表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
4/30

再び街へ

無理矢理詰め込んでしまったので大分早足な展開です……。

まだ箇条書きの所が多いので、今後時間が出来たら追記したり何かするかも?かもー?

ご意見ご感想クレームどしどし受けつけてます。

 花祭りから一週間が経ちました。


 よほど長時間人型で自然の気が薄い街に居たのが良くなかったのか、マクスウェルは帰ってきてからずっと元の竜の姿のままゴロゴロとしています。

 山に戻ってからは普段通りなのですが、以前よりゴロゴロしている時間が多くなった気がします。

 流石に不安になり何度も様子を伺いますが調子が悪い訳じゃないとしか答えてくれません。


 しかも今日はライラさんに頼まれていた果物を届ける日です。

 いつも通り朝から準備をしますが、心配でたまらず寝ころんでいるマクスウェルの頭に寄り添い撫でます。


『どうした、何をそんな不安そうにしている?』

「不安にもなるよ……。こんな調子悪そうなのに……やっぱり花祭り行かなければ良かったな」


 艶やかな赤い鱗を撫でながら本音が漏れます。

 マクスウェルがゆっくりと起き上がり頭をもたげ私の顔を覗き込んできます。


『まだそんな事を言っておったのか。調子が悪いわけではないと言っておるのに……』

「だって……」


 そうは言われても実際寝てばかりのマクスウェルを見ていると不安しかありません。


『そなたが我の事を思ってくれるのは喜ばしい事だな。さぁ準備が出来たのなら行こう』


 鼻先を私の頭を撫でるように擦り付けるとそのまま私を掴み空に舞い上がります。

 こうして飛んでいる時や話している時は普通そうなのに……。


 今日は寄り道せず真っ直ぐ街まで飛びます。

 久し振りに人型になった時少しふらついたのですが、私が声を上げるよりも早く「大丈夫だ」と頭を撫でられ静止させられました。

 街までは一人で行くと言っても認めてもらえなかったので、足早にライラさんのお店に向かいます。


「こんにちは!ライラさん果物持って来ました!」


 普段より勢いよくドアを開け放ったので呼び鈴が忙しなく音色を奏でています。


「わぁびっくりした!いらっしゃい……ってマクスウェルさん大丈夫!?また顔色が悪いけど」


 勢いよく開いたドアの音にびっくりして顔を上げたライラさんが、マクスウェルを見て駆けつけてきます。


「ん……あぁ寝不足なだけだ。気にす」

「寝不足!?寝不足でそんな顔色悪くならないでしょ?もー寝た寝た!」


 マクスウェルの言葉を最後まで聞かずグイグイと背中を押して二階まで持って行ってしまいました。

 普段なら体を触らせるなんて事はしないマクスウェルが、ライラさんの勢いに負けて二階に持って行かれている姿は少し笑いそうになりましたが、やっぱりそれだけ調子悪いのだと思い知らされます。


 少しするとライラさんだけが二階から降りてきました。


「もー寝かしつけるの大変だったー。寒くないようにカーテン開けっ広げてベットに押し込んだらやっと大人しくしてくれたわ」


 肩をこきこきと回しながら言うその姿は頼もしい限りですが、マクスウェルを力ずくで寝かしつけたライラさんにちょっと引きます……。


 頼まれていた品物を納品し、いつも通りライラさんと話をしていると、蹄と車輪の音が近づいて来てお店の前で止まりました。

 普段馬車で訪れるお客様は居ないはず……と思いライラさんの顔を見ると、同じ思いなのか不思議そうな顔でドアの外を見ていました。


「邪魔する。こちらに黒髪の少女は居るか?」


 呼び鈴が鳴ってドアが開くと、騎士と思われる男が3人ぞろぞろと店内に入って来るやすぐにそう言い放ちます。


「黒髪の女性なら居ますけど……」


 突然訪れ、いきなり用件だけを伝えた男達にライラさんは明らかに警戒をしています。

 店内にピリッとした空気が流れるとまた呼び鈴がなり来客を告げます。

 入ってきたのは一目で貴族と分かる装いの眼鏡の男で、少し店内を見渡し私を見つけると嬉しそうな笑みを浮かべ口を開きます。


「あぁ、いらっしゃった。初めましてサキ殿」

「え……」


 名前を呼ばれて固まっている私を尻目に男は話し続けます。


「うちの者が失礼を致しました。私はこの国の宰相を務めているクラレスと申します。この度はサキ殿を城にお招きしたくお邪魔させて頂きました。詳細は城でお話致しますので、一先ずこのまま私の馬車に乗って頂きます」


