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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
最終章  世界を都合で振り回す二人
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第一話  各魔物の仮名称

 マッカシー山砦の前にワステード司令官率いるボルス奪還軍が集結していた。

 精霊人機は雷槍隊機の五機、ワステード司令官専用機ライディンガルの他、軍の汎用機が五機、開拓者からは青羽根のスカイと月の袖引くのスイリュウが出ている。


「やっぱりこうなったか」


 ボールドウィンがボルス奪還軍を見回して呟く。正確には開拓者の部隊だ。

 ボルス奪還軍に参加している開拓者は青羽根、月の袖引く、凄腕開拓者が立ち上げた歩兵だけの開拓団〝朱の大地〟と何人かの飛び入り参加の開拓者。それと鉄の獣こと俺とミツキ。

 戦力的には心もとないが、新大陸派の間者がいない事はまず間違いない。


「声を掛けた開拓団は現場を動けないか、新大陸派の決起に合わせて動くことが決まった時点で嫌な予感はしてたけどさ。この辺りで活動中の開拓団が参加してくれないかと少し期待してたのに」


 当てが外れた、とボールドウィンが愚痴る。

 タリ・カラさんとレムン・ライさんも難しそうな顔をしている。


「この戦力でスケルトン部隊を引きつけるのは難しいですね。例の防御陣地はこの人数でも機能しますか?」


 タリ・カラさんの言葉が指しているのは俺とミツキが先行してボルス近くの河に仕掛けておいた自走空気砲などで作られる陣地の事だろう。

 ミツキが自信満々に胸を張る。


「もともと、私とヨウ君、青羽根と月の袖引くだけで機能するように設計してるからね。レムン・ライさんも大丈夫って言ってたし」


 そうですよね、とミツキが水を向けると、レムン・ライさんは静かに頷く。


「遠距離に対しても自走空気砲の備えがあるだけでも大きいですね。これから、魔導手榴弾を埋めた地雷原と呼ばれる地域も作りますから、人数の関係で苦戦は必至でしょうが、蹂躙されることはないかと思います。後は采配次第でしょう」


 タリ・カラさんはレムン・ライさんの言葉に安心したのか、ほっと息を吐いて俺たちを見る。


「采配に関しては合議の形を取ることになりますが、最終決定権や現場における指揮は鉄の獣のお二人にお任せします」

「俺たちでいいんですか? レムン・ライさんの方が適任では?」

「レムン・ライは我が団の戦闘員を率いてもらいます。私やボールドウィンさんは精霊人機で前線に立つ以上、全体に目を配っている余裕がありません。他の方では実績が足りませんから、鉄の獣のお二人が適任です」


 タリ・カラさんがボールドウィンの意見を問うように視線を向ける。

 ボールドウィンは頭を掻いた。


「というか、地雷原だっけ。アレの威力を知ってるのは人型魔物の群れと戦った俺達くらいのもんだ。自走空気砲に至っては射程からして他の連中の手に余る。防御陣地を活用するならコトたちに任せるのが正しいだろ」

「それでいいなら、そうしよう。ただ、意見はくれよ。精霊人機の戦い方なんて俺たちは実際に経験してないからな」

「その辺は任せろ」


 後で凄腕開拓者の二人が率いる開拓団〝朱の大地〟にも話を通しておいた方がよさそうだ。

 話をしている間に、ワステード司令官が全軍の正面へ愛機ライディンガルに乗って現れた。

 出発前に演説の一つでもして士気を高揚させるのだろう。

 ライディンガルの拡声器越しにワステード司令官の声が聞こえるが、興味がないので無視する。狙撃手が高揚して冷静さを欠くわけにはいかない。

 ワステード司令官がこの作戦のために用意した狙撃手はどうだろうかと、軍の様子を窺う。

 軍の狙撃手は大体五十人ほどだろうか。もっとたくさん訓練していたし、俺も何度か意見を求められたのだが、ものになったのは五十人だけらしい。

 照準誘導の銃架が荷台に取り付けられた整備車両、運搬車両が全部で十台。二人一組で休憩しながら狙撃に専念するのならば、あの車両に二十人が配置されるだろう。

 残りの三十人十五組は予備人員とゲリラ的に森の中から狙撃するはずだ。照準誘導の銃架は重たい上にかさ張るため森の中では持ち運べない。つまり、森の中から狙撃する者達の命中率は低く、牽制の意味合いが強いと考えた方が良い。

 それでも、展開した軍とは違う場所から狙撃されればスケルトンたちも混乱するだろう。あいつら、狙撃手の位置を特定してから魔術で集中砲火してくるし。

 狙撃手が潜んでいそうな辺りをまとめて吹き飛ばすのは理に適っているけど、やられる方はたまったもんじゃない。そういう意味で、スケルトンの狙撃手潰しが分散するゲリラ的な狙撃手部隊の存在はありがたい。

 同じように軍を見つめていたミツキがため息を吐いた。


「やっぱり、軍は自走空気砲の開発まで手が伸びなかったみたいだね」

「あれは結構金がかかるし、魔導核の設定に技術力が必要だからな。でも、軍が使うとスケルトンが対処方法を覚えて防御陣地での効果が減るから、これはこれでよかったのかもしれない」


