしいなぁ」


 芳朝がデイトロさんを横目に見て、首を傾げる。


「転生したらワンチャンあるかもですね」


 確かに、転生して前世の記憶を持っているなら仲良くなれるかもしれない。

 だが、芳朝の言葉は字句通り、いっぺん死んでから出直せと言っているのと大差がない。

 デイトロさんが肩を竦めた。


「キッツいなぁ。二人はデイトロお兄さんと回収屋をやるつもりはないって事かな? うちは整備士が欲しくてたまらないんだけど」

「無理ですね。お話しできませんけど、今後の予定もあるので」

「そうか、残念だなぁ」


 芳朝がにべもなく断ると、予想していたようにデイトロさんはあっさり引っ込んだ。

 職員さんが書類をテーブルの中央に広げる。


「お三方の証言を確認させていただきます」


 職員さんが同情的な目をデイトロさんに向ける。


「単刀直入に問いましょう。本当にデュラでマッカシー山砦からの回収部隊に遭遇したのですか?」

「軍の回収部隊であることは間違いない。他には?」

「いえ、結構です。ファーグさんたちも証言に変わりはありませんね?」


 職員さんに問われて、俺は少し考える。


「直接回収部隊を見たわけではありませんが、デュラの南側で戦闘が始まったのは確かです」


 ありのままを証言すると、職員さんは紙に証言内容を書き込んで確認を求めてくる。

 証言内容に間違いがないことを署名すると、職員さんが頭を下げてきた。


「マッカシー山砦に問い合わせていますが、おそらく白を切られます。開拓者としての評価に影響は出ませんが、この町での仕事が少しやりにくくなると考えてください」


 依頼を放棄して、言い訳に軍の介入があったと嘘を吐いた可能性があると思われているらしい。

 デイトロさんが腕を組んだ。


「マッカシー山砦の司令官はホッグスだったね。覚えておくとしよう」


 煮え湯を飲まされたため、デイトロさんは件の司令官がかかわる依頼を受けない意思を固めたらしい。

 俺と芳朝の場合はマッカシー山砦に行ってバランド・ラート博士に関する調査をする予定があるため、ホッグスという司令官を殊更に避けるつもりはない。それでも、印象は悪い。

 とはいえ、まだマッカシー山砦側が白を切るとは限らないのだから、判断は保留としよう。

 報酬の内訳と減額についての説明をされて、納得の上で話を終えた。

 俺はさっそく職員さんに精霊人機用の部品を購入したい旨を伝える。


「係の者を呼んできますので、しばらくお待ちください」


 職員さんが席を立つと同時に、デイトロさんも立ちあがった。


「それじゃあ、頼りになるデイトロお兄さんはここで失礼しようかな。二人とも、気が変わったら何時でもうちにおいで。歓迎するよ」


 どこかに整備士は落ちてないかなぁ、と呟きながら、デイトロさんが壁際で何かを話し合っている開拓者の集団に近付いて行く。次の仕事先を決めるための情報収集をするらしい。

 芳朝が肩を叩いてくる。


「お金は持っているから良いけど、組み立てるならそれなりに広い場所が必要になるし、工具類も買い揃えないといけないね。家でも借りる?」


 女の子と二人暮らしは魅力的な提案だったが、いかんせん時期と場所が悪い。


「デュラの連中がまだ俺たちを狙ってるかもしれない。対策を立てるまでは宿で暮らそう」

「対策って言っても、何があるの? 護衛でも雇う?」


 相手が金を持っていない以上護衛を買収されることはないと思うけど、俺が護衛との仲を悪化させる可能性が高いので却下する。

 一口に開拓者といっても、リーゼさんたち開拓団〝竜翼の下〟やデイトロさん率いる回収屋のような人間的に良くできた人たちばかりではないのだ。金に目がくらんで後ろから襲われないとも限らない。

 それに、精霊獣機を真似されるのも避けたかった。有用かどうかも未知数だが、俺と芳朝が開拓者として有名になるためのキーアイテムである以上、出し抜かれる事態は避けたい。


「魔術で防犯できるように何か考えてみよう。応用すれば野宿するときにも役に立つだろうし」

「分かった。マッピングの魔術式を弄って索敵の魔術式にしてみるよ。範囲内に動く者がいれば警報を鳴らすような魔術にしてみる」


 簡単そうに言って、芳朝が紙の端にペンを走らせる。

 実際、芳朝にとっては簡単なのだろう。

 芳朝が開発したマッピングの魔術式は精霊人機の持つ遊離装甲を維持する魔術式をベースに構築したもので、指定された空間内に魔力の力場を張り、空間内のあらゆる物体を遊離装甲として仮定して、魔導核を中心としたX,Y,Z座標を割り出し、モニターに表示する魔術だ。

