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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
7/30

一夜開けて2

「うちの妹がすまなかったね……」


 一連の話をミレーニアに納得して貰ったあと、こっそり抜け出してきたミレーニアは一度部屋に戻って行きました。

それでようやく落ち着いた陛下が、威厳も何もなくイスにぐったりと腰掛けながらそう謝罪しました。


「いえ……とても綺麗な方に気に入って頂けて……」


 実際驚きはしましたが、人形のような容姿のミレーニアにあそこまで気に入ってもらえたのは当たり前に嬉しかったりします。


「それは良かった。……えーと、なんの話をしようとしてたのか忘れてしまったよ。あっ!私について何か知りたいことあるかい!?」

「いいきなりですか!?」


 完全に今思いついたようにはっと顔を上げそう言います。


「名前は昨日言ったかと思うけど、陛下なんか堅苦しい呼び名ではなくフィアハルトって呼んでくれ!歳は26で両親は旅に出てどこかをフラフラしているが健在だよっ。皇帝になってからは……10年位だなっ。さっきのミレーニア以外にもあと弟が2人いるので後程連れてくるな!」


 嬉しそうな表情で一気に皇族情報を話す陛下は、とてもこの国の最高権力者という雰囲気はありません。

 キラキラした目を向けながら私の反応を伺っているようです。


「……私は元の世界に戻れるのですか?」


 私がそう言うと場の空気が変わります。

 家族と引き離された私に家族の話をするなんて……


「私の都合も考えず召喚し、契約者や皇后等勝手に話を進めて私が大人しく従うと思っていたのですか?正直この国の事は私には関係ありませんよね?」


 真っ直ぐと陛下を見つめそう言いますが、陛下はさっきと変わらない表情で見つめ返してきます。

 視界にクラレスが動いたのが目に入りましたが、すぐ陛下が止め代わりに口を開きます。


「そうだね……君には関係の無い事だ。だが私はこの国の皇帝だ、この国の為ならどんな恨みを買おうが多少の犠牲すら気にもしないよ。君の事も悪いとは思っているよ、だからこそ全力で君に幸せに過ごして貰う環境を作るつもりだよ」


 そこですっと笑顔を作り続けます。


「正直、体一つでこちらに喚ばれた君は誰かの加護下になければ生きては行けないだろう。私は悪い大人だからね、追い詰める訳じゃないけどもし君が拒否したら君の周りから攻めるつもりだったんだよ。でも幸か不幸か君は竜皇陛下と巡り会った。もうそれだけで目的の一つは達成出来ているんだよ」


 あぁ……この人はさっきまでの頼りない姿からは想像できない程、その身の内では貪欲に国の為なら手段を選ばない人……。それがフィアハルト皇帝陛下……。

言葉も出ないまま陛下の顔を見ていると、後ろから伸びてきた腕に抱き留められる。


「我の可愛いサキをいじめてくれるな」


 ふわっとマクスウェルに抱き締められ、安心感から力が抜ける。

 マクスウェルはいつも通り私の頭に鼻を埋めます。


「マクスウェル……」

「我としてはそなたが喚ばれた事は喜ばしく思っておるのだ。我の可愛いサキ……」


 座っていた私を抱き上げ愛おしそうにぎゅっと腕に力を入れます。

 この時、私は初めて白くなるほど強く手を握り締めていたことに気付きました。


「……そうだね、悪かったサキ」


 申し訳なさそうな表情でそう言いい近くまで来ると、マクスウェルの腕の中にいる私に顔を近づけてきます。


「泣かないでおくれ……。何よりも大切にするから。あまり泣かれると私が竜皇陛下に怒られてしまう」


 陛下がそっと私の頬に触れます。

 無意識のうちに涙が流れていたようで、優しく指で拭き取ってくれます。

 泣いている事に気付いてしまったら急に色んな感情が襲ってきて、涙が止まらなくなりました。


「ふっ………うぅ……」


 泣き止まない私をあやすようにマクスウェルが抱き抱え、頭を撫でてくれます。

 陛下もとても私には勿体ないようなハンカチで涙を拭き取ってくれています。


「……竜皇は羨ましい。こんな可愛いサキとずっと一緒にいたなんて」

「ふふっ。これからも渡さぬがな」


 泣いてる私のすぐ上で、彫刻のように整った顔が二つうっすらと笑みを浮かべています。


「あっ。そう言えば言い忘れてました。今後どうするかは我々ではなくサキに選んでいただこうかと思っておりますが、サキは竜皇陛下の事は良く御存知でしょうが、うちの馬鹿陛下の事は良く知らないでしょう?ですので毎日少しずつ会ってお互いを理解して頂きたいのです。ですので竜皇陛下、ベッタリしてないで少しは離れてて下さいね?それ位の余裕はお持ちでしょうが」


