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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第六章  世界の都合に振り回された二人

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第六話  決闘の申し込み

 俺がファーグ男爵に銃口を向けた途端、周囲に緊張が走る。

 ファーグ男爵を守る様に護衛が前に出て自らの体を盾にする。

 しかし、ファーグ男爵は俺に向けられた銃口を気にした様子もなく、視線を路上に転がるディアに向けた。


「それが大型魔物を単独撃破したという兵器か。実物を見るまでは何も言うまいと考えていたが、これは確かに気味の悪い物だな」

「赤の他人の努力の結晶を部下に破壊させた上、いちゃもんまでつけるとは、いいご身分ですね。弁償費用はファーグ男爵家に送りつければいいんですよね?」

「バカを言うな。スクラップを処分するにも金がかかるのだ。さぁ、処分費用を寄越せ」


 ああ言えばこう言いやがる。

 俺は雇われ警備員に声を掛けた。


「巻き込んでしまってすみません。ファーグ男爵も俺とミツキ以外に危害を加えることはないと思うので、今のうちに逃げてください」

「いや、しかし……」

「警備員であって護衛ではないでしょう。それに、俺たち二人だけなら逃げきれるので」


 足手まといだと言外に含めて言うと、警備員は一礼して立ち去った。

 俺はパンサーに乗るミツキの側にすり足で近付く。隙を見て、パンサーにミツキと相乗りして逃げだすつもりだった。


「それで、わざわざ訪ねてきた理由をお伺いしても?」


 俺が問いかけると、ファーグ男爵は不愉快そうに眉を寄せた。


「そんなことも言わなくては分からんのか。つくづく役に立たんな」

「ファーグ男爵家の役には、でしょう?」


 指摘してやるとファーグ男爵は俺を睨みつけてくる。


「旧大陸側の新聞で報道されている。ずいぶんと派手に暴れているらしいな」

「開拓者として役に立ってるだけですよ」


 ファーグ男爵がイラついた様子で腕を組む。


「ファーグ男爵家の遅れた長男などと家の名に泥を塗り続けていたお前をせっかく勘当したというのに、とんだ騒ぎだ。社交界でもお前の噂が立っている」


 社交界ね。俺自身はまともに顔を出したこともないのだが、噂は本人がいない方が盛り上がるという事か。

 しかし、俺がミツキと一緒に新大陸で打ち立てた実績は、大型魔物ギガンテスの単独討伐に始まり、ギガンテスの群れを率いていた首抜き童子の撃破、リットン湖攻略隊旧大陸派の救出、大型魔物タラスクの共同撃破、変わり種に人跡未踏のテイザ山脈越え成功やいくつかの特許などがある。

 別に噂されてもファーグ男爵家の名に泥を塗るようなことではないはずだが。


「どんな噂ですか?」

「家を追い出されたファーグ男爵家の遅れた長男が開拓学校に落第し、獣のような優雅さのかけらもない気味の悪い兵器を乗り回している、とな。見事に事実だったようだ」


 あ、精霊獣機そのものを噂してたのか。

 悪い噂ほど人は口にしたがるものだ。閉鎖的な社交界ならなおさら、外の人間を馬鹿にすることで連帯感を保とうとする。


「デュラみたい」

「似たようなもんだな」


 ミツキの呟きに同意して、ファーグ男爵を見る。


「風評被害にお悩みなのはわかりました。それで、俺にどうしろと?」


 わざわざ海を越えてまで文句を言いに来たわけではないだろう。

 ファーグ男爵は顎に手をやって何かを考えているようだった。


「本来、お前の事はついでだったのだがな」

「ついで?」

「当然だろう。お前如きに関わっていられるほど暇な身分ではない」


 なら放っておいてくれればいいのに、という言葉は飲み込んでおく。

 だが、言われてみればアンヘルを連れ回している時点で息子を叱りつけに来たというわけではなさそうだ。

 男爵家の剣術指南役というとそこそこの強さという印象になりがちだが、ファーグ男爵家は王国初の精霊人機部隊を作った超が付くほど武闘派の家である。アンヘルは精霊人機部隊の隊長として領内の魔物退治も仕事に入っていた。

 護衛として連れ歩くには明らかな過剰戦力である。

 ライグバレドでファーグ男爵家が出張ってくるような何かがあるのか?

 役立たずだからと半分軟禁状態だったせいで、ファーグ男爵が外とどう関わっているか知らないのが悔やまれる。

 ファーグ男爵も、今回のライグバレドへの訪問理由を俺に話すつもりはないらしく、会話は途切れた。

 俺は逃げ出すタイミングを計っていたのだが、アンヘルが抜身の長剣をぶら下げているせいで隙が見つからない。


「よし、こうしようか。コト、アンヘルと決闘しろ」

「――は?」


 いや、死ぬだろ。どう考えても死ぬだろ。

 俺は剣術の才能からっきしだぞ。

 しかし、ファーグ男爵の言いたいことは分かった。

 早い話が俺に死ねと言ってるのだ。それも、決闘の形を取る事であくまでもファーグ男爵家の名を汚さない名誉の死を与えようという腹だろう。

 心の底からお断りだ。

 だが、ここで決闘を受けないとファーグ男爵家の刺客が襲ってくる事態も有り得る。

 いや、もしも決闘を受けても勝ってしまったら、やはり刺客が送られてくるのか。

 方法があるとすれば、大衆の面前で圧勝することくらいだろうか。名誉大好きファーグ男爵が決闘に負けた腹いせに相手を暗殺したなんて知れたら、それこそいいスキャンダルになる。迂闊には手を出せなくなるだろう。

