状況整理
まったりと状況整理です(作者含む)
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皇帝陛下が用意してくれた部屋に移動すると、そこはシンプル造りですが私が三人位寝そべっても余裕がありそうなベットがある部屋でした。
ベットの脇にあるバルコニーからは、いつの間にか結構時間が経っていたらしく、夕陽が見えます。
この部屋は建物の裏側にあるようで、バルコニーの目の前は森になっていて周りから見られる心配は無いようです。
マクスウェルはバルコニーに出ると、気持ち良さそうに翼を出し思い切り広げて猫のような伸びをしています。
「マクスウェル。誰も来ないらしいし森に行ってみる?」
あまりにも気持ち良さそうに翼を伸ばしている姿を見ていたら、つい笑いがこみ上げてきます。
「んー?では少しだけ行こうか」
バルコニーの手すりにぐったりともたれ掛りながらそう言う姿は、とても竜皇陛下と呼ばれるような存在には見えません。
マクスウェルはそのまま私を持ち上げ、バルコニーから一気に飛び森まで行きます。
「んんー……やはり地の上が一番だ……」
森に降り立ったそのままの流れで地面にゴロゴロしだします。
「元に戻らないの?」
いつもは竜の姿で地面に体をこすり付けていたので、人の姿で地面に転がるイケメンの図に違和感しかありません。
「元の姿に戻ったら今夜部屋に戻る気が失せる」
「部屋で寝る気なんて無かったくせに」
外に出たくてずっと窓際から離れなかったくせに。
私に気を使って言っているのは痛いほど分かりますが、部屋に戻るのは嫌だと物凄く態度に出ているので、堪えきれず笑い出してしまいました。
マクスウェルは少しバツの悪そうな視線をこちらに向けると、グッと伸びをして元の姿に戻りました。
こんなに近くで元に戻られたのは初めてだったので、思いっきり尻尾にぶつかりました。
『あ。すまぬ、忘れておった』
「会話してたのに忘れてたの……?」
思い切り押し飛ばされて転がっている私を、鼻先で起こしながらずいぶんヒドイ事を言ってますよ。
ぺたりと地面に伏せているマクスウェルの顔を背もたれにして私も座ります。
「ねぇ。そんなにこの時期は動きにくいの?」
ずっと気になっていた事を口にします。
正直皇后とかそんな事よりもマクスウェルの体が気がかりで、何も頭に入ってきませんでしたし。
『うむ。力が吸い取られるからな。臥せっているのが一番楽だな』
「私と契約すると良くなるんでしょ?何で今まで言わなかったの?」
マクスウェルの鼻の先に上半身を乗せ、その大きな金色の目を真剣に覗き込みます。
『契約なぞしなくても問題ないからだ。そもそも契約などしたらそなたは人ではなくなってしまう』
「どういう事?」
体がだるいのか説明が適当でよく分かりません。
『契約を交わすと人の生を超えて我と生きることになる。果てしなく続く竜の生と共に生きなければならないのだ。そんな事は望まぬし、我だけでも問題なく実りをもたらせる』
「でもっ……」
『今日はやけにしつこいな……。あの人間達のように我は勝手にそなたの生を決める様な事はせぬつもりだ。あぁだが我の子は産んでもらうぞ?』
「それ……本気で言ってたんだ……」
さっき皇帝陛下達の前で言っていた事ですよね?てっきり話の腰を折ったとばかり思っていましたが……。
『勿論本気で言っておるわ。前も言ったであろう?離す気は無いと。我としては花祭りの前日にそなたを抱くつもりだったのだがな』
「……さっき私の生を決め付けるような事しないって言ってなかった?」
『契約などで強制的に縛ったりはせぬが、それ以外ならどんな手を使ってでも離す気は無い。あぁあんな人間共に目をつけられる前に早く種を仕込んでおけば良かった……』
そう言うと本当に悔しそうな唸り声を上げ、ぐるんと体を丸め込んでしまいました。
