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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第五章  二人は摂理から外れている
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第十九話  ボルス帰還

 ボルスの崩れた防壁の前には一機の精霊人機が地面に叩き潰されて機能を停止していた。

 正面に引き倒された後、背中側から強大な何かを力任せに叩きつけられたらしく、操縦士は生きてはいないだろう。

 その前にはこの惨状を作り出したと思わしき大型スケルトンが立っていた。精霊人機用のハンマーを両手に持った大型スケルトンは板状の遊離装甲を全身に纏い、ラメラアーマーを形作っている。

 その隣には二種類のセパレートポールを身に纏った大型スケルトンがいた。


「数が増えてるな」


 ロント小隊の整備車両から降りた俺はボルス防壁前の戦いに加わるべく、月の袖引くとともにスケルトンの群れの側面を突く。

 ボルス防壁前で疲労がたまった兵たちを蹂躙していたスケルトンたちが俺たち新手の登場で狙いを変更して向かってきた。

 月の袖引くが斜線陣を組み、瓦礫の山を左にしてスケルトンとの戦闘を始める。

 突出している斜線陣の左端にスケルトンの攻撃が集中するが、瓦礫の山を左にしているためスケルトンに囲まれることも回り込まれることもない。

 斜線陣の右端はタリ・カラさん操る精霊人機スイリュウが守り、スケルトンを一切寄せ付けなかった。

 陣が僅かに後退し、左端にいた団員が数歩下がって右隣の団員に場所を譲って体を休める。

 練度が高いとは思っていたが、そこらの軍人でさえできないような見事な連携で陣形を維持しながらスケルトンを押し込んでいく。

 仲間の窮地を悟ったか、ハンマーを両手持ちした大型スケルトンが月の袖引くへ右手のハンマーを振り上げ、迫ってきた。


「お二人とも、ここをお任せします。レムン・ライは二人の援護を」


 タリ・カラさんがシャムシールを腰だめにしたスイリュウを走らせる。

 大型スケルトンがスイリュウの接近にタイミングを合わせ、振り上げたハンマーを力任せに叩きつけようとする。

 しかし、ハンマーの間合いに入る寸前で急停止したスイリュウには当たらなかった。

 ハンマーを振り下ろした直後の大型スケルトンにスイリュウが一歩踏み込み、間合いに進入してすぐ左へ二歩ずれた。

 大型スケルトンがもう片方の手に持ったハンマーを振り上げて追撃しようとするが、スイリュウは間合いの外にいる。

 両手のハンマーを振り抜いた大型スケルトンが完全に硬直したその瞬間を見逃さず、スイリュウが大きく一歩を踏み込み、腰だめにしていたシャムシールを振り抜いた。

 風を巻くシャムシールは轟音を立てて大型スケルトンに迫り、ラメラアーマーのように体を覆っていた精霊人機用の遊離装甲を三枚、彼方へと弾き飛ばした。

 しかし、出力の弱いラウルドⅢ型のスイリュウでは遊離装甲を弾き飛ばすのが精いっぱいで大型スケルトン本体にダメージを与えられていない。

 大型スケルトンもスイリュウの攻撃に脅威を感じなかったのだろう、ハンマーを構え直すと隙ができるのもお構いなしに致命傷狙いの攻撃ばかりを繰り出し始める。

 スイリュウは攻撃を避けながら、時折シャムシールを振るって大型スケルトンの遊離装甲を弾き飛ばしていく。

 一見形勢が悪そうに見えるが、スイリュウの動きはしたたかだった。

 大型スケルトンを誘導し、スケルトン種の群れの中へおびき寄せたのだ。

 大型スケルトンは足元にいる取り巻きのスケルトンを気にしてハンマーを振り下ろすことができず、横薙ぎを余儀なくされる。

 ただでさえ重たいハンマーで致命傷狙いの振りを横薙ぎに繰り出せば、大型スケルトンの動きは一振りごとに長く硬直してしまう。

 硬直した大型スケルトンに対して、スイリュウはシャムシールで切り付け、遊離装甲を弾き落とす。

 足元のスケルトンたちは勢いよく降ってきた遊離装甲に潰されて粉みじんとなった。

 そう、最初からタリ・カラさんは大型スケルトンを仕留めようと考えていないのだ。

 スケルトンがスイリュウと大型スケルトンの戦闘に巻き込まれて数を減らしていく中、月の袖引くの団員は陣形を維持しながらスケルトンを押し込み、スイリュウと大型スケルトンの戦場へ追いやって行く。

 俺はミツキと共に魔術を使えないらしいスケルトンを狙い撃ちした。前衛役をレムン・ライさんが務めてくれているため、後方から安全かつ正確に狙撃していく。

 月の袖引くに殺到しようとしたスケルトンの群れにミツキが魔導手榴弾を投げ込んで爆破し、人員交代のために下がろうとした団員を援護するためにスケルトンを凍結させて時間を稼ぐ。