 ここでクラレスが爆弾投下です。そんな言い方をされたら従うしかないような気がします……


「……まぁ……それ位は……」

「本当かい!?よしっ今日午後からスケジュールに余裕があるんだっ少し裏の森を散歩しようサキっ!」


 小さく呻くマクスウェルを横目に、目を輝かせて大はしゃぎの皇帝陛下です。


「うぅむ……では我は今日は森で休んでいようか……。サキ、寂しくなったらいつでも来い」


 落ち込んだようにそう呟くと私の額に口付けを一つします。


「あっ抜け駆けはズルいよ竜皇!」


 そう叫ぶと陛下はグイッと私の顔を寄せ、頬に口付けをしました。

 自分でも耳まで真っ赤になっているのが分かります。


「おや。では私もした方が良いですかね?別に陛下や竜皇陛下だけが候補ではないですし」


 そう言うとクラレスが私の顎を持ちクイッと上を向かせます。

完全に茹で上がって硬直した私を、マクスウェルがクラレスから引き剥がすように距離を置きます。


「クラレスっ!?おまっ……えっ!?」

「冗談ですよ。まぁサキが私を選んでくれるのなら喜んで迎えますが。では私は執務に戻りますので、馬鹿陛下もさっさとお戻り下さいね」


 そう言うと書類をまとめ行ってしまいました。

 取り残された私たちは呆気にとられたままです。

 いつの間にか候補になっていたクラレスの、一番余裕の態度がなぜか怖いですね……。

 クラレスが出て行くのと同時に陛下付きの侍女が公務に戻るよう呼びに来たので、ひとまず陛下も戻ることにしました。


「では昼になったら呼びに来るよ。軽食でも持って散歩に行こうか。まだサキの事は公に出来ないけど、ここにいる侍女には全て伝えてあるから色々お願いすればいいよ」


 そう言い残し足早に去っていきました。


 その後マクスウェルは森でゴロゴロして来ると、窓を開け放ち顔面蒼白で止めに入る侍女を尻目に飛んでいってしまいました。

 確かに行きなり棟の窓から出ようとする人が居たらそんな顔色になりますよね……。


 私は侍女達にこの棟の間取りや立ち入り禁止区域、それと生活していく上での簡単な注意を受け、あっと言う間に昼になってしまいました。


「サキ様、もうすぐ陛下がお越しになるとの事です」


 私の面倒を見てくれる事になった侍女、アマリーがそう伝えに来てくれました。


「ありがとうございます!アマリーさん」


 アマリーは私と歳が近く物腰も柔らかい人なのですぐに打ち解けました。

 アマリーは私の言葉に笑顔で返すと、昼用の軽食の入ったバスケットを持ってきてくれました。


「あんなにはしゃぐ陛下は初めて見ました。ふふっ……もうサキ様しか見えていないようですね」

「えっ?いつもあんな感じじゃないんだ?」


 どこか嬉しそうにそう語るアマリーを尻目に、陛下はああ言う人と思っていた私は驚きを隠し切れません。

 そんな他愛もない会話をしていると、噂の陛下が入ってきました。


「サキ!待たせたかなっ?もう午後の分の仕事もあらたか済ませてきたよ!これで少しはゆっくり話が出来るね!」


 そう言いながら金色の髪をふわふわと揺らし力一杯私に抱きついてきます。


「きゃっ!」

「陛下!サキ様が潰れてしまいますっ」


 アマリーが止めに入ってくれたのでどうにか助かりましたが、昨日のミレーニアが思い出されます……。


「あぁっごめん!つい嬉しくってね。今日は森の小道の先に開けた所があってね、そこで話しでもしながら昼食でもとろうよ」

「はい、喜んで!何か……随分嬉しそうですね?」

「嬉しすぎる位だよ!さっ行こう!」


 目を輝かせて私の手を取ると、そのまま足早に森に向かいます。


 裏の森に続く小道は程良く手入れがされつつ、なるべく自然の姿を残すように作られた道で、お世辞にも快適に歩けるような道ではありませんでした。

 陛下は私の歩幅に合わせて歩き、会話が途絶えないよう周りの景色について色々な話をしてくれていたので、思ったよりは苦にならず目的の場所まで到着しました。


