第十三話 自走空気砲
技術祭が終わって二日目、舞い込んでいた大量の資料に目を通して、約束通り特許者たちに融資する。
見覚えのない特許者の名前と資料がちゃっかり混ざっていたが、融資する相手の名前くらい控えているため、照らし合わせて弾きだした。
お金が一気に飛んでいくが、出ていくお金より入るお金の方が多いためあまり気にすることもないだろう。かなり低いが利息もきちんと取っている。
どうも、後夜祭で俺たちの展示会場を中心に行われた意見交換会のおかげで連帯感が出て技術者や研究者が相互で活発に意見を交わすようになったらしく、技術祭の運営委員会から感謝状が届いていた。
融資相手の資料をまとめて、不足している情報についての質問状をしたためながら、俺は隣の机で書類を作ってくれているビスティを見る。
「悪いな、ビスティ」
「いえ、この手の仕事は慣れているので」
ビスティには特許者へ融資するための借用書の製作を頼んでいた。元が商人だけに、この手の書類仕事に強いのだ。
改竄を防ぐための独特の言い回しなどは商人でないと難しい。俺やミツキも時間を掛ければ出来ない事はないのだが、辞書とのにらみ合いになること請け合いだ。
青羽根から何人か応援が来ているが、どちらかと言えばこの書類仕事で借用書などのテンプレートを覚える目的があるらしい。青羽根は団員全員が開拓学校を卒業したばかりで、実力の割に借用書等の書類仕事にめっぽう弱い。
とはいえ、応援にかこつけてスキルアップを図る姿勢は嫌いじゃない。
「こっちの書類を清書してくれ。それと、この質問状を封筒に入れて、宛名の記入を頼んだ」
ここぞとばかりに青羽根の面々を使いっ走りにする。
さぁ、学べ。スキルアップを図るのだ。
書類を片付けていると、倉庫の入り口に青羽根の整備車両が停まった。
ぞろぞろと降りてきた青羽根の団員が鳥型精霊獣機テールを運び込んでくる。
「予定通り、テール三十機きっちり仕上げたぜ」
青羽根の整備士長が欠伸を噛み殺しながらテールの群れを指差す。
どれも飛ぶ事は確認してあるとの事で、後は仕上げを行うだけだという。
倉庫の端においてあるテールを格納するための木箱、ミツキ命名〝烏合の集合住宅〟に三十機のテールを格納する。レバーを下げるだけで一斉にハッチが開き、テールが飛び出す仕組みの木箱だ。
「速度は設計通りに出るのか?」
「もちろんだ。急な方向転換ができるように羽根の重量と長さを調節するのが大変だった。おかげで、直進方向から四十度までなら方向転換時に速度が落ちることもない」
自慢そうに腰に両手を当ててテールを見る整備士長と青羽根の整備士たち。
しかし、彼らはすぐにため息を吐いた。
「……これが精霊獣機じゃなかったらなぁ」
「いやいや、お前らの腕は誇っていいだろ。精霊獣機だろうがなんだろうが、この世界初の空飛ぶ兵器なんだからな」
「我ながら気味の悪いもん作っちまったなぁ、と思うと素直に喜べねぇんだよ。おい、鉄の獣、ここまでさせといて負けたら承知しねぇからな」
「負けたらこの場にいないっての」
向こうは殺す気で来るんだから。
俺はテールを見る。
設計通りなら、時速百七十キロ以上で飛べるはずだ。ツバメの最高飛行速度が二百キロ前後だったはずだから、視界が限定されている精霊人機で反応するのは至難の業だろう。
テール全機を通称〝烏合の集合住宅〟に格納した時、新たな整備車両が倉庫の前に停車した。
月の袖引くの整備車両だ。
「頼まれていたスライム新素材とスライムを確保しましたので、届けに参りました」
副団長のレムン・ライさんが恭しく一礼し、倉庫の中へスライム新素材と檻に入ったスライムを運び込んでくる。
「活きの良いスライムだね」
ミツキが檻の中のスライムに微笑みかける。スライムの表面が波打った。
事情を知らないデイトロさんが檻の中のスライムに首を傾げた。
「こんな物どうするんだい?」
「決闘相手のアンヘルの機体にぶち込むんですよ」
書類仕事が一段落していた俺は、とある設計図をデイトロさんの前に掲げた。
特殊な構造の砲弾と空気砲の設計図だ。
スライム新素材で覆った格子状の金属砲弾の中に粘着性の半固体を充填するこの砲弾は、一発で自動拳銃その物が買える位の値が付く。無論、商品化の見込みは皆無だ。
空気砲は圧空の魔術を使用する事で火を使わずに砲弾を撃ちだす仕組みである。こちらは自作するつもりだ。
二枚の設計図を見て、デイトロさんはさらに疑問符を浮かべる。
「ますますわからないなぁ」
「金属砲弾内の粘着性半固体にスライムを入れるんです。それを空気銃で撃ちだせば、スライムに熱でダメージを与えることなく相手へ届くって寸法ですよ」
デイトロさんがスライムを振り返る。
「スライムが入るほどの大きさの砲弾を作るのかい? それを撃ちだせる魔術規模となるとかなりの魔力消費量だと思うけど」