 そう割り切って考えるしかないだろう。


「コトから見て、軍の狙撃手の腕はどんな感じだ?」


 ボールドウィンに話を振られて、俺は訓練風景を思い出す。


「あれだけの人数がいれば、頼りになると思う」


 照準誘導の銃架を使えば、大体六百メートルくらい先の小型魔物を八割くらいの確率で即死させられるくらいか。

 八百メートルを超えると照準誘導の銃架を使ってもまず当たらない。

 ちなみに俺は八百メートル先までなら百発百中を狙える。ディアの照準誘導は量産品とは違うのだよ。

 話していると、俺たちのところへ駆けてくる青年の姿があった。

 ベイジル大好きっ子ツンデレ野郎、いわゆる整備士君である。


「ワステード司令官からの伝言だ。開拓者は新大陸派が動き出すまで温存する。英気を養っておけ、との事だ」

「了解。というか、整備士君も新大陸派の事は知ってるんだな」


 情報漏えいの危険を考えて、末端には知らされていないと思ってたんだけど。

 整備士君は不本意そうに眉を寄せた。


「なんだよ、整備士君って……。自分はお前たちとの面識があるから、連絡役に選ばれたんだ。……ベイジルさんも退役しちまったし」

「あぁ、退役したベイジルを偲んで一人称が〝自分〟なのか」

「う、うっせぇ!」


 顔を赤くした整備士君がそっぽを向く。


「ツンデレ乙」


 ミツキがグッジョブとばかりに親指を立てて整備士君を煽る。

 話が進まなくなりそうなので、俺は話題の軌道修正を図った。


「新大陸派関連は全部知ってるのか?」

「もしかするとこの作戦行動中に決起して、マッカシー山砦を奪いに来るかもしれないってことまでは聞いてる」


 整備士君は状況をあらかた知っているらしい。

 とはいえ、他の旧大陸派の兵士たちだって、前回の撤退戦におけるホッグスの動きから何かおかしなことが起こっていることくらいは察しているだろう。


「新大陸派の決起後にワステード司令官たち旧大陸派の軍はスケルトンを放置してマッカシー山砦に向かう事になるけど、順調に進みそうか?」


 敵は本能寺にあり、じゃないけれど、そう簡単に後ろに向かって進撃できるほど軍というのは身軽じゃない。

 そう思って、旧大陸派軍のまとまり具合を訊ねたのだが、整備士君は少し考えて首を縦に振った。


「自分に話があったくらいだから、中隊長くらいまでは意思がまとまってるはずだ。前回の撤退戦を生き残った小隊長たちが格上げされて中隊長になってるから、信頼も厚い」


 そういえば、旧大陸派軍はリットン湖における超大型魔物の襲撃を受けた時点で中隊長格が軒並み戦死しているんだった。


「小隊長からの繰り上げという事はロント小隊長も中隊長になったのか?」

「なってる。でもなんというか、中隊長になった人たちみんな苦い顔してたのが印象的だった」


 まぁ、あの撤退戦を生き残ったぐらいだ。昇進する事が良い事ばかりじゃないと分かってるんだろう。

 それでも辞退しなかったのだから、責任感のある人たちだと思ってよさそうだ。


「そうだ。撤退戦で確認された新種の魔物について、名称が仮決定した。いまのうちに教えておく」


 整備士君が紙を取り出して、読み上げる。

 カメ型の超大型魔物はクーラマ、大型スケルトンはガシャ、未だ俺しか目撃していない白い人型魔物についてはパペッターの名が当てられるという。

 ミツキが不満そうに頬を膨らませた。


「なんで大型スケルトンの名前が交通訴訟賞じゃないの?」

「言いにくいからだ。戦場で一々コウツーソショーショなんて言ってられるか」


 なるほど、すごい説得力だ。練習していたらしい整備士君でさえ噛みっ噛みである。

 ミツキは整備士君の無様さに機嫌を直したのか、にやにやし始める。


「そうだねぇ。交通訴訟賞、なんて言えないよねぇ。交通訴訟賞なんてさ」


 あ、違うな。自分が付けた名前をないがしろにされて根に持ってるだけだ、コレ。

 証拠に、ミツキの眼が笑っていない。

 よせばいいのに、整備士君も負けず嫌いらしい。


「そうだよ。コウツ……ッ痛え」

「ざまぁ!」


 舌を噛んだ整備士君を指をさして笑うミツキが、お手本とばかりに口を開く。


「舌が不器用だね。交通ソショ……っ」


 ミツキが突然口を押さえて、羞恥に真っ赤になった。

 涙目になって、ミツキは俺の後ろに隠れる。

 俺の背中に顔を埋めてくるミツキを肩越しに振り返り、声を掛ける。


「なに可愛い事してんの?」

「うぐぐ……」

「抱き着いてきても誤魔化されないから。しばらくこのネタでからかうつもりでいるから」

「ぐぬぬ……」


 ボールドウィンとタリ・カラさんが呆れの視線で見てくるのがさらに羞恥心を煽ったらしく、後ろから俺の腹に回したミツキの腕に力が入る。

 整備士君が何とも言えない顔した。


「引き分けのはずなのに、目の前でいちゃつかれると負けた気分になるのはなんでだ……」



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