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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
21/30

誘拐3

ちょっと描写が足りないので追記予定です。

                         ・

                         ・

                         ・ 

 馬車なんぞ簡単に見つかると思っていたが……おかしい。

 国境まで来たが、ここまでそれらしい物は見えなかった。

 フィアハルトが居ながら方向を間違えるはずも無い……。どうしたものか。


「見つからないか!?」


 すっかり我に乗る事に慣れたフィアハルトが頭の上で叫んでいる。さっきまで何度か落ちては我に拾われてを繰り返していたものを。

 この焦り具合から見て、方向はやはり間違っていないのであろう。うむ。


「マクスウェル、もしかしたら森の中を通っているのかもしれない。正規の道ではない抜け道があるって噂で聞いたことがある!」


 噂か。

 まぁ、しっかりと確認出来ていれば、そんな隣国への抜け道など放っておける立場でもないか。


『では聞いてみるか。森に』

「へ?」


 頭上で間抜けな声を上げるフィアハルトをよそに、さっさと準備を始める事とする。

 魔力の流れを変え、自然と同化させていく。

 先ほどまでフィアハルトが飛んでしまう程強かった風がやみ、それに伴い聴覚を阻害していた轟音もやんだ。

 ……が、やはり契約者があらぬ身では、広範囲の自然とは同化しきれぬか…。

 仕方ない、不完全であるがこのままでも良かろう。

 すぅっと静かに息を吸うと、そのまま落とすように言葉を紡ぐ。


『…木よ、水よ光よ……サキはどこにおる』


 静寂。


 答えぬか。


 やはり無理だったのだろうか。


 竜皇などと呼ばれていても、単身ではこの程度か。

 大事に産み育ててきたものとも意思の疎通が図れないとはな……。


 ぼんやりと自嘲にも似た笑いを浮かべつつそんな事を考えていると、何やら頭上で衝撃を感じた気がした。

 そこに意識を向けると、フィアハルトが我の頭を叩きながら何か言葉を発している。


「マクスウェルっ。何か……聞こえないか?」

『なにをいっ……』


 声を発しようとした時、確かに何か耳元をかすめた。

 小さすぎてよく聞こえぬ……なんだ?


 自分の呼吸、鼓動も邪魔と思うほどに、どんな小さな異変も聞き逃すまいと意識を集中させる。


 ――――サキ イタ ――――


 「……っ!マクスウェルっ……!」

 『聞こえておる。少し静か……」


 ――――リュウオウ サキ アブナイ ヨ ハヤク ――――


 ――――コノサキ マッスグ ハヤク ハヤク ――――


 『……っ!礼を言おう』


 一先ず案内されるまま森の上を飛び、目的の馬車を目指す。








 「ママママママクスウェルっ! 止まれってぇぇえぇぇっぇぇぇぇ!!」


 さっき聞こえた不思議な声を頼りに森の奥に進んだら、見つけた。

 あの紋章は間違い無い。


 馬車を確認してマクスウェルにそう伝えた瞬間、いきなりの急降下。

 もうね、簡単に竜に乗りこなしてやるって言っちゃったからしょうがないけど、勝手が違いすぎてしがみ付いてるのがやっとなんだよ。

 それなのに馬車を目掛けて急降下……。ちょっと走馬灯気味だよ……。


近付いてくる馬車を目の前に、ぎゅっと目を瞑って体を硬くすると、きっと馬車が壊れる音だろう、轟音と共に想像よりは軽い衝撃が体を襲う。

 衝撃が収まったのを確認し、半ば落ちるようにマクスウェルから降りると、見事に半壊した馬車があった。


 「……サキっ!」


 目の前の状況に呆然としつつ、ふと我に帰り一歩踏み出す。サキが乗っているって分かっていて馬車を襲うとは思わなかった……。


 「動くな……!」

 「サキっ!?」


 半壊した馬車の陰から現れたのは、サキを抱えたエネロだった。

 サキは口枷をはめられ、意識があるのかすら分からない虚ろな眼でぐったりとしている。


 「……サキに何をした」


 どう見てもおかしい。

 何らかの薬品で意識を奪い連れ去ったものと考えて間違いは無いはずだが、なぜ口枷をする?

 騒がれては困るとの事だと思うが、城から国境まではそうたいした距離も無い。こんな短距離で目を覚ます薬品を使った?

 それにしてはなぜサキは虚ろな目をしているのだ?

 意識が無いのなら眠っているように見えるものではないのか?

 私の考えが分かったのか、エネロはニヤリといやらしく口角を上げるとうすら楽しそうに口を開く。


「くくく……さすがは陛下、お気づきのようですな。私は只の契約者候補なぞいらないのですよ」

「……どう言う事だ?」


 後ろでマクスウェルが低い唸り声を上げている。

 馬車を見つけた時からマクスウェルの様子がおかしい。サキの異変に気付いたのか……。

 マクスウェルの理性が持つか気がかりだが、そんな事は気にも留めずエネロは続ける。


「先日城内で黒い瞳の侍女と会いましてね、髪の色こそ違っていましたが気になっていたんですよ。その後少し探らせたら案の定、双黒の少女ではないですか。くくく……これは運命だと思いましたよ」


 城内……クラレスの所に行った時か。

 何が運命だ、勝手な事を……。


「その運命に従い連れ出したのですが、もう少しで正真正銘私の物になる予定ですよ。これが何かお分かりになるか?」


 そう言い懐から取り出したのは、透明な液体の入った掌にすっぽりと収まる位の小瓶。

 大方サキに使った薬品だろうが……。

 怪訝そうな私の顔を面白そうに眺めたエネロは、嬉しそうに言葉を発する。


「この薬品はね、我が国内で最近製造されたものですが、内容はまぁ違法とされているような代物でしてね。くくく……一回嗅いだだけでは幻覚や悪夢を見る程度の物なのですが、少量ずつ何度かに分けて嗅がせる事によりその者の精神を破壊出来るんですよ。ふふふっ……もう双黒の少女には四、五回ほど嗅がせていますからな、幻覚と現実が分からなくなっているはずですよ」

「な……に?」


 マクスウェルの唸り声が先ほどよりも大きくなり、焼けるような熱を発し始めた。


「さっき言った通り、私は只の契約者候補など要らないのですよ。私が欲しいのは、私の意のままに動く人形が欲しいのですよ! 人形に感情や記憶などいらないのですよ!!」


 そう言い、高らかに笑いながらサキの口元に布をあてがう。

 マクスウェルと私が動くよりも早くサキの顔が覆われてしまった。


 虚ろではあったが、かすかに色は失っていなかったサキの瞳が大きく見開かれ、小さな呻き声を漏らした直後、かくんっと糸が切れたように体が脱力すると、瞳は一切の色を失い、その表情には人形のような静寂が広がっていた。


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