 順調にスケルトンの群れを押し込んで広場を作った月の袖引くと俺たちはボルスの防衛に当たっていた歩兵部隊と合流した。

 レムン・ライさんが俺を見て頷く。


「いまです」

「伝言ですね」


 腰を浮かせて、ディアを加速させる。

 レムン・ライさんの頭上を飛び越えてスケルトンを押し倒し、ディアの足で頭蓋骨を粉砕しつつ加速する。

 ボルスの歩兵隊に合流した俺たちはスケルトンに攻撃を加えつつ歩兵隊長に駆け寄った。


「瓦礫の後ろへ引いてください。雷槍隊がスケルトンの群れに突っ込みます」

「到着したか!」


 歩兵隊長が歩兵たちに指示を出し、緩やかに撤退する。

 同時に、月の袖引くが斜線陣を維持したまま瓦礫を登り始めた。

 瓦礫の裏に歩兵が全員入った事を確認し、俺はミツキと揃ってライトボールを打ち上げる。

 白み始めた空に煌々と輝くライトボールが溶けるように消える。

 直後、地響きが聞こえてきた。

 大地を揺らすその地響きが急速に近付いてくる。

 白み始めた空を背景に槍を構えて横一列に突っ込んでくる黒い専用機の姿が浮かび上がった。

 全部で六機、螺旋状に魔導鋼線が巻かれた柄に付いた青い金属の刃を突き出し、全速力で駆けてくるのはワステード元司令官の愛機ライディンガルを始めとした雷槍隊だ。

 足並みを合わせた雷槍隊が一歩を踏み出す度に瓦礫がカタカタと鳴り出す。

 大型スケルトンが迫りくる雷槍隊機に気付いて迎撃態勢を取ろうとした時、すかさずスイリュウが切り込んだ。

 深く踏み込んだスイリュウがシャムシールを一閃すると、大型スケルトンの首が落ちる。

 しかし、頭蓋骨の破壊には至っていない。

 頭を失ったスケルトンの体が遊離装甲ごとガラガラと崩れ出すが、大型スケルトンの頭蓋骨はカタカタと顎を鳴らして健在をアピールした。

 人間と同じ大きさの小型スケルトンたちが大型スケルトンの頭蓋骨を持ち上げて撤退を始める。


「ちょっとシュールでかわいいかも」


 大型スケルトンの巨大な頭蓋骨を御輿のように担いで撤退する小型スケルトンを見て呟いたミツキが、容赦なく凍結型の魔導手榴弾を投げつけた。

 魔導手榴弾は大型スケルトンの頭蓋骨が周囲に張っていた魔力膜に勢いを殺されて、手前に落下する。

 しかし、落下地点を中心に広がった凍結現象は頭蓋骨を担ぎ上げているスケルトンの足元にまでおよび、動きを大幅に鈍らせた。

 もう一体の大型スケルトンが仲間の窮地に気付いて動き出すが、スイリュウと青羽根の精霊人機スカイが挟み撃ちにして動きを封じる。

 雷槍隊の精霊人機六機が槍の穂先を地面すれすれに構え、スケルトンの群れに突撃した。

 巨大な槍の穂先で斬り裂かれたスケルトンの群れは雷槍隊機の足に踏み潰されて粉々に砕け散り、骨粉を地面にばら撒いた。

 二種類のセパレートポールを纏ったスケルトンが顎をカタカタと打ち鳴らし、撤退を始める。

 空には日が昇り、周囲も明るくなっていた。

 スケルトンの群れに追撃を加えようと動き出す前に、森の中からアップルシュリンプが顔を出した。

 スカイが瓦礫を越えて戻ってくる。


「悪い、魔力切れだ。すぐ戻る!」

「この場は雷槍隊が守護する。他の精霊人機は魔力を込め直し、タラスクが来るまでに迎撃準備を整えよ」

「月の袖引く、戦闘を継続します」


 精霊人機の操縦士たちが口々に拡声器でやり取りする。

 雷槍隊がやってきた方角から、ロント小隊を含む混成部隊がやってきた。精霊人機が六機、駆けつけて瓦礫の山を越え、駐機姿勢を取る。

 ベイジルが乗るアーチェからボルスの防衛軍歩兵部隊に声がかかった。


「負傷兵を搬送、マッカシー山砦への撤退部隊に組み込みなさい。ここは一時、リットン湖攻略隊の生き残りが防衛に当たってくれます。いまは体を休めなさい」


 あわただしく歩兵たちの人員交換が始まり、甲殻系魔物の襲撃に備えて陣が組まれていく。

 満身創痍ではあるものの、車両の中で体を休めていた新兵たちはボルスの防衛軍に比べればまだ気力や体力が残っている。

 甲殻系魔物との戦闘を行いながら、怪我人の搬送や人員の交代、武器の補給などで人が慌ただしく動き回る。

 俺は建物の上にディアで飛び乗り、まだ森の中で戦闘態勢を整えていない甲殻系魔物を次々に狙撃していく。

 隣で観測手を務めてくれるミツキが双眼鏡で魔力袋持ちの気配が濃厚な中型魔物をピックアップして次々に標的を指示してくれる。


「俺は撃つ機械。俺は撃つ機械」

