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断絶の魔法師  作者: 永地 京
一章 境界の理
9/26

9 抱えるハンデ

少し短めです

 誘拐二日目。


 常々抱えていた問題が、とうとう浮き彫りになりました。

 昨日の今日でティアには大変申し訳ないが、やっぱり俺、全然強くなかったわ。


 漆黒の体躯を起こし、野獣は目の前に立つ俺たちに爛々とした瞳を向けている。

 それだけのことで、俺たちは言葉を失い、これに勝ち、無事に家へと帰るビジョンを思い浮かべることが出来なくなった。


 前触れもなく、黒き肉塊が横薙ぎに振るわれる。


「──っ! スクエア!」


 俺の小さな頭を易々と柘榴にしてしまえる暴力に対し、竦む体を奮い立たせ、その軌道の先にスクエアを展開する。

 初撃を阻まれた野獣は蹈鞴を踏み、それを好機と見た俺は、保険として俺たちの頭上にスクエアを張り、それとの距離を詰めた。


 鼻孔を野性味溢れる獣臭さが突き抜ける。

 分厚い毛の層に腕を突き入れ、掌に生暖かい肌の感触を受けた瞬間、魔力を放つ。


 何かが爆ぜる音が辺りに響き、ゆっくりと黒い巨躯が前のめりに倒れた。


「はぁはぁ。つ、疲れた」


 痺れる腕を振りながら、一歩二歩後ずさり、地面に座り込む。

魔力効率が悪すぎる。

 俺の使える唯一の魔法であるスクエアは、決定的に攻撃性が欠如している。


「大丈夫?」


「…………立てる?」


 今回襲ってきたのは野生の熊。

 スクエアで出来る攻撃なんて、ぶつけるくらいしかない。

 それも成人男性が素手で殴る程度の威力。人間相手なら後頭部に当てて気絶させるくらい出来るが。熊に、ほとんど素手で挑むなんて自殺行為でしかない。


 俺がこの強敵に有効打を与えるには、魔力に雷などの攻撃性の高い理を与え直接打ち込むしかないのだが。

 俺の魔力に物理以外の理を与えてしまうと変形できない。


 そもそも、魔力変質だけでも十分魔法と呼べるにも関わらず、なぜ魔法師は魔力を変形させるのか。

実は、魔力にはいくつかの性質がある。

まず精神に強く影響を受けること。

そして、何の形も与えられていない魔力は非常に発散しやすい性質を持っている。

 しかし、魔力に一度形、イメージを与えると、その形で定着し魔力は発散しづらくなる。


形を持たない魔力は不安定で、俺は攻撃の為に常に魔力を放出し続け、発散しないように魔力制御をおこなわなければならない。

それは、戦闘しながら余計なことにキャパシティを割かなければならないということに他ならない。

 だが、これはもともとクアンに愛を貫くと言った時から、想定していたことである。そのために複数の魔法制御のための並列思考はこの二年間ひたすら訓練してきた。


 しかし、ただでさえ普段使わない理、加えて命を懸けた戦いとなるとその精神的疲労はスクエアの使用と比べ数倍以上。

 

 そして、何より。


「し、痺れる」


 掌に纏わせた雷撃は俺にダメージを与えないが、馬車の床を燃やした時と同じように、相手に流した電流、一旦俺の制御を外れた魔力は容赦なく俺に牙を剥く。


長々と語ったがつまりは、俺が敵にダメージを与えるには基本ゼロ距離戦闘を余儀無くされ、凄まじい疲れを感じると共に、腕が滅茶苦茶痺れるということだ。


「やばい。これ程までに自分のダメさを実感した日は、これまでになかったぞ」


「えっと、そんなことないよ?」


「うん、わたしじゃそもそも戦えないし」


 軽く絶望に陥る俺を彼女たちは口々に慰めてくれる。


 しかし、普通の獣でこれなら、魔獣ともなるとどうなってしまうのやら。

 

 これは、魔力性質の改善に努めるべきなんだろうか。


 ……無事に帰れたら、シルバ様に相談しよう。




◇◆◇◆◇


 それからまた一晩過ぎて、誘拐から三日目の朝。

森を抜け、丘の上に出た俺たちの目の前には見覚えのある運河が流れていた。

 とは言っても後数キロは歩かないと俺の家までは辿り着けないけど、ゴールは見えた。


「あそこの川の側にあるのが俺の家だよ」


「どれ? どれどれっ」


「あの赤い屋根の。あそこまで行けばもう安心だよ」


 案外何事もなく戻ってこれたな。

 やっぱり森の中を突っ切ってきたのが功を奏したのかな。

 流石に誘拐犯も、五歳児がここまで目的と意図を持って行動し、戻ってこられるだなんて想定してないだろうし。


「よし、冒険の終わりも見えてきたし、あともう一頑張りだよ」


「いいや、ここで冒険は終わりだよ。坊ちゃんたち」


 その声を聴き、思わず振り向いた俺たちの目の前には見覚えのある,

傭兵然な男たちが立っていた。


次話は今日の十二時投稿予定です。


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