「うわぁ……綺麗……」


 着いた所は森が開け、花が咲き誇る場所でした。人工的に植えた花ではなく、自然に咲いた花なようで色々な種類の花が咲いています。


「丁度見頃で良かったよ。ここなら周りから見えることもないし私もサキも楽に出来るしねっ」


 そう言うと私の手を取り花の中を進みます。

 程なくして辺り一面花に囲まれる所まで来ると、陛下はおもむろに横になってしまいました。


「ふぁー……やっぱり気持ちいー」


 正装とまでも行かないですが、それなりの装いをしているのにも関わらず気持ちよさそうにゴロゴロとしています。


「あははっ。陛下、マクスウェルとそっくり!」

「竜皇に?あーなんとなく分かる気がする。ゴロゴロしてそう」


 服が汚れるのを気にしなかったり頭に花弁をつけて見上げてくるところなんかそっくりです。

 私も笑いながら寝そべっている陛下の隣に腰を下ろします。

 座ると背丈の高い花がいくつかある為か、すっかり埋もれてしまっているような感覚になります。


「あっ。さっきアマリーさんに包んでもらったお昼頂きませんか?」


 すっかり隣でゴロゴロしている陛下を眺めていて忘れてましたが、陛下が自身のお腹の上に乗せているバスケットを見て思い出しました。


「そうだった忘れてた」


 陛下自身もお腹の上に乗っている物の存在を忘れていたようで、バスケットを抱えなおし起き上がります。

 陛下が無邪気にバスケットを開けているのを横目に、陛下の頭や服に付いたままの花弁をとり払います。

 サンドイッチはスモークした鶏肉と、この時期が旬の葉物野菜数種類にハーブソースをかけた外でも食べやすい大きさと内容の物でした。


「あまり食べ過ぎると寝てしまいそうだから丁度良いねっ。いただきまーす」


 どこまでも無邪気なその姿に、失礼ながら本当に皇帝陛下なのかと疑ってしまいそうではあります。

 でもつい声に出して笑ってしまっていたようで不思議そうな顔で見られています。


「ふふっ……すみません。陛下ですのについ友達感覚になってしまいそうで」

「ん?いやむしろ嬉しいよ!自然体で話してくれる人なんて肉親とクラレス位だからね。私も堅苦しい話し方しなくても良いのが楽だよっ」


 そうコロコロ笑いながら言うと頭を撫でてくれます。マクスウェルも良く頭を撫でてくれますが男の人ってこうなのでしょうか?悪い気はしない……むしろ気持ちが良いのでニッコリ微笑みながらされるがままですが……。


「陛下は誰にでもこういう感じだと思ってましたけど、アマリーさんもこんな陛下は見たこと無いって驚いてましたね」

「うん?さすがに皇帝だからね、絞めると所は絞めるよ。むしろ『現皇帝は慈悲無き即断』って言われてる位なんだよ?こんな姿が事態が機密かもね」


 サンドイッチをモグモグ頬張りながら言われても全然説得力ないですけどね……。


「確かに花祭りの時とは雰囲気が違いますね。あの時は大事な式典中だからかと思ってたのですが」

「あの時はどんな印象だったの?」


 そう言うと何やら意地悪そうな表情で覗き込んできます。本当にそういう所までマクスウェルに似ています。


「んー……。流れるように低く落ち着いた声が気持ちよくて、ふんわりとした金髪に整った顔が光でキラキラしていてまさに絵本で見るような『王子様』って印象で眩しかったですし、所作も洗礼されていて雲の上の存在……かな?」

「今は?」


 意地悪そうな表情から今度は嬉しそうな顔になり近づいてきます。


「すごい親近感?」


 その言葉を聞くと嬉しそうに笑ってまた地面をゴロゴロし始めました。何かがツボだったらしいのですね。


「あはははっ。何それすっごい嬉しい!親近感!実はもうちょっと皇帝の顔をしてようか悩んでたんだけど、やっぱり素で話してて良かったー!と言うかサキを見た瞬間嬉しすぎて皇帝で居られなかったんだけどね」

