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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
26/30

異変

「陛下、各地で起こっている作物の件ですが……」

「分かっているよ。分かっているが……」

「……」


 サキの件があってから、この国の作物――いや、植物全体に異常が現れた。

 考えなくとも答えは用意に分かる。


 マクスウェルが竜皇として機能していないのだ。


 実り――そもそもそれは我々人間が望んでどうにかなるものでは無い。

 竜皇がたまたま居る土地で、たまたま自然を育むだけなのだ。

 竜皇が居なくなれば他の国と同じ位の実りになるし、居ても竜皇にその気が無くても同じ事だ。


 サキが寝込んでから徐々に、だが目に見えて植物の成長が止まった。が、それでも昨日サキが目を覚ますまでは許容の範囲だったと言える。

 これまでは「契約をしていないから力が不安定」と適当な事を言っておけば誤魔化せる位だったのだが、今朝は様子が一変していた。


 膨らみかけた蕾や、すくすくと育ち鈴生りになっていた実が枯れ落ちていたのだ。


 国民や貿易先から徐々に不安の声が上がっていたが、今朝の出来事を皮切りに、対応しきれないほどの人が押し寄せている。 


「分かってるのだが……マクスウェルに頼んだ所でどうなるか……」


 サキが目を覚ましたまでは良い。

 だが、全員が拒否したくなる最悪の形が現実となってしまったのだ。


 その事が現実となって襲い掛かった時、誰より早く受け入れたマクスウェルは、すぐサキと自分以外の人間を部屋から出すと、そのまま引きこもってしまったのだ。

 食事を持っていっても部屋には入れようとしない。


 

 マクスウェルが全ての怒りをぶつけてくれたらどんなに楽になれるか。

 ここ一月程ずっと同じ事ばかり考えてしまう。

 竜とはそう言う生き物なのだろうか?

 私がマクスウェルの立場だったら私を許さないしエネロを許さない。あのまま森を焼き尽くしていたかもしれない。

 なのになぜマクスウェエルは何も言わない……。


                        ・

                        ・

                        ・

                        ・


「まぁー?」


 窓辺でぼんやりとしていると我を呼ぶ声がする。

 幸い、と言って良いものか分からぬがサキは人形のようにはならなかった。

 ただ、記憶はあまり残ってはいないらしく幼子のような口調だ。


 まだ体力が回復していないサキは、ゆっくりと我の膝の上に座ると顔を覗き込んでくる。

 変わらぬ黒い瞳に柔らかい髪。だが記憶が抜け落ちているからか、以前より幾分か幼く見える。


 不思議そうに我の顔を見つめているその頭を撫でると、嬉しそうに笑い無邪気に抱きついてくる。


 昨日目が覚めた時、サキは我以外の者の事を覚えてはいなかった。

 ……我にとっては都合が良い。

 今ここでゆっくりしているのは、ただサキの体力が戻るのを待っているだけだ。

 

 フィアハルトは随分と責任を感じているようだったが、奴一人のせいではない。やはり人間と関わるべきではなかった、それだけのことだ。


「まぁ? まぁー おはな はなー」

 

 我の膝の上から外を見ていたサキが楽しそうな声を上げる。


「ふふっ。サキは花が好きか? ほら……」


 サキの目の前でぐっと掌に力を注ぎ、一輪だけ花を育んだ。


「おはな! うふふっ おはなー」


 嬉しそうに花に顔を埋め喜ぶ様は、どちらが花か分から無くなる程に美しい。

 サキのその大輪が咲いたように喜ぶ様がたまらなく嬉しく、もう一輪……と思い力を込めるが上手くいかない。

 そう言えば最近森に行っていなかったな。

 特に昨日から力を得ようとも与えようともしなくなった。

 フィアハルトはさぞ困っておると思うが、今の我には興味も無い事だし奴もどうにかしろと言いには来ぬだろう。

 植物は我が育まなくともある程度までは勝手に育つ。放っておいても問題は無い。それで足りないのなら人が減れば良い。国が傾くなら傾けば良い。

 ……我とサキ以外どうなろうが興味も無い。



 喜び疲れ、膝の上でうとうととしだしたサキに口付けし、そのまま抱え上げベッドに寝かしつける。

 程なくし、すぅすぅと寝息を立て始めた顔を眺めていると、自身の耳の上辺りでパキパキっと小さな音がし、角が現れた。

 ここ最近力を得ていなかった為人の姿が保てなくなってきていた。

 まぁたいした問題では無いのだが、自分の体が言う事を聞かないというのは何とも歯がゆいものだな。

 真紅の鱗がうっすらと現れた手でサキの頭を撫でながら、何やら騒がしい城の入り口の方を窓からぼんやりと眺める。

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