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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
6/30

一夜明けて

 いつもよりもふかふかな感覚に目を覚ますと、いつもと違う景色が目に飛び込んでくる。

 あぁ、そう言えば昨日お城に泊まったんだっけ……そんな事を夢現に思いながら手でシーツを探す。

 すると胸元で何かがモゾモゾと動いているような感覚がします。

 ですが眠気に耐えられずコロンと寝返りを打つと、今度は背中がモゾモゾとするので渋々目を開けると、金色に輝く瞳と目が合いました。


「まくすうぇる……?まだねむぅ……」

「いつまで寝ておるのだ?早く起きぬと我の好きにするぞ?」


 そう言うと首の後ろをわざと音を立てるように吸い上げます。

 寝ぼけている頭に強烈な感覚が走り飛び起きる。


「まっまたそんな起こし方するぅ!」


 この前ライラさんのお店に泊まった際もこんな起こし方をされた覚えがあります。

 振り返ると昨日の子供のような表情ではなく、意地悪そうに目を細めて笑ういつもの顔がありました。


「そなたが寝ている間に慣らしておこうかと思ってな」

「慣らす?」

「いきなり入れてもよいのか?痛いと泣き叫ばれても止めるつもりも無いが」

「……朝から何の話をしていらっしゃるのですか竜皇陛下」


 いつの間にか部屋の入り口に立っていたクラレスが呆れたようにしています。


「まだ貴方様のものともうちの陛下のものとも決まってないんですよ?勝手に手を付けないで頂きたい」

「我は渡さぬと言っているだろう」

「その話は朝餉の後にゆっくりとしましょう。準備が出来たら昨日の部屋にお越し下さい」


 ふーっと溜息をついてそれだけ言うと、すっと部屋を出て行きました。

 不満そうな顔のマクスウェルを尻目にさっさと準備を整えて、ついでに適当に着崩しているマクスウェルもしっかりと着付け、ぎゅーっと抱きついて機嫌をとっておきます。

 これだけでも一日機嫌が良いので、ここぞって時は朝からぎゅーです。案の定目を細めて嬉しそうです。


 そのまま昨日の円卓に移動すると、クラレスと侍女が何人かいらっしゃいました。


「遅くなってしまい申し訳ございませんっ。……おはようございますクラレス……様?」


 先に円卓に移動して書類を山のように積み上げていたクラレスに挨拶をしつつ、何て呼んだら良いのか分からずしどろもどろになってしまいました。


「いえ、そんなに待ってはいませんよ。むしろ今日はこちらで朝餉をとると言っていた陛下自身がまだ来ていないですし……。それと私の事は何とでもお呼び下さって結構です。どうぞお掛け下さい」


 クラレスは眼鏡を外し目頭を指でグリグリとしながら、書類の上にペンを投げ捨てています。

 なぜか昨日の高圧的な態度では無く、普通の青年のような物腰になっています。

 侍女がイスを引いてくれたので、そのまま誘われるように席に着きます。


「ではクラレス様と。クラレス様何か昨日と少し雰囲気が違いますね。昨日はこう……嫌な奴ーって感じの雰囲気だったのに」

「随分と私に心を許して下さったようで光栄です……。正直に申し上げますと、花祭りの日に貴女を見つけてからうちの馬鹿陛下が毎日のように『サキは見つかったか!?』と催促をかけてきていましてね。それはもう私の業務に支障が出るほどですよ?そんな状況が一週間です……」

「あぁ……八つ当たりですか」

「八つ当たりですね」


 私とクラレスのきわどい会話をはらはらとした面持ちで侍女達が聞いているのが分かります。


「我としては宰相自らサキを起こしに来た事が意外であったが」


 いつの間にか服を着崩したマクスウェルが、窓際でだらんと壁に体を預けています。


「あの後すぐこの棟の侍女には伝えたのですが『御目通りもしていないのに……』と言われましてね。では私が起こしてくれようと思ったのですよ。私としては寝室が二つある部屋に通したのにも関わらず、竜皇陛下がサキと一緒に寝ていた事に驚きですが」

