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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
28/30

竜と契約者

 ベッドに寝かせても変わらず苦しみ、手を離せばまた頭を掻きむしる。

 押さえつけるように抱きかかえるが酷く苦しむその様を見続けるのは心を締め付けられるものだ。

 

 それに薬が残っていたあの時とは違い、うわ言のように我の名を呼ぶ。……これは記憶を思い出そうとしているのか? 

 

 叫ぶ体力も無くなったのか、腕の中でひゅうひゅうと息を立て苦しそうに呻くだけになってきた。


「サキ……サキ」


 それほど我も精神的に参っていたのであろう、汗で額に貼り付いたサキの髪を梳きながら無意識にぽつりと名を呼んでいた。


 するとその長い睫で縁取られた瞼が少し痙攣すると、ゆっくりと開きその黒い双眸が現れた。


 思いもよらずそれと目があった我は、不覚にも何も言葉を発する事が出来ずただ見つめるのみだった。

 

「……サキ……?」

「ま……くす……?」


 お互いがお互いを確かめるように呼び合う。

 今、我の事をなんと呼んだ?


「まく……すうぇる。怖……い顔……てる、よ?」

「サキっ……!」


 間違いない。我の事を『まー』ではなく『マクスウェル』と呼んでいる。

 感極まり腕の中のサキを今まで以上に愛おしく抱きしめると、すぐ『苦しい』と抗議の声が耳元で聞こえた。

 あぁ……サキだ。サキが帰ってきた……!


「あ…のね。うぅ……わたし、まくす……るに、つたえな……きゃい……はぁ……ことが……」


 サキが途切れ途切れに、途中何度も苦しみながら必死に搾り出す声を聞き逃さんとばかりにしっかりと抱えなおす。


「あの……ごめ、んね……? せっかく……まくすうぇ、るが……ひとを……きに……。ミレ……ニアさ……」

「なんだ? サキよく聞き取れぬ」


 サキは呼吸も荒く虚ろで今にも閉じてしまいそうな瞳を、気力だけでどうにか持たせているのが容易に分かる。

 が、頭が混乱しているのか徐々に要領を得ない言葉になってきていた。

 それでも、必死で何かを伝えようと口を開く。


「まくすうぇ、るを……みれー、に……さま、に……とられたく……なか、た……の」


 徐々にサキの体から力が抜けていくのが分かる。話すことだけに全ての力を使おうとしているのだろう。


「でも……せっか、く……ひとをす……きに、なって……くれ、た……んだ……から。おうえ、ん……して…………あ、げ」


 サキは色を失ってきた瞳で、持てる力を振り絞り我を仰ぎ見る。


「ゴホッ……ま……すうぇ……る。み、れ…………と……しあわ……に……ね……」


 そう言い終ると、ふわりといつもの笑顔を見せ、そのまま力なくまた瞳が閉じられようとする。


「待てサキ! また我を忘れる気か!? また我を一人にする気なのか!?」


 直感で分かっていた。もし今再びサキが眠りに落ちれば、次目を覚ました時はまた記憶の無い幼子のような状態に戻っているだろう。

 今は残っていた記憶の断片がミレーニアに会った事で刺激され、一時的に元に戻ったのであろう。


「ミレーニアなど……我を、我の幸せを望むのならもうどこにも行くな! サキ! 我の幸せはそなたなのだぞ!」


 我自身、長く生きて来た中でこんなにも狼狽したのは始めてかと思う程に、閉じられようとする瞳に懇願するように詰め寄る。


 我をとられるのが嫌だったのだろう? 我の幸せを望むのだろう? なのになぜ我から離れて行くのだ!


 満足に人の姿も保てぬ程に力は無いが、そうも言っていられぬ。

 ぐっと掌に力を入れる。

 すると掌の中心に赤い竜巻のような激しい風が起こり、それが徐々に収束すると一つの赤い宝玉のようなものが出来上がった。


「サキ……我と契約しよう」


 まだ辛うじて意識がある今なら間に合うかも知れぬ。

 竜の契約者ともなれば、人間の域を超えた存在になる。薬の影響などすぐに消し飛ぶはずだ。


 サキの記憶がなくなってもサキはサキだと思ってこの手段はとらなかったが、『マクスウェル』と笑いかけいつものように名を呼ばれてしまったら、もう我慢も出来ない。

 もう失いたくない。


 朦朧とし苦しそうに身を捩るサキの口に宝玉をあてがい、そのまま飲み込ませようと口の中に入れる。

 

 が、咳き込み苦しむサキにはそれを飲み下す力も、そもそも理解すらも出来ていないようで、すぐに宝玉はベッドの上に転がり落ちてしまった。


 我自身ももう限界に近かった。


 ただでさえ力が残っていなかったのにも関わらず、竜の魂とも言える宝玉を作り出したのだ。

 気を抜けば元の姿に戻ってしまうか、眠りに落ちてしまいそうな程緊迫した状況だった。


 我は宝玉を口に含みサキの頭をぐいっと寄せ上を向かせると、そのまま苦しそうに呼吸をするサキの唇に自身の唇をあてがう。

 そのまま強引に舌を這わせサキの喉の方へ宝玉を押しやると、サキは少し身を震わせた後『コクリ』と小さな音をたて飲み下した。

 

 この時既にサキの瞳は閉じられ、意識があるのかも定かではなかった。


 ただただ間に合う事を願いつつ、我はサキを抱えたままベッドへと倒れこみそのまま意識を失った。

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