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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第六章  世界の都合に振り回された二人
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第二十三話  戦力分析

 マッカシー山砦から拠点にしている借家に戻った俺は、プロトンに魔力を込めていた。

 俺とミツキの資産をデュラの復興資金にしようと盗み入った不届き者を何人か返り討ちにしたらしく、プロトンの武勇伝と反比例して魔力は大きく減っていた。


「ワステード司令官の話、どうするの?」


 隣に座ったミツキに問われ、唸る。

 ワステード司令官が俺たち開拓者に要求したのは、ボルスから出てくるスケルトン種の足止め、撃退だ。

 しかも、新大陸派を誘い出すためマッカシー山砦から出発するのは俺とミツキ、青羽根と月の袖引くくらいのもの。他の開拓団は現地に潜み、新大陸派が決起したのを見届けてから作戦に参加させるようにという注文だった。


「信用できる開拓団に頼まないといけないってのが難しいんだよな」


 開拓団経由で作戦内容が新大陸派に漏れてしまう事態を防がなければいけないのだ。

 ミツキも俺と同じ意見らしい。


「信用できる開拓団っていうのもそうだけど、ボルスの近くに潜むって言葉を変えれば孤立するって事なんだよね。あの危険地帯で孤立状態になっても作戦開始まで無事に過ごせる戦闘力が必要となると……」

「飛蝗クラスの大規模開拓団になるよな」

「私が新大陸派なら、飛蝗の動きは監視するかな。マライアさんの乗ってるグラシアって軍の専用機と面と向かって戦える機体だって聞くし」

「そうでなくても、飛蝗ほどの規模で動くと隠密行動も何もあったもんじゃないよな」


 マライアさんの統率力なら分散した後の現地集合くらい平気でやってのけるかもしれないけど。

 新大陸派にマークされない規模の小さな、加えて実力がある開拓団などそうはない。

 俺もミツキも顔が広いわけではないし、信用できる開拓団だって回収屋、竜翼の下、飛蝗くらいだ。

 青羽根は開拓者になってまだ半年、俺達と同じで知り合いはいない。


「月の袖引くに頼るしかないね。先代の団長の頃は開拓の最前線にいたらしいし、少数精鋭の信頼できる開拓団も知ってるかも」

「それに期待するしかないな」


 雇用料に関しては気にしなくていいのが救いだ。ワステード司令官がポケットマネーで出してくれる。

 この作戦に勝てたら経費で落とし、負けたら戦死か処刑が待っているため金を持っていても仕方がない、とはワステード司令官の言葉である。潔すぎてかっこいい。

 一時期降格していたとはいえ司令官を務めている男のポケットマネーである。大概の開拓団は雇えるだろう。ロント小隊長でも竜翼の下や俺たちを雇えたくらいだ。

 プロトンに魔力を込め終わった丁度その時、玄関の呼び鈴が鳴らされた。


「はーい」


 ミツキが玄関へパタパタと駆けていく。

 俺もミツキの後を追って玄関に来客を迎えに行く。

 やってきたのは青羽根の団長ボールドウィンだ。


「やっぱり帰ってきてたんだな」


 連絡くらい寄越せよ、と言うボールドウィンに謝って、少し外で待ってもらう。

 プロトンを再起動してから、俺はミツキと一緒に外に出た。


「月の袖引くは倉庫か?」

「あぁ、ライグバレドを発った翌日に魔物が出てさ。近くの村で一度防衛戦をやったんだ。いまは整備中」

「けが人は?」

「出なかった。整備の方もただの点検だ」


 なんでも、立ち寄った村の近くに体高二メートルほどの小型魔物レイグが小規模な群れをつくっていたという。

 サーベルタイガーに似た形状のレイグは小型魔物の中では比較的大きな体格を持つが、青羽根も月の袖引くも精霊人機持ちで歩兵組の実力もあり、危なげなく討伐を完了したそうだ。


「無事だったのならそれでいいけど」


 話している内に倉庫が並ぶ港に到着する。

 少し前に人型魔物との大規模な戦場になったこの場所もすでに掃除が行き届いていて血の跡一つ残っていない。

 倉庫の中に入ると整備を受けているスカイの姿が眼に入った、

 色々と特殊な機体だが、整備士たちも大分扱いに慣れたようで作業は順調に進んでいる。


「そういえば、ワステード司令官から正式にボルス奪還作戦に加わってほしいって依頼が来てたぜ。月の袖引くにも声がかかってたから、コト達にも来てるんじゃないか?」


 まだマッカシー山砦でワステード司令官と直接話したわけではないらしいボールドウィンが暢気に報告してくる。作戦内容を聞いたらその余裕も吹き飛ぶぞ。

 ワステード司令官からは俺の口から説明するようにと言われているため、俺は隣にある月の袖引くの倉庫を指差した。


「そのボルス奪還作戦について、タリ・カラさんも交えて話をしたい」


 ボールドウィンが頷いて、整備士長を呼ぶ。

 四人で隣の倉庫を訊ねると、月の袖引くの整備士たちが車座になって何事かを相談し合っていた。輪の中にタリ・カラさん、レムン・ライさんに加えてビスティの姿もある。

 何故精霊人機に疎いビスティまで加わっているのかと不思議に思いながら声を掛ける。


「タリ・カラさん、ボルス奪還作戦に関して話があるんですけど、今いいですか?」


 俺たちに気付いたタリ・カラさんが立ち上がる。


「すみません、気付かなくて。いま行きます。レムン・ライ、資金と相談しながら会議の舵を取って。採決は私がします。ビスティ、資金の事はひとまず考えずに積極的に意見を出して。みんなはビスティの発想が実現可能かを相談して」


