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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第六章  世界の都合に振り回された二人
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第十六話  祝勝会

「それでは、決闘の勝利を祝して!」

「――乾杯!」


 決闘の翌日夜、俺とミツキは青羽根や月の袖引く、回収屋たちと一緒に料理屋を貸し切って祝勝会を挙げていた。

 決闘の直後は自走空気砲その他の特許品に関して、観客としてきていた職人や研究者たちから質問攻めに遭った。結局、ギルドのガラスケースの中に二週間ほど展示する事で手を打ってもらっている。

 ファーグ男爵からは今朝方、特許侵害の賠償金がギルドを通して振り込まれた。まるであらかじめ用意していたかのような早さに疑念が募る。

 決闘に勝ちはしたものの、アンヘルはまだ戦闘可能な状態だった。あのまま戦っても遠距離から一方的に銃撃して終わっていたから、ファーグ男爵の判断は正しい。

 だが、俺にとってみればファーグ男爵はまだアンヘルという最大戦力を無傷のまま保持していることになる。

 戦いに負けても操縦者は死なないで済むのは、ロボ戦のメリットでありデメリットだと思う。

 シージェリースライムと根菜をアップルビネガーで和えて辛みのきつい香辛料でアクセントをつけたサラダを摘まみつつ、ミツキが不安そうに呟く。


「ファーグ男爵、闇討ちを仕掛けてくるかな?」

「どうだろうな。少なくともすぐに仕掛けてくることはないと思う。いま俺たちを闇討ちすれば誰がやったか一目瞭然だしな」


 加えて、ライグバレドの技術者や研究者は俺たちの味方になっている。精霊獣機には嫌悪感もあるようだが、精霊人機を真正面から倒せる技術の保持者という事で一目置かれているのだ。

 自走空気砲は外観が動物の形をしていない事もあって好評で、研究したい旨の申し込みが相次いでいる。商品化を検討したいと声をかけてきた商会もある。

 いま俺とミツキを襲撃すれば、最悪の場合ライグバレド全体を敵に回すことにもなりかねない。工場が林立するこのライグバレドを敵に回すことはすなわち、精霊人機の部品購入がままならなくなることを意味している。少なくとも、高品質の部品は一切手に入らなくなると思っていい。

 アンヘルの愛機ガエンディがカノン・ディアを受けて大破している以上、ライグバレドを敵に回すのは戦力の大幅減に直結する。負けを認めてまでアンヘルを無傷の内に引かせたファーグ男爵なら、ライグバレドを敵に回すことはないだろう。


「それって、私たちがライグバレドを出た後は分からないってこと?」

「その場合でもしばらくは安心だろう。ほとぼりが冷めるまではファーグ男爵も迂闊には動けない。それに、決闘日を決めた時にファーグ男爵はギリギリだと言っていた。もう一つの用事とやらの期限があるんだろう」

「その用事がなんなのかは気になるよね」


 ラックル商会がらみだろうけど、とミツキが呟くと、デイトロさんが乗り出してきた。


「ラックル商会の監視は続けていたんだけどね。決闘の後でファーグ男爵がラックル商会のライグバレド支店に立ち寄ったのを確認したよ」


 デイトロさんの話では、ラックル商会で二時間ほど過ごしたファーグ男爵はその足でライグバレドを出立したという。人員の関係で後を追うことまでは出来なかったそうだが、方角から見てガランク貿易都市に向かったようだ。

 そして、ガランク貿易都市にはラックル商会の本店がある。


「ラックル商会とかかわりがあるのは確かだけど、何をしているのかまでは分からない。デイトロお兄さんたちは明日にはライグバレドを出てラックル商会に出入りする人間を逐一監視するつもりでいるよ」

