第二十五話 大人しい改造
青羽根のメンバーを集めて、再び黒板に向かう。
「スカイの改造計画について、話そうと思う」
青羽根の精霊人機スカイは圧空の魔術を随所に使用した新型機である。
圧縮空気を生み出すため魔力消費量が大きく、継戦能力が少々低いのが難点だ。戦闘に入らない限りは魔力消費量が少ないのだが、今回の相手はスケルトン種の群れであるため、長い戦いが想定される。
「魔力消費量を抑えるため、まずは圧空の魔術を改造する」
圧空の魔術は俺が魔術式について学んだその日に発明した物である。いまとは知識量などで雲泥の差があり、改善の余地が残されていた。
とはいえ、圧空の魔術を改善したところで消費を抑えられる魔力は微々たるものだ。
それほど無茶は言っていないからだろう。整備士たちは素直に聞いている。
俺は一つ段階を上げてみることにした。
「次にハンマーを専用装備に変更する」
「――おぉ!」
反応したのはボールドウィンだ。ちらちらとスイリュウの専用装備である流曲刀に視線をやっている。
ボールドウィンの反応に苦笑した整備士たちが、俺に先を促した。
「それで、どんな風に改造するんだ?」
「まずは改造の目的から説明したい」
俺の目配せを受けて、ミツキが黒板に紙を張り付け、口を開く。
「スカイに求めるのは面制圧能力だよ。今回の敵になるスケルトン種は頭蓋骨を破壊しない限り何度でも再生してくる厄介な魔物だから、小型スケルトンが相手でも同数の歩兵では分が悪いのは知っての通り」
ボルス防衛戦やその後の撤退戦における歩兵の被害は甚大だった。
大型スケルトンの攻撃も強烈だったが、戦線を維持するために引く事の出来ない人間側の歩兵に対し、スケルトンは痛みを感じないその体で物量作戦を展開したためだ。
頭蓋骨を破壊されない限り活動し続け、さらには味方の屍から必要な骨を補充して即時復活してくるスケルトンはそれだけで脅威だが、後方から魔術を放ってくる白い人型付きのスケルトンも厄介だった。
これらの小型スケルトンに対して有効な攻撃が、スカイの扱っているようなハンマーだ。上から振り降ろせばスケルトンの骨を粉みじんにすることができ、ただ頭蓋骨だけを破壊するのと違って骨の再利用まで封じることができる。
スケルトンの群れの物量攻撃、不死身のゾンビアタックを防ぐ効果があるのだ。
意義を説明すると、整備士の一人が手を挙げた。
「ハンマーをより大きなものにするって事か?」
「いや、ちょっと違う。単純にハンマーを大きくしてしまうと空気抵抗も大きくなって振り回すのに余計魔力を使うからな」
そこでこの商品ですよ、奥さん。
俺は黒板に張られた紙を軽く叩く。
「空気抵抗を減らせば取り回しもたやすくなる。しかし、面制圧能力を上げるのならどうしても打撃面積を広げるしかない」
「二律背反だね」
ミツキが入れてくれた合いの手に「その通りだ」と返し、続ける。
「だから、振り降ろす直前にだけ打撃面積が広がる様にすればいい。つまり、変形式のハンマーだ」
現在のハンマーの側面に展開式の鋼板を張り付け、自走空気砲にも使用した折り紙式遊離装甲の要領でインパクト直前に展開、打撃面積を大幅に増やす算段である。
これを用いれば空気抵抗は振り降ろした直前にしか影響しないため、今までとほぼ同じ感覚で振り回すことができる。展開式の鋼板はハンマー本体よりも強度に乏しく壊れやすいが、鋼板が壊れてはじけ飛んでも大本のハンマーに影響しないのもいい。
「それくらいならすぐにでも取りかかれるな」
整備士長が腕を組んで、ボールドウィンを見る。
「ボール、ハンマーの展開時の形で何か意見はあるか?」
「そうだなぁ。正面に振り降ろすなら扇形に押しつぶせる形が良いな」
ボールからの注文も出たところで、ハンマーの形に関しては決まり、作業に取り掛かってもらう。
俺は圧空の魔術式の改良版を整備士長に渡した。
魔術式を流し見て、整備士長がため息を吐く。
「基本の圧空の魔術式を知らないと何が何だかわからないな。容量は確実に節約できるし、魔力消費量も軽減してるが、一般人には理解不能だろ、これ」
「良いんだよ。どうせ公開するようなものでもないんだからな」
スカイの根幹をなす技術だけあって、ブラックボックス化できるならそれに越したことはないのだ。
それもそうだが、と整備士長は頭を掻いた。
「まぁ、いい。それにしても、今回はずいぶんと大人しい改造になったな。正直、どんな突飛な発想が飛び出すのかと身構えていたんだが、安心したぞ」
「え?」
「え?」
何言ってんのこいつ、と思いながら、俺は整備士長の顔から視線を外し、他の青羽根の団員を流し見る。
どいつもこいつもほっとしたような顔して和気あいあいと改良に取り組んでいる。
どうしようか。真実を言うべきだろうか。
俺が悩んで沈黙していると、整備士長が頬をひきつらせる。
「ちょっと待てよ。なんだその沈黙は。スカイはコト達が全力で改造した機体だし、弄る所が少ないんだろう? なぁ、そうなんだろう?」
