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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
25/30

混濁

 あの出来事から丁度一週間が経った。


 未だにアマリーは現実を受け入れられないのか、眠っているサキの世話をしては泣いてを繰り返している。

 アマリーにサキの世話を頼んだのは酷だったか、とも思ったが他に適任も無く、アマリーも是非にとの事だったのだが、どうにも見ていて辛い。


 エネロの処分はと言うと、最初は否定するかと思ったのだが何も語らずただただ抜け殻のような状態で幽閉されている。

 正直、エネロなんかに構っている状態ではないので、このまま大人しく幽閉されていてくれと思っている。

 あれからまだ一週間しか経っていないのだ、私だってまだ立ち直れていない。そんな状況で他国の人間を裁くなんて面倒事など、本当に避けたいのだ。


 サキは依然あの状態のままだと聞く。

 クラレスと私は、あの事件の処理や各国の対応で、ほとんど執務室から出れずにいた。

 時折アマリーが様子を知らせに来てくれるのだが、アマリーの方が心配になるほどやつれてしまっている。

 ……マクスウェルも言っていたが、私が焦ってもどうにもならない事なのだが……焦るなって言われても難しい話だよ、マクスウェル……。



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 一週間か……。

 永い年月を生きる我にとって一週間などあっという間かと思っていたが、サキがこうなってからは酷く永いものに感じる。

 最初は常に鎮静剤を使用しないとうなされ、泣き、暴れていたが、最近は多少薬の量も減ってきた。


 あの時、フィアハルトに呼ばれ我に返った時、すぐにサキの異変に気付いた。

 契約を結んでいなかったので定かでは無かったが、こうなる事はあの時理解していた。



 ……こうして眺めておれば、ただ気持ち良さそうに寝ているだけに見えるものを。

 ふと隣にいるサキに視線を移す。

 あの後から森には行っていない。力の供給も行ってはいない。覚悟はしておったのだが、やはりまだその気に慣れない。


「ん……あぁっ……うぅぅ………あぁぁぁっ!」


 ぼんやりとしていると、サキがうなされ始めた。

 だからと言ってどうしてやる事も出来ぬ。

 本人には伝わらぬかも知れぬが、ただただ抱きしめてやる事しか出来ない……。


「サキ……サキっ……!」


 薬が徐々に抜けてきているのは分かる。だが、あとどれ位なのだ? どれ位でサキは楽になるのだ? それまでサキの心が持つだろうか、その前に我の心が壊れそうだ……ただただ信じてこう抱きしめてやる事しか出来ぬ。何て無力なのだろうか……。



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                         ・



 その状態のまま時間は流れ、一月が経った。

 医師の告げたとおり薬が抜け切ったのか、ここ最近はたまに思い出したようにうなされるだけで、後はただ眠っているだけだ。

 医師の見立てでは、もうそろそろ意識を取り戻してもおかしくは無いとの事だったのだが、依然目覚めぬままだ。


「そろそろ起こしても良い頃合かと思いますが、いかが致しますか? 自然に目覚めるのを待ちますか? 薬を使用して起こす事も可能ですが……?」


 今日の検診は我の他にフォアハルトとクラレス、アマリーと全員が揃っていた。

 ここ最近は、いつ目覚めてもおかしくは無いとの事で、全員暇を見つけては足しげく通っていた。

 アマリーなど隣の部屋に泊まりこむほどだ。


「これ以上サキに薬を使いたくは……」


 フィアハルトが言いかけた時、サキが動いた気がした。

 一斉に全員がサキの顔を覗き込む。


「サキっ……サキ……?」

「……んー……」

 

 確かにフィアハルトの声に反応している。


「サキ? 聞こえておるか? サキ」


 全員が息をのみサキの顔を見つめていると、僅かに長い睫が振るえゆっくりと目を開いた。

 久しぶりにその黒い瞳を目にした一同は、声も出せずただ覗きこむばかりだった。


「……サキ? 我が分かるか?」


 まだ眠そたそうに重い瞬きを繰り返すサキの頬に触れながら名前を呼ぶと、ゆっくりとした動作で我を見る。

 ……この瞳を見るのは何年ぶりか、と思うほど待ち遠しかった。

 ゆっくりと確認するように我を見つめるサキが、ふわっと無邪気な笑顔を見せた。


「……ま……?……まぁー」


 嬉しそうにそう一声発し、我の腕にしがみ付く。


「まぁー? サキ? もう一度この人の名前が言えるか?」


 隣にいたフィアハルトが我を指差しながら、サキにもう一度問う。


「まぁー! まぁ? うふふふふっ」


 サキは我の腕にしがみ付きながら、嬉しそうな笑い声を上げる。

 さっきまであれほど嬉しそうにしていたアマリーが、力なくその場に座り込んでしまった。

 クラレスはアマリーを抱え、医師の顔を仰ぎ見る。

 我もフィアハルトも医師に視線を向ける。

 

 医師は誰よりも青白い顔でゆっくりと口を開いた。


「サキ殿の……心が……」


 風にさらわれそうな程弱々しく紡ぎ出された言葉はそこで途絶え、アマリーと同様に膝から崩れ落ち座り込んでしまった。

 それを見届けたアマリーは、ぷつっと意識を失ってしまった。

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