 その言葉を合図に静かに控えていた騎士達が、状況が掴めず呆然としている私の腕を引っ張り連れて行こうとします。


「ちょっ……困ります!」


 全く連行される事に身に覚えが無いので全力で抵抗しますがお構い無しで引っ張っていこうとします。

 ライラさんもどうにか私と騎士を引き剥がそうとしますが、やはり騎士の力に勝てず押し飛ばされてしまいました。

 もう少しで外に連れて行かれるっと思った矢先、いきなり騎士が弾き飛ばされたかと思うと私の体がふわりと浮きました。


「触るな」


 振り返ると明らかに怒りをたたえた表情のマクスウェルが私を抱え上げていました。

 マクスウェルは真っ直ぐ騎士やクラレスを睨み付けています。

 その目はいつ元の竜の姿に戻ってもおかしくない程の輝きを湛えています。

 人型とはいえ正面から竜の威嚇の眼差しを向けられた騎士達は呼吸すら出来ているのか怪しい程動けなくなっていましたが、ただ一人クラレスだけはマクスウェルに向かって歩み寄ってきます。


「これはお目にかかれて光栄で御座います。まさかいらっしゃるとは思っておりませんでしたのでご挨拶が遅く…」

「煩い。耳障りだ」


 マクスウェルはそう言うと興味を失ったように私を抱えたまま踵を返すと、押し飛ばされて座り込んでいたライラさんを掴み立ち上がらせます。


「うわぁっありがとうございます……」

「さっきの礼だ。ケガは無いか?」


 ライラさんにケガが無い事を確かめるとそのまま裏口に向かって歩き始めます。


「全く……もう少し話を聞いて下さっても良いじゃありませんか。城の後方には森が広がっているので、貴方様もここに居るよりは些か楽に話が出来ると思いますよ?」


 ピタリとマクスウェルが足を止める。

 森……?何でこの人……と思っているとマクスウェルがゆっくりと振り返りクラレスを見据えます。


「ほぉ……分かっていて口をきいていたのか……」

「えぇ勿論。ですので是非城にお越し下さいませ」


 クラレスはニッコリと微笑みエスコートをするような仕草で道をあけます。

 動揺している私を尻目に、マクスウェルは馬車まで行き私を中に下ろし一度振り返ってから馬車に乗り込みました。


「マクスウェル……?」


 不安げに隣に座るマクスウェルにしがみつきます。

 相変わらず目には警戒の色を浮かべていましたが、私の額に一つ口付けをするとそのまま抱き締めました。


「そう警戒しなくても城で少し話をするだけですから」


 そう言いながらクラレスも乗り込んできましたが、マクスウェルは私を抱き締めたまま目も合わせようとはせず、終始馬車の中は痛いほど静かなまま城まで向かいます。

 馬車が走り出したらライラさんが心配そうな面持ちでずっと見ていました。


 城に到着しましたがなぜか馬車は正門ではなく裏から入りました。

 クラレスが無言のまま先導しそれに従って私を抱えたマクスウェルが続きます。

 騎士達は城内には立ち入らず、そのまま外で待機をするようです。


 聞いていた通り城の裏手には広大な森が広がっていて、マクスウェルも少し顔色が良いような気がします。

 マクスウェルが元気になってくれるならここに来る価値があったかも知れないと思い少し力が抜けましたが、正直なぜここに連れて来られてなぜ私の名前を知っていたかなどの事を考えだすと怖くなります。


「こちらの円卓の間にてお待ち下さい」


 クラレスはブーツをカツンと鳴らし立ち止まるとドアを開け放ち招き入れます。

 中には円卓の間と言う名前だけあり、巨大な円形のテーブルとそれの周りをぐるっと一周イスが並べられています。

 ドアが閉められると静寂だけが広がります。

 マクスウェルは私を抱えたまま窓辺に寄りかかるように立ち外を眺めています。

 その顔は不安や焦り等一切なく、全て状況が分かっているかのように落ち着いています。


「マクー……」


 呼び掛けようとした時ドアが開きました。

 先ほどまで一緒にいたクラレスと、緩く波打つ金色の髪の男性、先日花祭りで見た皇帝陛下その人です。


 さすがに皇帝陛下の前でマクスウェルに抱えられているのはどうかと思い、降りようとしますがしっかりと抱えられていて全く動けません。


「そのままで大丈夫です。楽にして」


 皇帝陛下はわたわたしている私に気を使ってくれたのか、少し笑ってから手近なイスに座りクラレスがその脇を固めました。


 楽にと言われても……。マクスウェルは皇帝陛下を真っ直ぐに見つめたまま窓辺から動こうとしません。


「少し怖がらせてしまったかな?サキ。話がしたくて呼んだんだ、異世界の姫」

「なんっ……で……」


 名前を呼ばれた事よりも、異世界から来たことまで……!