 個々に出した指示が矛盾しているのはわざとだろう。個々の視点を分散させる事で長所を引き出し、活発な議論を誘発するつもりだ。

 この辺りの会議の進め方も団長になるために勉強したのだろうか。

 タリ・カラさんと一緒に倉庫の端へ移動する。


「それで、話というのは?」


 タリ・カラさんが水を向けてくる。

 ミツキがワステード司令官の作戦内容と開拓者に求める役割について話す。

 話を聞き終えたボールドウィンが頭を抱えた。


「無理じゃね?」

「難しいですね」


 タリ・カラさんも同意して、一度席を立った。

 整備車両に入って行ったタリ・カラさんが戻ってきた時、手には古びた日記を持っていた。


「先代の団長、私の父が遺したものです」


 月の袖引くが開拓の最前線で活躍していた頃のものらしい。


「これを読めば、実力のある開拓団がいくつか見つかりますが、引退しているところや私たちのように代替わりしているところもあります。紹介できるのは四つだけですね」


 ぺらぺらと日記をめくったタリ・カラさんが開拓団の名前を読み上げる。


「最初の二つはガランク貿易都市で活動しているのを見た。新大陸派と通じていなかったとしても、ボルスに向けて出発したらラックル商会経由で情報が漏れる恐れがあるぜ」


 ボールドウィンが注意してくる。

 俺でも名前を聞いたことがある残り二つの開拓団も問題だった。

 古くから活動していて、月の袖引くの先代団長の頃から開拓の最前線にいたような開拓団だ。名前も売れていて、規模も大きい。近くにいるならともかく、遠方にいるなら確実に動きが噂になる。


「ひとまず、現在地を割り出して私から予定を聞いてみます。空いているようなら、ワステード司令官と相談した後、参加を要請しましょう」

「それでも戦力は心もとないな。飛蝗にも話を通して、新大陸派が動き出した直後にボルスへ救援に来てもらえるようお願いしてみよう」


 リットン湖攻略隊に対する俺たちの役割と同じだ。新大陸派が決起してから動くのであれば情報漏れの恐れも減る。

 同様のお願いを竜翼の下と回収屋にもすることを決める。

 それでも、飛蝗たちが救援に駆け付けるまでは俺たちで戦線を維持する必要がある。


「不利なんてものじゃないな。大型スケルトンも確認されているだけで三体、こっちはスカイとスイリュウのみか」


 タリ・カラさんの伝手に期待だな。ここのメンツだけじゃ死ににいくようなものだ。

 他に声を掛けられそうな開拓団はないかと知っている限りの開拓団の名前を挙げていく。精霊人機持ちでなければボルスの近くに潜む事も出来ないため、選択肢は自然と限られてしまう。


「やっぱり無理だな。条件が厳しすぎる」


 かといって参加条件の緩和もできない以上、スケルトン種に対抗するための作戦を立てる必要がある。

 そう思ったのだが、ボールドウィンが片手を挙げて発言を求めた。


「あのさ、今の戦力で何ができるかを考えるのも重要だとは思うんだが、ここにはコトとホウアサさんがいるわけだろ」


 俺とミツキを指差して、ボールドウィンは続ける。


「いまの戦力を強化することもできるんじゃねぇの?」

「おい、ボール! 滅多な事を――」

「――それだ!」


 整備士長が何か言いかけていたが、俺には全く分からない。あぁ、想像もつかないな。


「幸い、人型魔物の群れを撃破した時の魔導核が借家にまだ残ってる。自走空気砲くらいならいくらか作れる」

「スケルトンの群れを誘い込んだ後、自走空気砲で囲んで叩くとかいいね」

「ボルスの近くには河があったな。ほら、ヘケトの群れに襲われた時に川原を通っただろ。あの対岸に自走空気砲を置いておけば援護射撃がいくらでもできる」


 ミツキと話しながら、魔導核の使用方法を決める。

 自走空気砲と聞いて、精霊人機には手を出されないと思ったのか、整備士長が安堵したように息を吐き出した直後、俺はにこやかに話しかける。


「スカイも強化しようか。スイリュウも本格的に新型機を目指してみます?」


 整備士長がボールドウィンを恨めしげに見た後、頭を抱えて呟く。


「もう好きにしてくれ……」

「え、いいの?」


 マジで好きにしちゃうよ?

 慌てて顔を上げる整備士長からさっと視線を外して、俺はタリ・カラさんに声を掛ける。


「スイリュウの方もいいですか? 大丈夫です。人型に留めますので」

「整備士たちと相談してからでも構いませんか?」

「大丈夫ですよ」


 ボールドウィンや整備士長と違ってうっかり発言しなかったしっかり者のタリ・カラさんが立ち上がって、車座になって会議している整備士たちの下へ向かう。

 それにしても、あれは何の話してるんだろう。

 最終的に、戻ってきたタリ・カラさんはスイリュウのさらなる改造に同意し、対スケルトン戦に向けての精霊人機改造計画が始動した。



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