「危険じゃありませんか?」


 一開拓団である回収屋にそこまでする意味があるのだろうか。

 俺が首を傾げていると、デイトロさんはフッとシニカルに笑った。


「この手の情報は開拓団にも高く売れるんだよ。避けるにしろ、飛び込むにしろ、危険な情報は手に入れておくに越したことがないからね」


 仕事だったらしい。


「それに、ワステード司令官にでもたれ込めば、それだけで儲けは出るだろう」

「あ、ワステード司令官には俺たちがもう連絡しちゃいました。ラックル商会までは辿り着いてませんでしたけど」

「え、抜け駆けはひどいなぁ」

「デイトロさんとの合流前ですよ。魔導核の市場操作をしている者がいそうだってことを連絡してあります。多分、ワステード司令官も独自に調査を始めてるはずです」


 俺が説明すると、デイトロさんは参ったな、と苦笑した。


「ラックル商会とホッグスの繋がりを垂れこんでワステード司令官に近付き、ボルスでの回収依頼を受注するつもりだったんだけど、当てが外れたか」


 そんなこと企んでたのか。

 だが確かに、軍の司令官との面識を作るには、ホッグスの件はちょうどいい材料ではある。

 話を聞いていたボールドウィンが渋い顔をした。


「デイトロ兄貴、回収屋だけでボルスに行くのは自殺行為だぜ?」

「兄貴呼びはやめようか。それにしても、話だけは聞いたけどそんなに危ないのかい?」


 デイトロさんは不思議そうな顔をする。

 ボルスでの件は新聞でも報道がなされている。撤退戦に参加した開拓者が噂を流してもいる。

 だが、あのスケルトンたちの異常さは実際に戦わないとピンと来ないだろう。

 元々、ある程度の実力を持っている開拓者ならスケルトンは倒すに容易い相手という認識が強い。新聞での報道も、事前のリットン湖攻略における超大型魔物による被害が強調されていて、スケルトンの脅威度はいまいち分かりにくい。

 新聞記者としては、スケルトン如きにやられたと書くよりも未知の超大型魔物にやられたと書く方が世間の耳目を集めやすいと判断したのだろう。未知の超大型魔物なんて字面はロマン満載だしな。

 ボールドウィンが口を開く。


「魔術を使ってくる上に学習能力が高いし戦術まで身に付けてる。下手な戦力でぶつかったらスケルトンの連携とか戦術を鍛えるだけに終わりそうなんだ」

「人型魔物を相手にするつもりでいた方が良いって事かな?」

「いや、人型魔物より質が悪い。何しろ、戦術を組み立ててるのはおそらく頭蓋骨の中に潜んでいる白い小型人型魔物なんだ。スケルトンを倒しても、白い人型が生きてさえいれば、学習して戦術を練り上げてくる」

「精霊人機部隊の方が性質としては近いわけだ」


 デイトロさんが納得したように頷いた。

 ガエンディを壊されてもアンヘルが無事だったように、精霊人機部隊は機体を壊されても操縦士が無事ならすぐに戦力を立て直すことができる。生身と違って敗北してもそれを経験として昇華し、すぐに戦いに出られるというのは強みだ。

 こうすれば勝てる、という経験も大事だが、生身ではこうしたら負ける、という経験が得られにくい。双方の経験を実戦で培える精霊人機部隊がいかに恵まれているか分かるというものだ。

 そんな精霊人機部隊の特権を、白い人型はスケルトン部隊で享受している。

 ミツキの隣で炭酸飲料を飲んでいたタリ・カラさんが口を挟む。


「戦うなら殲滅するつもりでいないと足を掬われます」


 戦うほどに強くなるのなら一度の戦闘で全滅させなければ後々取り返しのつかない事になるというのは、あの撤退戦を経験した者の総意だろう。

 だからこそ、ワステード司令官も魔導狙撃銃を配備して訓練を施そうとしているのだから。


「頭蓋骨の中の魔物か。大型スケルトンにはアカタガワ君の狙撃の効果が薄いんだったね。自走空気砲でもダメなのかい?」

「無理でしょうね。砲弾を重くすれば可能かもしれませんが、砲弾の重量を上げるとその分砲身を長くしないといけません」


 砲身内で砲弾を十分に加速させてから撃ちださないと、射程が短くなりすぎる。

 それに、取り回しのしにくい自走空気砲を持ち出すのは防衛戦の時だろう。ボルスを奪還するのならば精霊人機に魔導銃を持たせた方が手っ取り早い。カノン・ディアほどの威力が出なくとも、扱う銃そのものが大きければ銃弾も大きく、重くできる。幸いなことに魔力消費量が変わるだけで火薬の調達を考えなくていい。