「うーん。とりあえず、今は安心して準備に取り掛かってくれ」
「おい、準備ってなんだ。これから何をするつもりだ、お前は」
「ギルドに行ってくる。ミツキ、一緒に行こうぜ」
ミツキを誘って倉庫を出る俺を、整備士長だけが頭を抱えて見送ってくれた。ボールドウィンは専用装備と聞いてわくわくした顔でハンマーを眺めている。
ディアをギルド館のガレージに乗りつける。
しかし、このラブホ感はいつまで経っても払拭されないな。周りの人は全く気にしてないし、これが先入観という奴なのだろうか。
精霊獣機とは逆に、俺たちが受け入れられない代物である。文句を口に出すつもりはないけれど、ついつい中に入る時には顔を伏せてしまう。
掃除の行き届いたギルド館の中には何人かの開拓者の姿がある。見知った顔もいくつかあった。
その中の二人、凄腕開拓者が俺たちを見て片手を挙げ、挨拶してくる。
「鉄の獣もワステード司令官に呼ばれてボルス奪還作戦に参加ですかな?」
「そんなところです。お二人も?」
「えぇ、開拓団として初めての大きな依頼ですからな。とはいっても、団員は皆あの戦場を戦い抜いた者ばかりですが」
そう言えば、スケルトンや甲殻系魔物たちからボルスを防衛している時、生き残ったら開拓団を立ち上げるって話してたな。
無事に開拓団を設立できたのか。何というフラグブレイカー。
凄腕開拓者が立ち上げたフラグブレイカーな開拓団は全員が歩兵で構成されているとの事で、スケルトン戦では小型スケルトンへの対処を担当することになりそうだという。
これからマッカシー山砦へワステード司令官を訪ねるという凄腕開拓者二人を見送って、俺は精霊人機の部品購入代行の係員を探す。
奥の部屋に続く廊下から出てきた係員が俺たちに気付いて歩いてきた。
「どうされましたか?」
「いくつか部品を購入したり、ライグバレド宛てに手紙を出したりしたいんです。発注書と依頼書の準備をお願いします」
係員はすぐに受付カウンターへ出向き、必要な書類を持って俺たちを近くのテーブルに案内してくれた。
「部品の購入との事ですが、本日は何を?」
「精霊人機用のエアリッパーを取り寄せてほしいんです。それから、内部装甲用のパーツの一覧を見せてください」
「内部装甲用のパーツですか? もしかして、また新型機を作ろうとしてませんよね?」
「作ろうと思って作れるものではないですよ」
「お二人なら作ってしまえるから訊ねているんです。飛蝗のマライアさんへも手紙を出した方が良いのでは?」
「それについては青羽根と相談してからにします」
俺の答えに係員は頷いて、書類と一覧をテーブルに乗せた。
「ひとまずは内々に処理しますが、改造を始める前には相談の結果を教えてください」
「ありがとうございます」
内部装甲用のパーツ一覧を眺めつつ、俺はライグバレド宛ての手紙を出す依頼書をミツキに任せる。
「えっと、金属関係の工房は、と」
ミツキが手帳を開いて宛先の住所を確認し、手紙に認める。
係員が不思議そうな顔をして口を開いた。
「技術祭で知り合った方への手紙ですか?」
「そうです。いくつかの部品の作成をお願いしたいので、向こうに手紙を出そうかな、と」
「順調に人脈を広げているようで、何よりです」
係員はそう言ってほほ笑むと、依頼書を受理した。
ミツキが続けて部品発注の書類を取りだし、スカイやスイリュウの改造とは別件で用意する兵器の部品を発注しにかかる。
俺もまた、いくつかの部品を発注する。
係員の笑顔がだんだんと引きつって来た。
「――何が、作ろうと思って作れるものではない、ですか。こんなの新型作る気満々ではありませんか!」
内容が内容だけに声を張り上げるわけにもいかず、しかし、こらえきれないとばかりに係員が言いだす。
「誰が作らないと言いました?」
「まったく、これだから……」
係員はため息を吐いて、いつでもマライアさんに連絡が取れるようにしておくと言って発注書を受理した。
依頼や注文を出し終えて、ギルドを出る。
倉庫へ向かう道すがら、俺はスカイが新型機へ変貌を遂げた経緯を思い出す。
「あの時ってさ。デュラ奪還作戦の直前で、改造に失敗した時にはいつでも元に戻せるようにって条件で改造したんだよな」
「そうだね。だから、改造の余地はまだたくさんあるよね」
ミツキが楽しそうに声を弾ませる。
そう、スカイは可逆的な改造を経て新型機になったのだ。
俺たちとしても初めて触る精霊人機だったし、失敗しないように、失敗しても大丈夫なようにと考えていた。
青羽根の団員たちだって俺たちへの信用はなかったし、何より俺達の発想や技術に付いて行けるだけのノウハウも心構えもなかった。
では、今回はどうだろう。
「元に戻らなくなったって、別にいいよな?」
「スカイが強くなれば、なんでもいいんじゃないかな。青羽根のみんなもきっと賛成してくれるよ」
「そうだな」
ミツキの輝かんばかりの笑顔に自信を取り戻した俺は、倉庫への帰路を進んだ。




