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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第五章  二人は摂理から外れている
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第一話  リットン湖攻略隊出発

 精霊人機総数三十機、整備車両十五台、運搬車両二十台、歩兵四千人、整備士等二千人を率いて、ホッグスとその直属専用機部隊、赤盾隊がボルスの町中を行進していく。

 スカイに使用している改造されたものとは違う、素のままの超重量級遊離装甲セパレートポールを真っ赤に染めた物を纏い、白と赤で威圧的にまとめられたカラーリングを施された耐火性の分厚い外部装甲に包まれた赤盾隊の存在感は凄まじく、同じ専用機部隊である雷槍隊を見慣れているはずのボルスの人々も呆気にとられたように見送っている。

 リットン湖攻略隊は総数八千からなる常識外れの編成で防衛拠点ボルスを出発した。

 二千ほどは輜重隊で、精霊人機も三十機中五機がこの輜重隊を守るためボルスとの間を行き来することになる。

 実質的な戦闘員は歩兵四千人と精霊人機二十五機だが、二十五機のうち十二機が専用機という異例の編成だ。

 赤盾隊六機を先頭にボルスを出発したリットン湖攻略隊の最後尾にはワステード元司令官直属専用機部隊、雷槍隊が続いている。


「本当に隊長機まで引っ張り出したんだな」


 ワステード元司令官が乗っているのだろう、他より一回り大きな雷槍隊の隊長機ライディンガルを見送りつつ、呟く。

 他の精霊人機よりも高品質の魔導核を使用し隔絶した実力を持つ専用機の中でも、隊長機はさらに頭一つ抜き出ている。

 他の専用機よりさらに上位のスペックを持っている事もそうだが、操縦者が専用機部隊を率いるに足ると認められる実力の持ち主だからだ。

 ワステード元司令官もそうだが、あのホッグスでも軍内部では最上位の実力者という事になる。


「新聞記者も来てるね」


 ミツキが大通りに面した宿を見上げる。

 ミツキの視線を追って目を向ければ、仲間と情報交換しながらメモを取っている記者たちの姿があった。

 大々的に出発して、しかもこの編成。


「失敗どころか、損害を被っただけで叩かれそうな雰囲気なんだけど、ホッグスは何を考えてるんだ?」

「ちょっと分からなくなってきたね。旧大陸派に損害を出させて、新大陸派は実績を作って万々歳、って単純な話じゃなくなってきた気もする」


 リットン湖攻略隊を見送って、俺はミツキと一緒にギルドへ足を向ける。

 今朝方、月の袖引くの倉庫で改造成功の打ち上げでもしようかと話していたところでギルドから呼び出されたのだ。


「指名依頼がバッティングしてるとか言ってたけど、一人はビスティだろうな」

「新種の植物採取の件だね。報告書のまとめも最終段階に入ったのかな」

「もしそうなら、玉砕する日も近いって事か」

「砕ける前提なんだね。私もそう思うけど」


 ギルドホールに顔を出すと、タリ・カラさんに恋しちゃってる系男子のビスティが凄腕開拓者二人に護衛されながら俺たちを待っていた。


「お二人とも、報告書がほぼ完成したので、実証する資料の作成のため、テイザ山脈に入ってほしいんです」


 駆け寄ってきたビスティは挨拶もすっ飛ばして依頼内容を口にする。

 ここ数日ビスティが研究する姿を護衛として間近で見ていたからか、凄腕開拓者たちは苦笑するだけで止めなかった。

 ミツキにバッティングしているもう一つの依頼を確認しにカウンターへ行ってもらって、俺はビスティから依頼書を受け取る。


「報告書にある通りの条件で植物が生育していることを突き止めればいいのか。群生地なら地図も描いて、標本も採取する、と」

「はい。三種類の新種の植物です。開花時期が終わっている場合、葉や茎だけでは素人目には見分けがつかないと思うので、標本の採取もお願いしたいんです」


 ビスティの言う通り、葉や茎だけで見分けをつけられるほど俺の観察眼は鋭くない。


「種とか、球根の類は?」

「それはこちらで持ち帰った資料で手に入れました。三年か四年かけて発芽条件の検証などもするつもりですけど、報告書の内容を実証できればひとまず形としてまとまります。そうすれば、僕は月の袖引くに入団を希望します」