 問題はどうやって完勝するか、だな。


「決闘、ですか。精霊人機は持ってきてるんですか?」

「なに?」


 質問の意図が分からなかったのか、ファーグ男爵のみならずアンヘルまで眉を寄せている。

 二人の反応からして、俺が開拓学校の入学試験に落ちた理由、精霊人機の操縦士適性が皆無だという事も知っているらしい。

 ファーグ男爵は訝しみながらも俺の質問に答えた。


「アンヘルの機体は運ばせてある。新大陸は何が起こるからわからんのでな。しかし、決闘とどう関係がある?」

「純粋に剣と剣の勝負なんて〝卑怯な事〟を考えていたわけではないでしょう?」


 剣術指南役と武術全般に才能がない俺との決闘なんて、弱い者いじめと変わらない。

 しかし、この程度の挑発に応じるほどファーグ男爵は間抜けではない。ファーグ男爵が言う決闘は形ばかりのもので、俺を殺せさえすれば実力差なんて関係ないのだから。


「真剣勝負を卑怯とは、まったく度し難い奴だな」

「まぁ、話は最後まで聞いてください。先日のリットン湖攻略戦の失敗はご存知ですか?」

「当然だ。我が国の軍の威信をかけた作戦だったというのに、ホッグスの間抜けがしくじったらしいな」


 それがどうした、とファーグ男爵は眉を顰めて聞いてくる。俺がその場にいたことは知らないらしい。


「リットン湖攻略隊の生き残りをリットン湖周辺で纏めたの、俺とミツキなんですよ。その後の撤退戦でも戦ってます。その際に背中を怪我しましてね。怪我人相手に、真剣勝負で決闘なんてしたらファーグ男爵家の剣術指南役も落ちたモノだと馬鹿にされるのではないですか?」


 ファーグ男爵が目を細めた。


「……その怪我はどれくらいの者が知っている?」

「雷槍隊の隊員二人と雷槍隊の隊長であるワステード司令官を救出した際の傷、と言えば分かりますか?」


 鉄の獣が怪我をしたところで気にする者はほとんどいないが、司令官を救出した際の傷だとなれば話は変わってくる。当然噂になるし、当時マッカシー山砦にいた新旧大陸派の兵士はみんな知っているだろう。

 ファーグ男爵も理解したらしく、忌々しそうな顔をした。このまま強引に決闘すれば、俺が言った通り悪い噂が立つ。

 しかし、傷が治るまで決闘を先延ばしにする事は出来ない。

 ファーグ男爵だって仕事があるのだ。いつまでも旧大陸の所領を留守にするわけにはいかない。

 状況を理解してもらったところで、俺は畳みかける。


「アンヘルには精霊人機に乗ってもらいます。その上で、俺は精霊獣機に乗って戦う。ファーグ男爵が言う気持ち悪い兵器に魅入られた息子に引導を渡す忠義の騎士という脚本でどうです?」

「何を考えている?」


 あえて精霊人機に乗るよう勧める俺が何かを企んでいると考えるのは当然だ。俺も精霊人機に乗れるというのならともかく、あくまでも精霊獣機に乗って戦うというのだから、勝ち目のなさは変わらないように見えるだろう。

 アンヘルも警戒するようにディアとパンサーを見つめている。

 これだから素直さのない大人は困る。

 俺は企んでなどいない。

 ――ムカついてるだけだ。


「俺のロボぶっ壊しておいて、自分のロボは無傷で済ませようなんて虫のいいこと考えてんじゃねぇだろうな?」


 口調を変えて、腹に抱えた怒りをぶつけるが、ファーグ男爵もアンヘルも困惑するだけだった。


「なにかと思えば、子供の癇癪か。まぁ、よい。兵器に乗っての決闘ならば怪我に目を向けられることも少ないだろう。念のために聞いておくが、大型魔物を単独討伐したという兵器はそこに転がっているガラクタであっているのだな?」


 ここにきて神経逆なでしてきやがりますか。


「このディアであってますよ」

「ならよい。修理にどれくらいかかる?」

「技術祭の開催期間中は時間が取れないので、技術祭の最終日からさらに一週間です」

「ギリギリだな。準備ができ次第、声を掛けろ」


 連絡先としてファーグ男爵が口にしたのはライグバレドの高級宿だった。いま俺とミツキが泊まっている宿よりワンランク落ちている。

 技術祭の運営委員会の本気を垣間見た気分だ。技術祭の期間中に決闘することにならなくてよかった。半ばで死んだりしたらここまで便宜を図ってくれた技術祭の運営に顔向けできない。

 ファーグ男爵が立ち去ろうとした時、道の向こうから整備車両が走り込んできた。

 俺たちの側で急停止した整備車両から、青羽根の戦闘員が出てくる。

 さらに、整備車両の荷台から精霊人機、スカイが姿を現した。


「コト達が襲われてるって聞いて駆け付けたんだけど、どういう状況だ、これ」


 スカイの拡声器越しにボールドウィンが声をかけてくる。

 俺は軽く手を振って答えた。


「詳しい事は後で話すけど、もう心配いらない。それより、ディアの回収を手伝ってくれ」


 去っていくファーグ男爵やアンヘルを見送って、俺たちはディアを回収する。


「ミツキ、ディアを改造する。手伝ってくれ」

「逃げるのはなしなんだね。怪我もまだ治り切ってないくせに」


 不機嫌に言いながら、俺の背中を心配そうに見てくるミツキに苦笑する。


「完封勝利でもしないとファーグ男爵家は手を引かないからな」


 それに、準備期間を得られたのはありがたい。

 この準備期間内に、技術祭に集まっている客たちに向けて今回の決闘について喧伝し、人目に晒してしまえばいいのだ。

 そうすれば、最悪の場合、俺が死んでも他に類が及ぶことはないのだから。


「まぁ、死ぬ気はないけど」



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