それは猫が丸まって眠る時の様に、頭をお腹の下に収めるてるような見た目です。これは……さてはあれですね。
「マクスウェルー?子供みたいに拗ねないでよー」
『拗ねてなどおらぬわ』
丸まったまま返事をしてきました。
本当、たまに変なところで子供みたいな事をするんですよね。
「正直私もどうしようかなって。初めて話した人といきなり結婚するんですって言われてもね……」
『……その言い方だと、話してみて気に入ってからなら良いと聞こえるが』
「まずは話して……」
そこまで言うと、いきなりマクスウェルが起き上がり、私に襲い掛かるように手で押し倒し、そのまま身動きが取れないようにします。
さすがに押しつぶされる程では無いですが、いつも私に触れる時より力が入っていて少し苦しいですし、何よりこんな事をされたのが初めてだったので驚きで硬直してしまいました。
マクスウェルは私を組み敷くようにすると、真っ直ぐこちらを睨み付けます。
『まだ理解しておらぬのか?そなたは髪の一本から血の一滴まで全て我のものなのだ、人間などにはやらぬ。その実感が無いのなら今ここで我の証を刻むぞ…?』
そう言うと少し手に力を入れ、少し牙を見せるように口を開け顔に近づいてきます。
マクスウェルは怒ったり機嫌が悪い時口の奥の方に炎を溜め込む習性があるらしく、今も少し口の奥に炎が揺れているのが見えます。
「もぉー。竜なのに器が小さいなっ自分のものも満足に守りきれないのー?」
どうにかマクスウェルの拘束から片手を出すとそのまま目の前に迫ってきている鼻先を指で弾きます。
コンッと硬い音が響きますが、マクスウェルの鱗はそれ位では何も感じない程の強度があるので、逆に私の指がジンジンと痛みます。
低い唸り声を上げたまま、マクスウェルが私から手をどかします。
「しかも自分のものとか子供がどうだって言ってるのに手で押しつぶすなんてヒドイっ」
実際は何とも思ってないですが、わざと怒ったように言いプイッと顔を背けます。
すると目の前で大きな体の竜がおろおろと動揺しだしたと思ったら、直ぐ人型になります。
「すっすまぬ!痛かったのか?どこだ?どこが痛かったのだ?」
さっきまでの偉そうな雰囲気はどこへやら……小さい子供のように不安いっぱいの表情のまま、ペタペタと私の体に触れています。
この普段は偉そうな態度をしているのに、何かあると子供のようになる所が面白いんですよね。
クスクスと笑っていると、それに気付いたのか溜息をつくと、そのまま押し倒すようにのしかかってきました。
「ヒドイのはどちらだ……焦ったぞ全く……」
私の上でぐったりとしながらそう言うと、甘えるように頭に顔を埋めて来ます。
「うふふっ。マクスウェル可愛いー」
「嬉しくないのだが……」
あまりにも分かりやすく怒ったり落ち込んだり甘えたりするのが面白くて、覆いかぶさっているマクスウェルの背中を撫でながら堪えられず笑ってしまします。
「あははっごめんね。もう意地悪言わないから……ふふふ」
「……サキ、覚えておれよ?」
不満そうにそう呟くと額に口付けを落とします。
ひとしきり笑った後ふとマクスウェル越しに空を見上げると、もう暗くなっていた事に気付きました。
マクスウェルが暖かいので寒くは無いですがそろそろ部屋に戻った方がいいでしょうか?マクスウェルは戻る気無さそうですが……。
「のう……もうこのまましてもよいか?」
「契約?良いよっやっぱり辛いの?」
部屋に戻ろうかどう考えていたら、マクスウェルが耳元で低く少し掠れた声でそう囁きます。
真面目に答えたつもりだったのですが、深く重い溜息をついてまたグッタリされてしまいました。
「……あの人間にとられる心配は当分無さそうだ」
「……?なにどうしたの?」
その質問には答えは無く、ただグリグリと頭に顔を押し付けてそのまま部屋まで戻りました。