 ビスティは意気込みを表す様にぐっと拳を握る。

 この内容なら二日程度で終わらせる事は可能だろう。魔物の群れに遭遇しなければ、の話だけど。


「――ヨウ君、バッティングしていた依頼だけど、ベイジルからみたい。いま、本人がこっち来るって」

「ベイジルから?」

「テイザ山脈の魔物の調査だって。ホッグスがいなくなったから、鬼の居ぬ間に調査しておこうってつもりじゃないかな」


 テイザ山脈から魔物が姿を消したという報告を俺たちが以前あげていたが、ホッグスは何も行動を起こさなかった。

 リットン湖攻略隊が出発した今では遅きに失した感があるが、それでも調査をしておくに越したことはないとベイジルは考えたのだろう。

 ほどなくして、ベイジルがギルドにやってきた。


「遅くなりまして、申し訳ありませんね。テイザ山脈から魔物がいなくなったという以前の報告から数日が経っておりますが、確認してきていただきたい」


 ベイジルの出してきた依頼書を見せてもらう。


「魔物の生息密度の調査か」

「はい。もともとの生息密度は推定なのであまり役には立ちませんが、それでも比較して問題ありとみなせれば軍の武装もスケルトン種を想定したものに切り替え可能なようにしておかねばなりません」


 あとで武装の変更をホッグスに指摘された時の反論資料が欲しいという事か。

 俺はベイジルと一緒にやってきた整備士君を見る。


「それで、テイザ山脈の調査中はそこの整備士君を同行させてほしい、と。まぁ、理屈は分かるけど」


 俺とミツキの発言は信憑性が認められない可能性が高い。ホッグスが相手となればなおさらだ。

 そこで、同じ軍人である整備士君を同行させる事で調査資料に監査の眼を入れ、信憑性を付加しようというのだろう。

 説得の材料づくりとしては正しい判断だが、何故この人選なのか、と俺は整備士君の態度を観察する。


「あからさまに嫌々ですって態度だと、俺たちも連れて行きたくはないな。監査役のご機嫌を取りながら護衛して、テイザ山脈内を回るって事だろ?」


 危険な状態になった時こちらの言う事に素直に従ってくれない護衛対象なんて足手まとい以外の何者でもない。

 テイザ山脈でもしもスケルトン種の群れに遭遇したなら、即座に離脱を図る必要がある。そのためには、必要とあらば精霊獣機に乗る事も躊躇わない覚悟が必要だ。


「精霊獣機に乗れるのなら、その依頼を受ける」


 これだけは譲れないという意思を込めて問うと、整備士君は苦い顔をしながらも頷いた。


「ベイジルさんの頼みだから乗るんだからな」

「……ツンデレ乙」


 ミツキ、多分整備士君はデレないと思うぞ。

 ミツキの呟きの心の中で突っ込んでから、俺はギルドのガレージを指差す。


「なら、試してみようか」

「……いまからか?」


 心底嫌そうに顔をゆがめながら、整備士君がガレージを見る。


「乗れるようなら、そのままテイザ山脈に向かう」


 そろそろビスティの依頼が来る頃だろうと思って準備はしてあったので、いつでも出発できるのだ。

 整備士君がベイジルを一瞬見てから、ため息を吐いた。


「なら、すぐに出発しよう」


 きちんと覚悟はしてきたらしい。

 俺はベイジルから調査項目を聞いて、ミツキと整備士君を伴ってガレージに赴く。

 見送りに来てくれたビスティを振り返って、月の袖引くや青羽根への伝言を頼む。


「打ち上げは四日後にしたいと伝えてくれ。二日後には戻るけど、一日くらいゆっくり休みたいからな」


 改造が一段落したとはいえ、まだ微調整は残っているのだが、一度新型機開発を行った青羽根の団員もついているから何とかなるだろう。


「分かりました。伝えておきます。青羽根に護衛も頼まないといけないので」


 リットン湖攻略隊が出発したという事は、ロント小隊に何かあった時には今ビスティの護衛をしている凄腕開拓者二人も救援に向かう。

