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異世界少女の保護者は竜  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第一章  始まり
15/30

宰相室2

 神殿のような造りの廊下から、一歩横にそれた廊下に宰相室はありました。

 扉の造りだけは棟も城も同じなようで、見覚えのあるしっかりした木製の扉が、静かに佇んでいます。

 でも、いくら見覚えのある扉でもやっぱりノックして入室するのって緊張します。

 扉の前で躊躇していると、隣でアマリーが私のタイミングに合わせるように、にっこりと微笑みながらこちらを見つめています。その表情を見ているとどうしてか凄くリラックスでき、自然とノックしていました。

 扉の向こうから、聞き覚えのあるこの部屋の主の声が聞こえ、入室の許可を告げます。そのまま一礼し入室するとすぐに扉を閉めます。


「あぁ、もうそんな時間でしたか。少し片付けるので、掛けて待っていて下さい」


 そう言うとすぐに部屋の主のクラレスは、自身の机に乗り切らず来客用の大き目のテーブルの上にまで散乱していた大量の書類をまとめだしました。

 アマリーは棟から持ってきていた茶器を私に手渡すと、クラレスに一言暇の許可を告げ退出して行きました。

 そうこうしていると、簡易的ではありますが来客用のテーブルの一角に少しスペースが出来ました。そこに茶器を置き、アマリーに教わった通りにお茶の準備をしていきます。


「散らかっていて申し訳ないですが、今日はこのままで我慢して下さい。今日中に馬鹿陛下に全部渡すので、明日には綺麗さっぱり無くなっているはずですので」

「これ全部ですか……?」


 図書館と見間違うほどの量の書類ですよ?

 クラレスの顔を見ても、これが通常なのか取り立てて大変そうな表情でもありませんでした。


「クラレス様……お忙しいのに余分な仕事を増やしてしまってすみません……」

「家庭教師の事ですか?それは良いんですよ、たまには息抜きをしないと陛下に八つ当たりしてしまいますし」


 うん。してそうですね八つ当たり。この量を見れば気持ちも分からなくないですが……。


「私はここでお茶しながら見ていますので、貴女は今日の課題をしてて下さい」


 この書類を前にそれだけ優雅にして居られるのですから、もう私も普通にしていましょうか。

 とりあえず課題だった所を進めます。


「そう言えば、この世界って本当に魔獣が居るんですね」


 課題をしていたら午前中の事を思い出しました。一応課題の範囲でしたしねっうん。遊んでたんじゃないよっ。

 クラレスはカップを口に運びつつ、手元の資料に目を通していたのですが、私の一言で顔を上げ不思議そうな表情で見つめてきます。


「一番竜皇の傍に居たのに知らなかったのですか?まぁ、他の魔獣は竜皇の近くに寄っては来ないので、無理も無いでしょうが……」


 カップをテーブルに戻しソファにもたれ掛ると、少し呆れたように頬杖をつきます。やっぱり気付くのが遅かったんですね私……。


「やっぱりそう言う反応ですか……。お借りした本に竜の詳細が無かったのですが、背中をくすぐられるのは弱いっぽいですよ。あと人より体温高いのと、特に意識しなくてもいつもの人型になれるようです。あと意地悪で子供っぽいかな」

「半分以上竜皇だけに言える事なんじゃないですか?ですが是非書籍にしたいですね」


 やっぱりそう思いますよね!?本にしたらきっと良い物が出来ますし、怖いだけじゃなく可愛いところもあるって事も分かってもらえると思うんですよね!

ふんふん、皇后とかよりも学者になるって方向も有りかも知れませんね。


「……何を考えているのか手に取るように分かりますよ?そんな事よりも覚えることがいっぱいあるでしょうに」

「はぁーい……」

「返事は短くはっきりと」

「はい」


 お母さんかっ!言わないし言えないけど!

 でも少しマクスウェルの事を知るつもりでやってみるのも良いかもしれません。正直マクスウェルの事あまり知らないですし。


「初めて城内に来ましたけど、いろんな人が居て緊張しますね」


 突然思い出した事をとりとめも無くぽんぽんと言っていきます。ですがクラレスは特に驚くことも呆れることも無く会話をしてくれます。


 「えぇそうでしょう。貴族やら役人やら色々いらっしゃいますよ。本日は他国からのお客様も多いはずですね。今頃馬鹿陛下がどうにか平静を装って対応してるんじゃないですかね」


 そう言えば広い廊下を歩いている時に、他の人達とは違った待遇と言いますか、取り巻きが多い男の人とすれ違いましたね。頭を下げていたのでよく見ませんでしたが、その人でしょうか。陛下……体調は大丈夫なんでしょうか?


「怪しまれる事はしてないですよね?」


 怪しい前提ですか!?いやいやアマリーも一緒に居たんですよ!?完璧に対応したに決まってるじゃないですか!そう伝えると、『ですよね』の一言ですし……。さくっと終わらせて帰りたい……。

 最初は必死に覚えないといけないと思っていましたが、実際に始めてみると、毎日の課題が絶妙に無理のない量なので、意外にもゆっくりと過ごす時間があります。

 そう言えばマクスウェル……。


「ふふふっ。今マクスウェル、ミレーニア様と一緒に森に行ってるんですよ?」


 つい思い出し笑いをしながら言ってしまいました。


「よく竜皇陛下が許可しましたね?まぁ……押し切られたのが目に見えましが」


 想像出来るのか、クラレスは溜息をつきつつ少し楽しそうです。


「クラレス様もよく押し切られてたんですか?」

「まぁその……あの方は誰にでもそうですからね」


 やっぱり。どことなく嬉しそうなのは、押し切られた仲間が増えたからなんですね。

 と言うか、クラレス様って何だかんだ押しに弱いですよね?アマリーといいミレーニアといい……。女性に押し切られるのに弱いのか!理解しても実行する勇気はない……!


雑談混じりに楽しく課題をこなし、気付けば夕方近くになっていました。

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