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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第六章  世界の都合に振り回された二人

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第二十四話  スイリュウの改造案

「スイリュウに足りないのは防御力だと思うんだ」


 俺の問題提議にタリ・カラさん達月の袖引くの面々が一斉に頷く。ちなみに青羽根は資材の買い出しに出ているため倉庫にはいない。


「スイリュウの特徴はウォーターカッターを使った対単体向けの攻撃力だ。攻撃範囲が狭く、相手が複数の場合は被弾を避けるために回避に気を取られ、攻撃力を生かせない。そこで、多少の被弾を覚悟の上で攻撃に転じることができるように防御力を上げようと考えている」


 黒板をコツコツと叩いて説明し、月の袖引くの了解を得る。

 月の袖引くの前団長は精霊人機乗りで、戦死したと聞いている。精霊人機が攻撃を受けることに恐怖心があるかもしれないと思ったが、タリ・カラさんはあっさりと防御力の強化に同意した。


「極力被弾を避けるのは当然ですが、精霊人機が避けてばかりでは戦線が安定しません。踏みとどまって戦う事ができる防御力は必要になりますから。私は今回の改造目的に賛成です」


 タリ・カラさんを皮切りに、副団長のレムン・ライさん、月の袖引くの整備担当者が同意する。


「それじゃあ、具体的な改造計画に移るね」


 ミツキが黒板にスイリュウの設計図を張り付けた。


「まずはスラスターが邪魔だと思うんだよね。これが魔力を浪費してるから、無くなるだけで各所に魔力を配分できるの」


 スラスターは泥濘に足を取られて転倒する可能性を考慮してつけられたもので、圧空の魔術を使用して姿勢を制御している。

 タリ・カラさんが湿地帯での戦闘に慣れていなかったために付けた代物だが、ボルス周辺は森に囲まれていて地面も比較的安定している。

 タリ・カラさんは少し考えた後、口を開いた。


「湿地での動かし方にも慣れましたし、もうスラスターの補助は必要ないと思います。取り外しはどれくらいかかりますか?」

「整備士諸君、どれくらいかかるかな?」


 ミツキが演技がかった口調で訊ねると、整備士たちは二言、三言相談して、二時間で済むと答えた。

 スイリュウに取り付けられたスラスターは市販のものとは違って空気の取り入れ口も存在せず、部品が大幅に簡略化されている。慣れていなくても二時間あれば十分取り外せるだろう。


「では次の質問だよ。スラスターを外すことで浮く魔力量はどれくらいでしょう。遊離装甲を一時間維持する魔力を一として考えてみてね」


 ミツキが次々に質問し、整備士たちが相談しながら答えていく。

 質問を終えたミツキは満足そうに頷く。


「復習はこれくらいでいいかな。みんなきちんと覚えているみたいだからこれからの話にもついて来れるでしょ」


 ミツキのお墨付きも出たからには、魔力や魔術に関しては整備士たちも合格ラインに達しているらしい。

 俺はミツキが整備士たちに質問している間に黒板に描いておいた図を指差す。六角形を並べて平面を埋めた図形だ。現代人なら蜂の巣を思い浮かべるそれは、ハニカム構造と呼ばれる。


「ハチの巣が頑丈なのはこのように密に図形を並べているからだ。重量を軽減しながら強度を保てるこの構造を遊離装甲に応用する」


 もちろん、穴が無い方が強度は高いのだが、重量が増すと遊離装甲の魔術で使用する魔力が増えてしまうため、ハニカム構造の方が今回は合理的だ。後々に続く仕掛けのためにも、空隙がある方が良い。


「重量や密度の分だけ防御力は減るが、強度的には問題がない。では、この構造体をどのように作り出すか」


 俺はビスティを見る。


「月の袖引くにはビスティがいる。つまり、とある特許品の利用に関しては使用料を払う必要がない」

「スライム新素材ですか?」


 ビスティがポケットから取り出したスライム新素材を両手で左右に引っ張りながら掲げる。

 自慢の品なのはわかるけど、いつもポケットに忍ばせてるのか、それ。

 俺も圧空の魔術式を刻んだ魔導核をポケットに入れてるから、何も言わないけどさ。

 俺は気を取り直して黒板に図を描き込む。


「鋼板を二枚、その間にスライム新素材を正六角形に並べその弾性を利用する」


 いわゆるハニカムサンドイッチだ。航空機等に使用され、軽量化を成し遂げた構造体である。

 今回は間にスライム新素材を挟み、外部からの圧力に弾力で対抗する。スライム新素材自体が比較的安価で軽量、弾力に富んでいるため、中に挟む物としては適していると判断した。

 この世界の人間が、生物由来の部品を精霊人機に使う事に抵抗がない事はすでに知っている。ボルスで英雄視されていたベイジルの弓兵機アーチェの弓が弦に大型魔物の腱を使用しているくらいだ。

 タリ・カラさんがビスティを見る。


「スライム新素材の弾力は任意で変更可能でしたね?」

「はい。処理の過程で少し濃度を変更したりするだけである程度は弾力に幅を持たせられます」

「では、遊離装甲に必要な弾力についても計算しないといけません」


 タリ・カラさんが整備士たちを見回した後、俺を見た。


「計算方法や測定方法を教えていただけますか?」

「もちろん。ビスティ、スライム新素材を大量製造するから頑張れよ」


 実験も必要だし。

 問題はそんなに大量にスライムを捕まえられるかどうかだ。内陸に行けばうじゃうじゃいるけど、この辺りだと海が近いせいかあまり見かけない。シージェリースライムとかいう海生スライムが浜に打ち上がって息絶えているくらいだ。