 驚きで声が出ないでいると、すぐ上から低い声が響いてきます


「あやつらが召喚したのだろう……5年も放っておいて今更何用だ」

「私ももっと早くお会いしたかったのですよ?竜神様?竜皇陛下?」


 皇帝陛下がその言葉を言った瞬間マクスウェルの雰囲気が一変し、重々しい空気が充満する。

 皇帝陛下が私を召喚したの?竜神様?竜皇陛下?全く何が何だか分からないよっ……怖い。


「……陛下、まずはサキ殿に事の経緯を説明しても宜しいですか?」


 ずっと押し黙っていたクラレスがため息をつき、無造作に皇帝陛下の頭を撫で回します。


「うわぁっ!もぉ……お任せしますよー」


 皇帝陛下はボサボサになった頭を直しつつ、悪さした事を咎められた子供のように少し拗ねた表情をしてます。

 それを横目で見たクラレスがまた一つため息をつき口を開きます。


「サキ殿、確かに貴女をこちらの世界にお連れしたのは私共です。この国は豊かな自然の恩恵でここまで平和に過ごしてきたのまではご存じですよね?」


 いきなりこの国についての話ですか?それは知ってますけど、私とどういう関係が……?取りあえず頷きます。


「その恵みは単に山や森、水などの自然からなるものでは無いのです。自然だけの力では他国と大差ない程なのです」


 はい?何を言われているのか分かりません……そんな私を尻目に淡々と話が進んでいきます。


「自然が本来持っている力と他の力があって初めてこの国のような恩恵を受けれるのです。その自然を育む他の力と言うのが貴女の後ろに居る竜皇陛下です」

「えっ?」


 マクスウェルが竜皇陛下?直ぐには信じられず振り返り真偽を問う目で見上げます。

マクスウェルはいつも通りふわっと笑うと私の頭に鼻を埋めてきます。


「……しかし竜皇陛下と言えどその身一つで全てを育むのは限界があり、適性のある人と竜皇陛下を契約で結び竜皇陛下の負担を減らす事が必要となってきます。ですがこの国に適性を持った者が居なかったため、貴女を召喚したのです。……もっとも、準備期間が短く思った所に召喚出来なかったのは誤算でした」

「じゃあ……マクスウェルに会う為に……?」


 ふっとマクスウェルを見上げます。マクスウェルはただ何も言わず真っ直ぐに二人を見ています。


「会うためと言いますか、竜皇陛下と契約を結び力を安定させる為と、竜の適性は遺伝しかないので、皇帝陛下の皇后となって頂きお世継ぎに適性を持たせる為です」

「えっ私初耳だけど!?」


 皇帝陛下がイスをガタッと倒し勢いよく立ち上がります。


「後続に適性が在るのが一番ですからね。それに皇后なんて立場、なりたくてもなれないものですし」


 クラレスはそうピシャリと言い放ち、皇帝陛下を押し黙らせます。

 皇帝陛下も私もただ呆然としていると、ゆっくりとマクスウェルが動きます。


「何やら勝手に話が進んでおるが、我は誰にもサキを渡す気はないぞ?むしろこれから我の子を産んで貰う予定だが」

「「「えっ!?」」」


 三人とも同時に同じ反応をします。

えっえっ?皇后?マクスウェルの子?ちょっと本人を差し置いて話が勝手に進みすぎです!


「ちょっと待って待って!みんなで勝手に話し進めないでよっ」

「クラレス!さすがに話が急すぎるんじゃないか!?」


 やっと頭が再起動した皇帝陛下と私が同時に意義を唱えます、が、不敵な笑みのまま見詰め合っている二人は華麗に無視しています。

 皇帝陛下って宰相様より偉いんだよね?と疑ってしまうような状況です。


 沈黙を破り先に口を開いたのはクラレスでした。


「……まぁここでいきなり決めろと言う訳ではありませんよ。一先ず力を安定させる為、竜皇陛下と契約を結んで頂くのが先決ですし」

「あっマクスウェル体調は!?」


 私がいきなり振り向いたので驚いたのでしょう、マクスウェルが珍しく目を見開いて硬直しています。

 ですが直ぐに目を細め笑うと私の頭に鼻を埋めて来ます。


「あの者が言っておったろう?竜が実りを育んでいると。丁度花も咲き誇ったこれからの時期は実りに向けて力を溜め込もうとする植物達が一斉に我に群がる時期だ。調子が悪いのではなく動きにくいだけだよ」

「それは私と契約をすれば楽になるの……?」

「うむ……その話は後ほどするとしよう。そなたもう頭に入らぬだろう?」


 意地悪そうな笑みを浮かべてコロコロと笑っています。

 結構馬鹿にされている気がしますが正直もう理解が追いついていないもの事実です。

 この世界に呼ばれた理由も今後の事も、本人が居ない所で勝手に決められていたのです。私はそんな事を直ぐに理解できるほど優秀な頭を持っていないようです……。


「ではこの話は後日改めて……。今夜は城でお休み下さい」


 呆然としている私を残しクラレスが退出していきました。

 取り残された三人はただ沈黙していましたが、ぽつりと皇帝陛下が声を発します。


「いきなりこんな話になってごめんね、サキ。私も想定外だった……。そう言えば、君に会えた事が嬉しくてすっかり自己紹介を忘れていたね。私はフィアハルト・リヒ・カルヴァディア。一応この国の皇帝をしている者だ。さっきのはクラレス・クロム・バステッド、宰相をしている私の幼馴染だ。私よりも皇帝に向いているんじゃないかって思うよ……。この棟は私の物だから誰も来ない、隣の部屋を好きに使ってくれていいからね。竜皇陛下も元の姿で森に入ってもここなら問題ありませんよ」


 動揺を隠し切れない表情のまま陛下はそう告げると、静かに部屋を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