「寝ておらぬよ。そうしたいのは山々だったがサキが寝て直ぐに森に戻ったからの。」


 ぐっすり寝ていたのでマクスウェルが森に戻ったことに気付きませんでした。

 そんな話をしていても侍女達がテキパキと食事の準備を進めて行きます。


「さぁ。馬鹿陛下を待っているといつまでもここから解放されそうもありませんし先にいただきましょう。竜皇陛下も同じものでよろしいですか?」

「後で森に行くのでな。今は結構だ」


 迅速に目の前に食事が運ばれてきます。

 こんなしっかりとした朝食久しぶりな気がします。焼き立てのパンの良い香り……。

 クラレスが手を付けるのを確認してから私もパンを頬張ります。

 バターが香るふわっふわのパンに適温に保たれたベーコンスープ、ハーブソースのかかった瑞々しいサラダ。

 この国の人は朝は軽めに済ますのですが、それでも十分満足な内容につい笑顔がこぼれます。


「気に入って頂けた様で良かったです。そのままで結構ですので今後の事についてお話しても宜しいですか?」


 クラレスは確認するように間を置き再び口を開きます。


「さすがにいきなり皇后になって下さいとは急ぎすぎたと反省しております。ですがこちらも事情が事情ですので、こんな急な判断を下した馬鹿陛下の事を気に入っていただけるようにと考えております」


 それに……と区切り先ほどよりも真剣な表情になります。


「実は他国も竜皇陛下とその契約者を欲しがっているのです。自国が潤う事に越した事は無いですからね。ですので第一にあなた方の身の安全を確保したいと陛下は考えられました」

「安全を確保とは……してその方法は?」

「お二人にはこのままこの城で過ごして頂きたく思います」


 マクスウェルの纏う空気がピリッとなったのが分かりました。


「今まで危ない事なんて無かったですしマクスウェルが居れば」

「今まではそれでも大丈夫でしたでしょうが、今年は盛大に行われた花祭りを見に各国から要人が多く訪れました。その中で何人があなた方に気付いたとお思いか?実際各国の情報を探らせたところ、怪しい動きが出てきています。お二人はその見た目で十分目立ちますからね……竜皇陛下が上手く動けない今最も危ないのは貴女なのですよ?」