 精霊人機が狙撃銃を使えるようになればそれだけでスケルトンの群れに対して優位に立てるのだろうが、そこまでの腕を持つ操縦士がいるかどうか。

 タリ・カラさんがミツキに勧められたサラダにフォークを伸ばしながら、予想を語る。


「現実的な作戦としては歩兵に対物狙撃銃を配備して小型スケルトンを適宜攻撃しつつ、大型スケルトンに対しては精霊人機部隊で囲んで叩く形になるでしょう。魔術が使えるとはいえ、小型スケルトンは精霊人機の敵ではありませんから」


 いくらかの情報交換の後、デイトロさんがテーブルに着いているボールドウィンやタリ・カラさん、俺とミツキを見回す。


「この後、君たちはどうするんだい? ボルス奪還戦に参加するのかな?」


 タリ・カラさんは少し迷うそぶりを見せたが、頷きを返した。


「ボルスの奪還に協力すれば、周辺に開拓村を作る際に援助を貰える可能性がありますから、参加するつもりです」

「月の袖引くはボルス周辺に開拓村をつくるつもりなんですか?」


 リットン湖攻略戦に出るロント小隊長の救援依頼で、月の袖引くが出した条件はリットン湖周辺に村を作る際の後ろ盾になる事だったはずだ。

 リットン湖に開拓村をつくる計画は諦めたのかと意外に思っていると、タリ・カラさんは苦笑した。


「ボルスに周辺の魔物が集まっている以上、殲滅してしまえば周辺はしばらく安全になります。幸い、今回の技術祭でビスティのスライム新素材やウォーターカッターに注目が集まり、資金の目途が付きました。ボルス周辺であれば、ビスティの持つ植物の栽培も十分可能との話ですから、この機会を逃す手はないでしょう」


 開拓村は準備が整っていない初期の頃が最も魔物の脅威にさらされる。

 ボルス奪還作戦の過程で周辺の魔物が駆逐されれば、最も危険な初期の開拓村の防衛に回す人手を資材運搬などに回すことができ、防衛網の構築を早く済ませて恒久的に安全を確保できるという考えらしい。

 マッカシー山砦からボルスまでは少々距離があり、途中に宿を提供できる村を作れば収入も見込めるという。香辛料などの栽培と合わせて二足のわらじというわけだ。

 加えて、ワステード司令官との面識があるのも大きい。周辺地域の防衛を行う軍の司令官との繋がりは強力なカードになるだろう。ラックル商会も迂闊には手が出せなくなる。


「レムン・ライも歳です。団員の中にはそろそろ前線を引退するべき年齢の者も多い。そろそろ、落ち着く場所が欲しいんですよ」


 タリ・カラさんの言葉を真剣に聞いていたボールドウィンが鼻の頭を掻いた。


「ウチは団員がみんな十代だからな。遊びたいってわけじゃないけど、もっと名を売りたいのが本音だ。それに、大型スケルトンには借りがある」


 青羽根も参戦予定と。

 回収屋はラックル商会の調査を継続するつもりだというし、開拓団の戦力は撤退戦の時とさほど変わらない状況になりそうだ。


「それじゃあ、一度ここで解散だな。俺とミツキはデュラに向かうから」

「デュラに?」


 心配そうな顔をするボールドウィンとデイトロさんに、ミツキと揃って苦笑を返す。

 デュラの住人と俺たちの関係を知らないタリ・カラさんだけがきょとんとしていた。


「ミツキの家の掃除に行くんだ。ついでに、荒らされないように色々と仕掛けておく」


 納得したように、ボールドウィン達は頷いた。



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