「『~陛下』って付く人ってそんな感じの性格の人が多いんですか?何もかもがマクスウェルそっくりで面白い……。あぁもう陛下ったらこんなに花弁を付けて……」


 目に涙を浮かべる程笑い転げている陛下の頭に付いている花弁を取ろうと手を伸ばします。

 するとその腕を引っ張られて陛下の上に倒れるように乗っかってしまいました。


「きゃっ!すみませんっ……手を放して下さい……!」

「はははっ真っ赤になって可愛いなー。少しだけ」


 そう言うと手を放すどころかぎゅっと私を抱き締め、髪に鼻を埋めるように顔をこすり付けてきます。


「昨日から竜皇が羨ましかったんだ、私だってサキを抱き締めたいさっ。竜皇が鼻をくっつけてる理由が分かったよ……柔らかい日向の匂いがする……」


 そう言うと耳の当たり顔を埋めてきます。

 凄くくすぐったいのと恥ずかしさから陛下の上にもかかわらず、バタバタと身悶えしてしまいます。


「……今朝は悪かったねあんな言い方をしてしまって。」


 さっきまでとは違い真剣な声が耳元でします。抱きかかえられている形なので顔が上げられませんが、きっとさっきまでとは違う表情だと声色だけで分かります。


「こうでもしないと、長い間単身でこの国を育んだくれた竜皇の体も持たないと判断して君を召喚したけど、やはり酷だったと割り切れない気持ちもあるんだ。それに何不自由ない生活をさせてあげたいけど、まだ契約も成立していない君を公には出来ないんだ。契約前ならいくらでも君を連れ去る事も出来るからね。それに城内にも疑いたくないが他国に手引きする者が居るかもしれない、少しの間私の棟だけしか自由に動けない、不便をかけるよ……」


 そう言い私を抱き締める腕に力を込めます。

 陛下は先ほどの無邪気な所が素と言っていましたが、このたまに見せる真剣な表情も決して作っているようには見えません。きっと器が広すぎる反面傷つきやすい一面もあるのではと思ってしまいます。

 なぜか陛下は真剣な声で真面目な事を言っているはずなのに、私はだんだん笑いが込み上げてきます。


「……サキ?」


 陛下の上で小刻みに震えている私を泣いてると勘違いしたのか、凄く心配そうな声で呼びかけられます。

 背筋で少し起き上がり、下に敷いている陛下の顔を覗き込むような体勢になります。


「ふふふ……。私も朝はすみませんでした、実は今更元の世界に戻りたいなんて思ってないんですよ。あんまりにも陛下が無邪気な方だったので少し困らせてみたかっただけなんです。そしたら……ふふっ……思っていたよりも陛下は悪い大人でした」


 陛下は自分の胸の上で笑い転げる私を驚いたように見つめ返していましたが、突然相好を崩し笑い出したあと、また私を力強く抱き留めます。


「ははっ本当に可愛いなっサキは!もういっその事全権力を駆使してでも皇后に迎えてしまいたいよ」

「それは卑怯ですよっ!逆らえないじゃないですか」


 無邪気なまま職権乱用しようとする陛下を勇める様に頬をぷくっと膨らませそう反抗しますが、嬉しそうに笑い転げるだけで全然聞いていないようです。


「はぁーあ、心底竜皇が羨ましい。サキ、早く私を選んでくれ。あまり待てそうも無いよ」


 そう言うと不意に私の頬に口付けを落とします。

 マクスウェルのそういった行動には慣れて来たのですが、さすがにこんな会って間もない、しかもマクスウェルと同じくらいの造形美の人にされるのは恥ずかしいですっ。

 真っ赤になっている私を見て満足そうに笑っている所を見ると、やっぱり陛下ってつく人はこう言う人ばっかりのようです。


「陛下っ……!」

「竜皇が近くに居ないのは今だけなんだから、もう少しこうしていたい……」


 抵抗しても無駄なようで、力強くぎゅっと抱き締められたまま放してもらえそうもありません。

 見かけより随分筋肉質で広い胸に押し付けられるように抱き留められ、徐々に自分の心音が煩い位に早く音を立てているのが分かりますが、陛下のそれも同じくらい早鐘を打つように響いてくるのに気付き、なぜか少し体から力が抜けます。

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