スライムは半径三十センチの半球形をした魔物だ。これを封入するほどの砲弾となれば確かに、撃ちだすだけでもかなりの魔力を消費するだろう。また、撃ちだされた砲弾をアンヘルが素直に受けるはずもなく、避けるなり叩き落とすなりしてくると予想される。
「安心してください。スライムは縮めてから撃ち出しますから」
そのための魔術は開発してあるし、採石場での実験結果から縮めた後に蘇生が可能なことは実証済みだ。
俺たちの話を聞いた青羽根の団員が三名、ぶるりと身震いした。トラウマを刺激されたらしい。
俺は掲げていた設計図を机に置いて、檻の中のスライムを指先でつついて遊んでいるミツキに声を掛ける。
「空気砲を作るから、手伝ってくれ」
「魔導核の担当だね。すぐに済ませるよ」
すでに空気砲に必要な魔術式は組み上げていたのだろう。
ミツキはスライムにデコピンを一つかましてから立ち上がった。多少の打撃攻撃は無効化されるらしいスライムはプルプル震えている。
俺は倉庫端においてある鋼板を型に当てて曲げ、筒状にして接続部分をハンダで仮付けする。砲身に掛かる圧力を考えるとハンダ付けした程度では二、三発で壊れてしまうだろうが、今はこれで十分だ。
魔導核と蓄魔石を設置する場所を開けて、台座を作る。照準誘導の魔術を使えるように砲身は可動式だ。
台座につけるべくタイヤ付きの足を六本取り出すと、各開拓団の団員から呆れの篭った視線を注がれた。
「今度は虫か」
「どういう神経してんだよ、マジで」
この機能美が理解できないとは、かわいそうな奴らめ。
俺は立ち上がり、タイヤ付きの足を掲げて見せる。
「お前ら、この紋所が眼に入らぬか。控えおろう!」
脚の裏、つまりはタイヤを指差し、各団の整備士に見えるようにぐるりとまわす。
「いいか。この足についているタイヤは逆回転を防ぐためブレーキが付いている。このブレーキには衝撃を吸収するためのスプリングも付属しているんだ。このブレーキのおかげで砲撃を行ってもタイヤの逆回転が起こらない」
「なんか語りだしたぞ、あいつ」
「言わせておけ。どうせ常人には理解できねぇから」
「いや、言ってることは割とまともだ」
青羽根の整備士長だけがフォローしてくれた。
俺は脚のふくらはぎや太ももに当たる部分に組み込まれたエアサスペンションを指差す。
「さらに、このエアサスペンションにより砲撃時の反動を大幅に吸収し、滑らかな加減速と連射性能を保持する。そのうえ、関節部は回転式だ。タイヤの逆回転を防いだがために後退できないとでも思っていたんだろうが、答えは否! この回転式の関節によりタイヤの方向を三百六十度どの方向にも任意に変更することができるのだ。脚の上げ下げも可能なために踏破性も高く、何より――跳躍ができる!」
さぁ、称えろ。この一本の優美に細い脚に込められた数々の機能に打ち震えろ!
素晴らしかろう? カッコ良かろう?
「ふははは」
「ヨウ君、魔導核できたよ」
「おう、いま行く」
俺がテンションを戻してミツキに答えを返すと、整備士たちが毒気を抜かれたような顔をした。
整備士長がため息を吐く。
「いきなり真顔になるなよ、怖えよ」
「勢いで押し切ろうと思ったんだけど、お前らドン引きするからさ」
「演技だったのか、アレ」
気を取り直して空気砲を完成させる。自走空気砲とでも呼ぶべきそれは、高さ二メートル、幅二メートル、砲身は全長二メートルほどとなった。
すでに日も暮れているため試射はまた明日と決めて、俺は自走空気砲を遠目に見る。
「どう思う?」
隣にいたボールドウィンとタリ・カラさん、デイトロさんの三人に、精霊人機操縦士としての意見を聞く。
ボールドウィンは自走空気砲の大きさや形を見て、ハンマーを横薙ぎにするような仕草をした。
「動いてるところを見てないから何とも言えないが、オレなら動く前に潰しにかかるな。見るからに遠距離攻撃してきそうだし」
タリ・カラさんが頷いた。
「一歩で詰められる距離なら開始と同時に側面に回り込んで叩こうと考えますね。距離が開いているのなら、魔術を使用してでも優先的に破壊します」
「やっぱりか。デイトロさんも同じ意見ですか?」
「そうだね。決闘の場にある以上兵器なのはほぼ間違いないと判断するし、アカタガワ君がディアに乗っている以上は細かい動きは出来ないとも考える。それなら、アカタガワ君側の戦力を減らす目的で即破壊を狙うね。重装甲になっている可能性も踏まえて、魔術を使用するならロックジャベリンを撃ち込むかな」
解説付きで回答してくれたデイトロさんに礼を言って、対策を考える。
その時、ミツキが俺の服の袖を引いた。
「こんなのどう?」
ミツキが手の平の上に乗せて差し出してきたのは、手帳の切れ端を使った折鶴だった。
折り紙の存在を知らないボールドウィン達が驚く中、俺はミツキの言わんとするところを大まかに察する。
「折り紙式遊離装甲ってところか。自動展開できるのか?」
「ばっちり可能。いまなら迎撃機能も付けるよ」
「お得だな。それでいこう」
また特許が増えることになるが、別にかまわないだろう。




