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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
24/30

意識

この流れでまさかの○○○シーン!←

ネタバレしそうでしたが、なぜここでそれをぶっこんだか自分でもなぞですので……。

 一気に城まで戻ると、一連の騒動の沈静でたまたま宰相室から城門まで出てきていたクラレスを捕まえる事が出来、事情を説明するとそこからはクラレスの指揮の元迅速に事が進んだ。




 クラレスに言われるまで自分の身なりが酷く汚れている事に気付かなかった。


 サキをクラレスに引き渡した時、真っ先に言われた一言「陛下……後は私がやっておきますので、一先ず身を清めて下さい」だった。

 そう言われ、改めて自分を見てみると土や草、泥で薄汚れている上に、髪や服の一部が焦げていた。

 いつの間に? そんな事をぼんやりと考えていると、侍女にほぼ連行される形で湯殿に押し込められてしまった。


「ヒドイよなー。そんなに汚かった?」

「さぁな。むしろなぜ我も一緒に放り込まれたのか分からぬ」


 そう、なぜかマクスウェルも一緒だ。

 確かに十分過ぎるほどの広さのある湯殿だから、大人二人くらい問題無く入れるが……そういう問題じゃない気がする。うん。


「ゆっくり湯浴みなんかしている場合じゃないと思うけど」


 しっかりと湯船に浸かっている自分を不自然に思い立ち上がると、意外な一声がかけられた。


「今我らが行ってもどうしようもないだろう。そなたは皇帝なのだろう? そなたが焦ればその下の者達はもっと焦るだろうな。こんな時だ、どっしりと構えておれ……それに我ら二人が居ては邪魔なのだろうな」


 石のように大人しく湯船に沈んでいるマクスウェルをまじまじと見る。

 マクスウェルは浴槽の縁に頭を乗せ、どこを見るでもなくぼぅっとしている。

 ……さっき誰よりも取り乱してたくせに、思ったら笑いがこみ上げてきて、一気に肩の力が抜けたのが分かった。


「あーあ……。男と長湯なんかしても全然楽しく無いんだよなー。サキとだったら大歓迎なのに……」

「ふふっ。残念だな、その機会は一生訪れぬな」


 湯船に浸かり直し、マクスウェルのようにぐったりとしながらそう言うと、予想道りな回答が返って来た。

 どこと無くマクスウェルがぐったりして見えるのは気のせいだろうか? そんな事を思いつつ、言われた通りもう少しゆっくりしていく事にした。



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 十分にゆっくりした事だし、そろそろ医師も来た頃かと思いサキのところへ向かうことにした。


 依然、城内は騒然としていた。


 「エネロが捕まった」や「竜が出た」「竜の背に陛下が乗っていた」や「契約者様が現れた」等々。まぁ半日位の出来事なのに多種多様な噂が広がっていた。

 こそこそ聞こえてくる噂を聞いている限り、読み通りエネロは城内に連行されてきたようだ。

 竜と契約者の事はもうこれ以上隠し通すのも難しいだろう。サキが落ち着いたら正式に発表するか……と言っても契約者候補なだけで、契約自体はしていないとの事だし……。


 今後の事を考えつつ、ふと隣を歩く噂の竜を見る。

 すっかり元のマクスウェルに戻ってはいるが、やはりどこと無く様子がおかしい。

 力が不安定なこの時期に暴れたからだろうか……?

 ぶつぶつといろいろな事を考えていると、いつの間にかサキの部屋の前まで到着していた。

             


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「今……何と?」


 部屋に着くと丁度診察が終わり、クラレスとアマリーに結果が告げられる時だったので、そのまま合流し一緒に結果を聞いたのだが……。


「……もう一度申し上げますので落ち着いて聞いて下さい。今回の使われた薬品は、我が国には無い物でしたので確証は無いのですが、間違いなく使用し続ければ人を人形のような状態にする薬でしょう」


 医師はゆっくりと言葉を区切りながら話を進める。


「ですが、今回サキ殿は口枷をしていたので多く吸引する事無く、その様な状態になる一歩手前で止まったものと思われます。ただ……」


 医師はそこまで言うと言葉に詰まり、動揺を隠し切れないのかぎゅっと自分の腕を握り締めている。そんな様子を静かに眺めていたが、痺れを切らしたクラレスが促すと、重々しくまた話を続ける。


「……人形のような状態にはなりませんでしたが、以前のような状態とも言えません。幻覚と現実が混在した状態のままです。今は鎮静剤を打ったので静かに、深く深く眠っていますが、切れれば酷くうなされ暴れるでしょう。薬が抜けるまでほとんど意識は戻らないかと思われますが、抜けてからもどうなるか……」


 医師はそこまで言うと、完全に俯いてしまった。


 静寂


 この医師は代々皇族に仕えている医師の家系だ。嘘を言ってるなんて欠片も思っていない。

 ただ受け入れられない。


「……薬が抜けるのにはどれくらいかかる?」

「どの程度の薬が使用されたか分かりませんが、二週間から一ヶ月もあれば……と」


 ぽつりぽつりと質問をする。


「それまでは眠ったままなのか……?」

「はい……このまま、幻覚と現実が分からずただただ酷くうなされ続けるかと思われます」


 聞けば聞くほどに重く、受け止めきれない事実を突きつけられる。

 既にアマリーは泣き始め、サキのそばに寄り添っている。


「……薬が抜けて元に戻らなかった場合、人形のようになるのか?」

「……そのまま記憶が無くなるか、幻覚を現実と認識してしまうか……薬が抜けるまで精神が持てば良いのですが、もし……持たなかったら……」

「持たなかったら?」


 誰もその先の答えなんか聞きたくない。聞きたくないが、もし万が一に備えて覚悟をしておかなくてはいけない。

 医師は俯いたままか細く、落とすようにぽつりと告げる。


「心が壊れ、人形のようになるでしょう」


 アマリーのすすり泣く声だけが部屋に響き渡る。


 どうにも出来ない苛立ち。

 元を正せば自分の判断が間違っていたのではないか……。やはりさっき森でマクスウェルに焼かれていた方が現実は優しかったかもしれない。

 皇帝になってから色々な決断をしてきたが、今ほど後悔と自責に押しつぶされそうになった事は無い。

 いや、今からでも遅くない。

 このまま窓から飛び降りてしまおうか?

 いっそその方が……。


 そのときふっと空気が動いた気がし、我に帰るとマクスウェルがサキの横に座っていた。

 マクスウェルはいつもと変わらぬ表情のまま、サキの顔を撫で、サキの隣で泣きじゃくるアマリーの頭も優しく撫でていた。

 私もクラレスも医師さえも、声も出せずその光景を見ていると、一際慈愛に満ちた眼差しでサキを見ながらマクスウェルが口を開く。


「もう、良い……。サキが……戻って来てくれただけで良い……。記憶がなくなっても……嫌な記憶など忘れてしまえば良い。そうしたらまた、楽しい記憶だけ紡いで行けば良いだけだ……」


 愁い、憂い、一言では表せられない色々な色を含むその瞳は、真っ直ぐにサキだけを見ていた。

 こんな状況で使う言葉では無いと知りつつも、その光景をあえて形容するなら「美しい」。心が痛くなるほどに。

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