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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
19/30

誘拐

 はぁ……。

 風に当たって来ると言って出て来たのは良いけど、全く気持ちに整理が出来ない。

 考えれば考える程、同じ所をぐるぐるするだけ……はぁ。


 棟の正面の門の近くの花壇にを下ろしながら、何度目か分からない溜息をつく。

 隣では見事に手入れが行き届いた花が、揃って私の顔色を伺うように風に揺れている。


 ぼぅっと花を見ているだけでもマクスウェルを思い出してしまい、また溜息をつく。

 こちらの世界に来て何度か巡った四季は、花とマクスウェルが共にいた。

 今にして思えば当たり前の事だけど、マクスウェルの周りには常にたくさんの花が咲き誇っていた。


 でも、こんなに晴れない心で花を見たことは無かったな……。

 隣で揺れている花を撫でながら感傷的な気分になる。


 ……駄目だなぁ私って。優柔不断で我が儘で。

 よっし! 戻ってマクスウェルとミレーニアにおめでとって言おう! マクスウェルもミレーニアも、吃驚する程の美男美女だし、お似合いの二人だよねっ! やっとマクスウェルが、私以外の人間に興味を持ったんだから、素直に喜ばないとねっ。

 無理矢理自分に言い聞かせ、立ち上がる。空元気でもなんでも、今こうやってグズグズしているよりは健全な気がするしね。


 立ち上がり気合いを入れる為大きく深呼吸をする。

 甘い花の匂いをおもいっきり吸い込むと、微かに花以外の……香水? のような匂いがする。

 何かと思いキョロキョロと周りを見渡していると、不意に後ろから口に何かを押し付けられ、それが何か理解する前に私は意識を手放した。


              ・

              ・

              ・


 おかしいな、サキが見当たらない。

 風に当たりに行くと言っていたので、てっきり棟の裏庭にいると思っていたのに。

 マクスウェルを見る限り森の中と言う訳でも無さそうだ……。


 他には……城内? いや、それはまず有り得ない。だとすると棟の正面の庭か……?


 マクスウェルにその案を告げ、移動を開始する。

 だが、棟の外周をぐるっと回ってみても、サキは見当たらなかった。


「棟の敷地から出てるとは考えにくいし……入れ違いになったのかも知れない、マクスウェル、一度戻ってみないか?」


 マクスウェルは少し冷静さを取り戻したのか、さっきまで出たままだった羽と角は無くなり、いつもの姿に戻っていた。

 ただ、相変わらず言葉は無く、ただ無言で頷くのみだった。


 お互い無言のまま歩を進める。

 明らかに二人の間に何かが会ったのは分かるが、とても聞けるような雰囲気では無い。

 マクスウェルもさっきよりは冷静さを取り戻したようだが、まだ普段の彼とは程遠い。

 部屋に戻り落ち着いてから聞くとしよう。


 場所的に棟の入り口より、城の裏口から戻った方が近かったので、人目に付かぬように慎重に戻っていると、貴族令嬢達と鉢合わせしてしまった。

 古参の臣下や名だたる貴族の娘達だ。事ある毎に皇后の座を狙い、私に接してくる者達だ。

 正直面倒くさい。

 私もマクスウェルのように彼女達を無視出来ればな……出来るわけもないが。


 自嘲気味に笑い、そんな事を考えていると、私に気付いた彼女達が小走りに近付いてきた。


「まぁっ! 陛下、こんな所でお会い出来るなんて奇遇ですわっ!」

「ははは……そうだね……」


 あぁぁあ、もう面倒くさい。

 我先にと前に出ては口を開く。内容も特に頭に残るようなものでも無く、ただ笑って頷いていれば済んでしまうようなものだ。

 まぁ、今はマクスウェルが大人しく話が終わるのを後ろで待っててくれてるのが救いだな……。

 さっきまでの雰囲気だと気にせず無視していただろうけど……あっ、そっちのが楽だったな。


「そう言えば、先程エネロ様とお会い致しましたわ」


 エネロ……隣国の宰相か。

 そう言えばクラレスと会合があるからと、昨日から来ていたな。

 昨日簡単な挨拶を交わした気がするが、その辺はクラレスに任せているし、挨拶の後から姿を見ていなかった気がする。

 取り立てて珍しいことでもない、それより今はサキを探すのが優先だな。

 そろそろマクスウェルも痺れを切らす頃だろう。


「あぁ、昨日からお越しになっていたな。すまないが少し急いでいるので……」

「エネロ様、可愛らしい人形を抱えてらっしゃったのですよっ。布で包まれていたのでよく見えませんでしたが、黒い髪の――」


 その言葉で、踏み出した足が止まる。

 黒い髪? ふとマクスウェルの方を見ると、金色の瞳と目が合う。

 どうやら同じ事を思ったようだ。

 勢い良く振り返り、そのままの勢いで発言した彼女の肩を掴む。

 

「エネロ様はどこに!?」

「きゃっ!?」


 急に両肩を掴まれた彼女は驚きのあまり目を見開いたまま固まっている。


「その人形の大きさは!? エネロ様はどこに居る!?」


 彼女は矢継ぎ早に質問をする私を、ただ硬直したまま見つめ返しているだけだ。

 少し強めに言ってしまっただろうか、動かなくなってしまった彼女の代わりに、周りにいた他の娘達がぽつりぽつりと口を開く。


「えっと……大きさは……私より少し小さいくらいの……」

「えぇ、人形にしては少し大きいくらいかしら……?」

「窓からエネロ様を見かけただけですので……その、行き先までは……。ただ、急いで馬車に乗り込んでいきましたわ」


 馬車に……。今日はこれから会合があると言うのに。

 確信は無いが、その不自然な行動から見て間違いはないだろう。



 エネロがサキを連れ去った。


 

 私個人の棟とは言え、城内で堂々と契約者が連れ去られた。


 今はそんな事を言っているよりも、早くエネロを追わなくては……でも、どこに。

 恐る恐る見たマクスウェルの顔は、想像に反し、ひどく落ち着いた表情だった。

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