「私は告げる機械。告げる機械」


 興奮気味に戦っている歩兵たちの気迫に飲まれて狙いが甘くならないよう、小ネタを挟んで心に余裕を保ちながら引き金を引き続ける。

 銃身が熱を持つたびに冷やしていると、気を利かせたボルスの防衛軍から対物狙撃銃と弾の差し入れがあった。

 ついでに三人、足を怪我した兵が狙撃手として回されてくる。

 男性二人、女性一人の軍人はいずれも三十代の半ばだが、狙撃銃を扱った経験はほとんどないという。訓練として少し、という程度だそうだ。


「前線で戦えませんが、狙撃なら可能ではないか、と言われてきました」


 敬礼する三人を無視して引き金を引く。

 弾を込めた対物狙撃銃をミツキが渡してくれた。


「パス」


 渡された対物狙撃銃をディアの角に置き、森の中のブレイククレイに向けて引き金を引く。


「キラーパス」


 ブレイククレイの頭がはじけ飛ぶのをスコープ越しに確認しつつ、俺は三人の兵に声をかけた。


「ミツキが指示した獲物を狙ってください。森の中に友軍はいませんから、外しても大丈夫です。屋根の上に等間隔で並んでください。もしも狙った魔物が魔術を使用したらすぐに狙撃を中止して俺かミツキに知らせてください。触角と目玉、鋏を撃ちぬいて無力化します」

「この距離からですか?」


 森までの距離は六百メートル以上、標的は森の中にいるため八百メートル以上の距離での狙撃能力が求められる。

 ディアの照準誘導の魔術で補助を受けられる俺でもなければ、目玉や触角を破壊することはできないだろう。


「スコープでヨウ君が撃ってる獲物を見ればいいよ」


 ミツキが森の一点を指差して三人の兵士に言う。

 ご希望に応えて、身体能力強化を施して臨戦態勢に入っているブレイククレイの目玉を破壊する。

 視力を失って木に激突した隙に触角を二本とも破壊。

 周囲の状況を確認する術を失ってふらついているブレイククレイの鋏の付け根を撃ちぬき、攻撃手段を失わせる。


「……人間業じゃない」


 女性兵士が呆然と呟く。

 それはそうだ。人間じゃないディアの力を借りて撃っているのだから。

 銃身を冷ます必要があるため、俺は愛用の対物狙撃銃に加えて軍から貸与された二丁の対物狙撃銃を使い回しながら狙撃を続ける。

 三人の兵士に、ミツキは極力魔力袋を持っていなそうな個体を選んで狙撃指示を出していた。

 木の葉に覆われた森の中から即座に獲物を見つけるミツキに、兵士たちが驚いている。

 パンサーの索敵魔術をフル稼働しているため、森の中を移動している魔物を発見するなど造作もない。

 俺を含めて計四人分の標的を的確に割り振っているのはミツキの観察眼あってこそだろうけど。

 発砲音で曲でも奏でられるほど景気よく撃ちまくる。弾丸は軍が出してくれるのだ。まったく気前がいい。

 弾の数だけ魔物が死ぬ。撃ち尽くしてやんよ。

 何体目かもわからない魔力袋持ちの魔物を無力化した時、バキバキと木々をへし折りながらカメ型の大型魔物、タラスクが現れた。

 距離はおおよそ三キロといった所か。狙撃の範囲外だ。

 現れたタラスクは四体、どれも精霊人機を警戒しているのか三キロの位置で止まった。

 直後、四体のタラスクが一斉に火球を浮かび上がらせる。


「ロント小隊、ロックウォールを展開せよ!」


 ワステード元司令官が乗るライディンガルから指示が飛び、ロント小隊の精霊人機三機が駐機状態から立ち上がると歩兵の前に出てロックウォールを展開した。

 タラスクたちが放った四つの火球がロックウォールに衝突し、森に火をつける。

 本格的な防衛戦の始まりを続けるの狼煙のように、森から黒い煙が立ち上った。



・戦力内訳

 軍

 ・ワステード副司令官特別機ライディンガル(無傷)

 ・雷槍隊(専用機)五機(無傷)

 ・ベイジル弓兵機アーチェ(無傷)

 ・ロント小隊精霊人機三機(小破)

 ・リットン湖攻略戦生き残り機体三機(小破、要整備)

 ・ボルス防衛部隊一機(要整備)

 ・リットン湖攻略戦生き残り歩兵千人(よく生きてたね!)

 ・ボルス防衛部隊歩兵千人(死相が浮かぶね!)

 ・マッカシー山砦所属随伴歩兵部隊二十人(リンデ含む)

 開拓者

 ・開拓団〝青羽根〟スカイ(要整備)

 ・開拓団〝月の袖引く〟スイリュウ(無傷)

 ・鉄の獣ディア、パンサー


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