 代わりにビスティの護衛を頼むなら、青羽根になるだろう。


「避難しないといけない可能性もあるから、研究資料とかもまとめて避難準備はしておけよ」

「分かってますよ。その時は港町まで送ってくれるんですよね?」

「ディアに乗ってもらう事になるけどな」


 俺がディアの頭を撫でつつ笑うと、ビスティは苦笑した。


「そうならない様に青羽根を説得します」

「まぁ、頑張れ」


 ディアの背にまたがり、いやそうな顔をしている整備士君を乗せてガレージを出発する。

 周りの目を気にしていた整備士君がため息を吐いた。


「本当に、こんなものに乗るお前らの気がしれない」

「へぇ」


 どうでもいいという気持ちを前面に押し出しながら生返事をしてやると、整備士君は不機嫌な空気を出しながら押し黙った。

 ミツキがくすくす笑っている。


「ケンカしたがってるんだから、買ってあげなよ」

「安物買いの銭失いって言うだろ。あの言葉って喧嘩にも当てはまると思うんだ」

「安い挑発に乗ると自分の価値が下がるんだね」

「――お前ら好き放題に言いやがって」


 整備士君が口を挟んでくる。


「いまの俺たちの会話も安い挑発の部類だぞ?」

「……くっ」


 悔しそうに整備士君が言葉を詰まらせる。

 何こいつ、からかうと面白い。

 ボルスの防壁を潜って外に出た俺たちは、森に入る。

 そのままテイザ山脈に向けてディアを加速させた。

 行商人のビスティとは違って、整備士君はディアの急加速に悲鳴一つ上げなかった。

 テイザ山脈に到着してすぐ、整備士君をディアから降ろす。

 整備士君は周囲を見回しつつ耳を澄ませているようだ。


「魔物の気配が全くないな」

「索敵魔術にも反応がないくらいだしな。もう一つの依頼もあるからすぐに移動するぞ」


 ミツキにパンサーで木へ登ってもらって周辺の地形を調べ、ビスティの報告書にある条件に合致した場所を探しつつ、テイザ山脈を動き回る。

 軍人として体を鍛えているという整備士君は、最初の内こそディアとパンサーの速度に合わせて早足でついてきていたが、すぐにバテはじめた。

 精霊獣機に揺られている俺とミツキは当然ながら息一つ上がっていない。


「諦めてまた乗ったらどうだ?」

「誰がそんな物に乗るか」

「いや、正直な話、もっと早くテイザ山脈を見て回りたいんだ」


 ビスティからの依頼を二日以内に終わらせるためにも、また、ベイジルからの依頼された調査の結果の精度をより高めるためにも、広範囲の探索が必要だ。

 整備士君の歩く速度に合わせていられない。


「どうしても乗りたくないみたいだし、引っかけちゃえば?」


 ミツキがさらっと〝きちんとじゃない乗り方〟を提案する。

 駄々をこねるならそれしかないな、と思いつつ、俺は自身の腕に身体強化の魔術を掛ける。

 しかし、俺が腕力に訴え出るより早く、整備士君が舌打ちしつつ呟いた。


「分かったよ。乗ればいいんだろ、乗れば」

「――ヨウ君、デレたよ!」

「嬉しくねぇ!」

「お前らッ!」


 冗談を挟みながら、俺は整備士君が乗れるように座りをずらす。

 俺の後ろに整備士君が乗ったのを確認してディアを加速させた。


「やけに素直だな。もっと嫌がるかと思ったけど」


 水を向けると、むすっとした顔のままの整備士君から答えが返って来た。


「調査隊を助けてくれたのは事実だし、ベイジルさんもあの後無理してる感じが無くなった。……感謝はしてんだよ」

「ミツキ、こいつやっぱりデレたぞ!」

「ヨウ君のデレ以外は無価値です!」

「お前ら本当にいい加減にしろよ!?」


 まぁ、なんだ。

 今までの整備士君の態度を思えばさ。


「――照れ隠しくらい目を瞑れよ」

「……おう」



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