 私の言葉に被せるように言い、語気を強くししっかりとこちらを見据えています。

 危ない……?私が?まだ昨日の話でさえしっかりと理解出来ていない私はそう言われてもすぐには実感が沸きません。

 少し困った目でマクスウェルを見ると、てっきり怒っているかと思ったのですが真剣な眼差しでクラレスを見ていました。


「竜皇陛下……分かって頂けましたか?我々は何も貴方様からサキを奪いたいわけではないのです。ご自身の体が上手く動かない事は貴方様が一番お分かりでしょう」


 マクスウェルを諭すようにそう言うと沈黙が流れます。


「……サキの身を守る為ならば多少の事は目を瞑ろう。だがそなた等の王にサキをやるのとは別の話だ」

「ありがとうございます……。馬鹿陛下の事は直ぐにどうとならなくても良いのです。ただそうなってくれれば嬉しいとい」


 クラレスがそこまで言うと勢いよくバタンと音を立てドアが開け放たれると噂の陛下が入ってきました。


「はぁ……悪いっ……遅くなっ……た」


 完全に肩で息をしている陛下は、その金色の髪を汗で首にまとわりつけながら両膝に手を置いてぜーぜーと呼吸を整えています。

 いきなりの陛下登場にビックリしたのは私と侍女だけだったようで、マクスウェルとクラレスは無言で見つめています。


「……おはようございます馬鹿陛下。良い具合に話が進んでいたのに……本当に」

「そなたの王は随分と忙しないようだな」

「耳が痛いお言葉ですが私も激しく同意です」

「陛下……空気ぶち壊し……」


 三人で冷たい目を向けながら陛下に向かって散々な言い様です。一応この国で最高の権力者なのに……。


「えぇ!?ごめんっ!だって朝からあいつが……」

「あいつって私の事ですの?お兄様」


 コツンと音が響くとそのまま金色の豊かな髪を揺らし、きっちりとドレスを着た女性が入ってきました。


「これは……おはようございますミレーニア様」

「あっおはようクラレス!」


 クラレスが立ち上がり挨拶をするとさっき陛下に向けていたような厳しい視線ではなく、ふんわりと華やかな表情になりました。


「ちょっと聞いて下さいましクラレス!昨夜お兄様がソワソワと何かを隠しているような態度でしたので、さっき廊下でお会いした時にその事を尋ねたら走って逃げたんですのよ!?」


 そう言うとその細くくびれたウエストに両手を置き、怒ったように胸を張ってクラレスに迫ります。

 話の流れ的に皇帝陛下の妹さん?でしょうか。という事はこの国の……お姫様?

クラレスはその話を聞くとすぐ理解出来たらしく陛下に目を向け大きな溜息をつきます。


「フィアハルト……お前子供じゃないんだから……」

「えぇ!だってさぁ……」

「もう!何ですのー!?教えてくださいましっ」


 私もマクスウェルも侍女達もすっかり置いてかれていますけど……。

 クラレスがすっかり幼馴染の口調に戻り、賑やかに二人で陛下を攻め立てています。

 するとお姫様が私達に気付いたようでふと視線をこちらに向けます。

 陛下と同じエメラルドグリーンの大きな瞳に真っ直ぐと見つめられ、同性の私でさえドキッとしてしまいます。

 その大きな瞳に私が映った瞬間、花が咲き誇ったような満面の笑顔で迫ってきました。


「きゃぁー!可愛いっ可愛いー!!何々っお兄様この方はどなたですのっ?綺麗な黒髪と黒い瞳……」

「うわぁっ」


 思いっきり抱きしめられ窒息しそうです!

私は確かに小柄ですが、もう良い歳ですし可愛いって抱き締められる程でもないと思うのですが!


「あぁもう……落ち着けミレーニア、今お前が締め上げてるのは竜の契約者候補のサキだよ。で、あっちが竜皇陛下」


 陛下はよろよろと立ち上がり私を引き剥がしながら簡単に説明します。

 見かけによらずパワフルお姫様……。

 いつもこう言うとき真っ先に助けに来るマクスウェルは、楽しそうにクスクスと笑いながら窓辺にもたれたままでした。


「まぁまぁっ!契約者様なの!?やっと見つかったのですねお兄様!あぁっしかも何て可愛いの……っ」


 うっとりとした表情でジリジリと近付いてくると、その距離を保ったまま陛下もジリジリと私ごと下がっていきます。

 背が高い陛下の後ろに隠れるように押し込まれたので、前が良く見えません。陛下の脇から顔だけだし迫ってくるお姫様に視線を投げます。


「あの……ご挨拶が遅くなりまして……。サキと申します」


 恐る恐る自己紹介をすると、また大輪の花のように目を見開いて笑うと凄い勢いで突進して来て、陛下を押し飛ばしまた私を抱き締めます。


「まぁそんな畏まらなくても良いのっ!私はミレーニア、一応あの馬鹿陛下の妹をしておりますわ。伺っていた契約者様がこんなにも愛らしい方なんて……お兄様ったら独り占めする気でしたの?」


 そう言うとキッと陛下を見やります。

 陛下はと言うと思い切り押し飛ばさたらしく、マクスウェルにつまみ上げられてどうにか立っているような感じでした。


「ミレーニア様、昨夜急にお呼びいたしましたのでお伝え出来なかったのですよ。それに今後こちらの棟でお過ごし頂く了解を得ましたのでいつでもお会い頂けます」


 溜息混じりにクラレスがそう言うと、マクスウェルの手からぐったりしている陛下を受け取ります。

 その言葉を聞いたミレーニアは声にならない喜びを目一杯私を抱き締める事で表しています。

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