 思い出したら、シージェリースライムの胡麻和えを食べたくなった。あのジビエ料理屋、今日はやってるだろうか。

 原料であるスライムの確保に疑問を持ったのは俺だけではなかったのか、レムン・ライさんが腕を組む。


「この辺りでスライムを捕まえるのなら、森に入る必要がありますね。マッカシー山砦周辺は駆逐が済んでいるでしょうから、デュラの周辺の森でしょうか」

「あ、原料の確保であれば僕にいい案が」


 口を挟んできたビスティに全員の目が向けられる。

 ビスティは集まった視線に若干気圧されながらも、いい案とやらを口にした。


「ライグバレドでアカタガワさんたちがやったスライムの大型化を今回もやれば、素材は大量に入手できます」

「仮死状態にした後で復活させるあれか」


 トラウマ持ちを作った狂気の生物兵器である。

 数人がげんなりした顔をするが、原料の確保ははかどるだろう。


「大型化させたスライムからでも新素材は作れたのか? なんか性質変わってそうだけど」


 具体的には弾力性が失われていたり。

 ビスティは曖昧に首を振った。


「弾力性や耐摩耗性などは変わりません。ただ、吸水率がかなり増加します。膨張もしますが、その状態でも弾力性などは変わらないですね。吸水率を抑えることもできるので原料としては問題な――」

「待て、吸水率が増加する?」


 ちょっとデータを見せてごらん。

 ビスティが持ってきた大型化スライムを原料としたスライム新素材のデータを見る。吸水率や処理の過程などが細かく記載されていて、なかなか見やすい。ビスティがこの手の書類作成に強くて助かった。

 大型化したスライムを素材にすると水を吸い込んで膨張する。これは自然の水でも魔術で生み出した水でも変わらない。魔術で生み出した水を含ませた場合、魔術の効果時間が切れて水が消滅すると膨張した分が元に戻る。

 複数回膨張させた際の実験試料では、三十回以上でも復元率に変化はない。つまり、水を三十回含ませて膨張と収縮を繰り返させても劣化しないという事だ。

 魔物としてのスライムであっても、仮死状態で水を受けると大型化して表面積を増やし、水を得ようとする。だが、雨がやむと次第に収縮し、本来のサイズに戻るという。

 大型化したスライム新素材ではこの性質を受け継いでいるのだろう。

 しかしながら、まだ経過時間での劣化についてはデータが存在しない。俺がフリーズドライで仮死状態にした後に復元したスライムを素材にしているから、まだ研究中なのだろう。

 俺と一緒にデータを見ていたミツキが遊離装甲を見る。


「これなら、水魔術を使って任意に水を含ませて遊離装甲の重量を増したり、膨張させて強度を上げたりできるって事だよね」


 雨が降ると防御力が格段に増す機体、か。

 防御力が天候に左右されるのは問題だし、魔力消費量も変動してしまうのはまずいから、水を吸収しない遊離装甲も個別に作っておいたほうがいいな。


「吸水型スライム新素材と通常のスライム新素材、二つの種類で遊離装甲を製作しよう。レムン・ライさん、ビスティと一緒にスライムを生け捕りにしてきてくれ。俺は整備士たちにスライムを仮死状態にさせるフリーズドライについて原理から説明する」


 フリーズドライに関しては特許を取っているが、この場は直接解説して質問を受け付けた方が整備士たちの理解が進むだろう。

 タリ・カラさんがレムン・ライさんとビスティに数人の戦闘員をつけて送り出す。

 スイリュウの防御力に関しては、このスライム新素材を使ったハニカムサンドイッチ遊離装甲で強化できるだろう。

 これを機にスライム新素材を緩衝材とした遊離装甲を商品化すれば、スイリュウが話題になるほどスライム新素材が売れ、月の袖引くの収入になる。


「――タリ・カラさん、どうかしたの?」


 ミツキの声が聞こえて振り返れば、タリ・カラさんが難しそうな顔でスイリュウを見つめていた。


「スイリュウは面制圧に向かない機体ですから、今回の作戦でどこまで活躍できるかと少し不安で……」


 そう言う事か、と納得する。

 今回、新大陸派が決起した場合は俺とミツキ、青羽根、月の袖引くで対スケルトン戦線を維持することになる。

 圧倒的にこちらの人数が足りない状況下では、精霊人機による広範囲攻撃で小型スケルトンを一掃する場面が必ず出てくる。

 しかし、スイリュウはシャムシールを扱う機体であり、特殊兵装のウォーターカッターも面制圧には向かない。

 だから、月の袖引くだけならばタリ・カラさんの不安も当然なのだが――今回は青羽根の精霊人機スカイもいる。


「スカイの主兵装はハンマーで、面制圧向きだから大丈夫ですよ」


 これからハンマーの改造もするし。

 俺はスイリュウの武器、流曲刀を見る。ウォーターカッターで切断力を飛躍的に高める強力なシャムシールだ。

 スカイの持つハンマーもこれと同等の改造を施すことになる。主に面制圧向きに、だ。

 青羽根の整備士にはどう説明しようかと考えていると、青羽根が資材の購入を終えて帰って来た。

 どんな改造案を出されるのか戦々恐々としている彼らを笑顔で迎え入れる。

 俺とミツキの改造に一度付き合い、さらにスイリュウの改造を手伝って、ついには精霊獣機テールの製作もこなした彼らだ。

 多少の無茶は平気でこなしてくれるだろう。


「さぁ、覚悟はいいかな、諸君」



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