 この魔術を連続使用して、事前にモニターに表示した物体の位置とのズレを読み取ればマッピングならぬサーチの魔術式に変貌する。

 さらに、サーチの魔術式が刻まれた魔導核に近い場所で位置ずれが起こった場合に警報を鳴らせば、簡易警報器の完成だ。

 とまぁ、俺でも手順くらいならばわかるのだが、それを魔術式にしろと言われるとお手上げだ。魔導核の設定を行う整備士ならば造作もないのだろうけど……。

 芳朝が索敵の魔術式を書いている間に代行業務の係員と話をする。

 精霊人機の部品である魔導核や指のパーツなどをいくつか購入することに決めて、値段を計算する。


「……意外と魔導核が安いな」


 開拓団〝竜翼の下〟で整備方法を教わっていた時に聞いた魔導核の値段よりも一割近く値下がりしている。元が非常に高価な物なので、一割の値下げが非常に大きい。

 精霊人機の魔導核は大型の魔物が稀に体内に発生させている魔力袋を加工して作るため安定供給が難しい代物だ。ごく稀に中型魔物から得られることもあるというが、大概は品質が見合わない。

 簡単に値下がりするものではないだけに一人首を傾げていると、係員が教えてくれた。


「最近になって、ガロンク貿易都市に魔導核が持ち込まれるようになったんですよ。それで魔導核に余裕が出ているんです。まぁ、今だけだと思いますけどね」

「軍や国が買い取って量を調整しないんですか?」


 魔導核の使い道はいくつもあるが、高品質な物となると精霊人機へ使われることを避けるために国が制限を掛けそうなものだ。

 魔物に対する兵器としての認識が強い精霊人機だが、数が揃えば革命だって起こせるだろう。

 係員さんは首を横に振った。


「出回っている魔導核のほとんどはコンロで火を起こすのに使うような、魔術式を二つか三つ同時起動するのがせいぜいの粗悪品です。まぁ、精霊人機に使える魔導核を砕く必要がなくなったので、こうして価格に影響が出ていますけどね」

「それじゃあ、高品質の魔導核の供給量自体は変わってないという事ですか?」

「例年より多いのは確かですけど、それだけですね。去年や一昨年はいくつかの開拓団が本格的な活動をしたので、魔物の討伐数も多かったんです。結局のところ一番多くの魔物を討伐したのは軍で、防衛拠点ボルスに駐留している雷槍隊ですね。私、雷槍隊のファンなんですよ」


 話が逸れそうだったので軌道を修正しつつ、俺は魔導核を予備も含めて四つ買う事にした。もっとも、半分は芳朝が代金を払うから、俺が買うのは実質的に二つだけだ。それでも結構な出費である。


「若いのにお金持ちですね」


 係員さんが驚いているが、俺の資金もそろそろ底をつきそうだ。もともと開拓学校への入学金その他のために渡されたお金で、精霊人機の部品を買うのは予定外だったのだから。

 俺も芳朝に倣って何か発明した方が良いかもしれない。一応構想はあるが、この世界で実現できるだろうか……。

 購入のための書類を提出して、代金の二割を払う。物が届いてから、残りの八割を払えばよいとの事だった。

 品物が着いたら知らせてくれるとの事で、俺は芳朝と一緒に席を立ってギルドを出る。


「人通りの多い道を行こう」


 そろそろ俺たちが帰って来た事をデュラの人々も嗅ぎつけているはずだ。

 尾行に注意しながら二人で歩く。

 回収依頼に出発した前と比べると、町からギスギスした空気が消えているように見えた。

 料理屋を覗き見ても、デュラからの避難民らしき人影がない。

 人が減った理由は、宿の主人が教えてくれた。


「近くの開拓地が人手不足だとかで、デュラの避難民が送り込まれたんですよ。ギルド側としても町で問題を起こされる前にどこかよそへ追いやりたかったんでしょうな」


 詳しく話を聞くと、どうやら開拓団〝竜翼の下〟が依頼を受けて駐留している新規の開拓地に畑を広げる労働力としてギルドが派遣したらしい。

 戦闘技能が無くてもお金を稼げるうえに、働き次第では開拓した土地を貰って暮らすこともできる待遇に加え、防衛依頼に定評のある開拓団が駐留しているとあって、デュラの避難民が我も我もと群がったようだ。

 金目当てで襲われるんじゃないかと身構えていた俺たちは拍子抜けしたが、それでも町に残っている避難民もいるとの話を聞いて気を引き締める。

 鍵を受け取って二階に上がり、部屋に入る。借りっぱなしの部屋には荷物がちゃんと残っていた。


「芳朝の作っている警報の魔術式が完成したらガレージ付きの家を借りて精霊獣機を作り始めよう」


 了解と返事して、芳朝がベッドに寝転がる。

 魔術式を書きつけた紙をベッドの上に広げているところから察するに、寝ころびながら魔術式を開発するようだ。

 俺も開発するとしよう。

 魔術式の教科書を開いて、俺は圧空の魔術式に手を加えてからとある銃の開発を始めた。

 これが終わり次第、ようやく精霊獣機の開発に取り掛かれるのだと思うと、設計図を描く手にも力が入った。


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