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断絶の魔法師  作者: 永地 京
一章 境界の理
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6 ガールズルーム

 

 俺はお城に来て早々にリーシアたちと隔離され、控室に監禁された。

 扉はばっちり鍵がかけられているし、外には見張りの人も立っていた。

 まあ、それは問題じゃない。

 防犯意識が高いってことなんだろう。大いに結構。

 そんなことより問題なのは──


「ねぇねぇ。貴方はどんな魔法が使えるの? ねぇねぇ、ねぇってば」


「…………」


 相部屋の子たちがなぜ、女子なんですか?




 ◇◆◇◆◇




 俺の服の裾をぐいぐい引っ張る赤髪の少女。

 腕白さが体中から溢れ出し、元気な小型犬が綺麗なドレスを着ているような感じの少女である。

 見目麗しい顔は常に笑顔で染められていて。よく見れば彼女の来ているドレスにはスリットが入っていたり、周りの物に引っかかるような、余計な装飾は一切施されていない。これらの事から彼女の親御さんも彼女の腕白さには手を焼いているようだ。

 彼女はあまり人見知りしないタイプらしいく、俺が来る前はもう一人の銀髪の少女に絡んでいた。

 銀髪少女は相当しつこく絡まれたらしく、部屋に入って来た時に彼女が若干涙目だったのを、俺はしっかりと目撃している。


「私はね、お花の形が得意なの! 見ててね?」


 彼女の手に真紅の魔力が灯る。

 魔法の才能や魔法に関する要素の多く、例えば魔力の色なんかは大体の場合遺伝で決まる。

 俺の場合、母親であるリーシアの血が強かったのか、容姿と共に魔力もリーシアと同じ、綺麗な空色である。また、魔法の才能に関しても彼女の得意としている難易度の高い『回復の理』を難なく習得している。

 この様に多くの要素が遺伝、つまり生まれで決まってしまう魔法。そしてその使用者である魔法師は国によって調査及び厳重に管理されている。


 と、物思いに耽っている間に彼女の手には氷で形作られた一本の薔薇が握られていた。


「ど、どお?」


「…………すごい」


 差し出されたそれを手に取る。

 花弁の一枚一枚まで精巧に作られ、もし色付けされていたら、俺では本物と見分けが着かないだろう出来栄えだ。


「ほ、ほんとに?」


 彼女は口元には嬉しさを、目には疑惑の光を宿しながら、氷の薔薇を持つ俺の顔を覗き込んだ。


「うん、こういう魔法、俺は使えないからさ、本当に凄いと思うよ」


 うん、こういうのを本当の魔法と呼ぶのだろう。

 それにしても、よく出来てるな。本物の薔薇そのものだ。

 球体や正方形などの図形と違い、花などの複雑な形状に魔力を変形させることは高等技術であり、当然俺には使えない。いや、多分俺の想像力なら可能ではあるんだろうが、俺がそれをやろうとした時、抽象的だったスクエアがより実物に近い形をとるようになってしまったら。

 俺は、もう二度と人前で魔法が使えなくなってしまう。主に公然猥褻的な理由で。

 それはそうと、流石は貴族。彼女の服装を見るに相当な金持ち貴族の息女なのではないだろうか。


「えへへ、すごいかぁ。じゃあもう一個私が使える魔法見せてあげる!」


 そう言って彼女は再び唸りだし指先から魔力を放出し始めた。

 ふと、部屋の隅に視線を移すと、銀髪少女がこちらを一切気にせず、床の上に紐で束ねられた紙の束を置いて、黙々とお絵描きしていた。

 真剣な表情で、手に持ったクレヨンで紙に窓から見える景色を描いていた。

 子供にしてはかなり上手だな。

 やっぱり貴族の子供ってのは、総じて芸術的感性が高いのだろうか。

 彼女の右頬の前を一房の銀髪が揺れている。

 銀髪の先に目を移すと、白いシャツに隠された彼女の薄い胸の前に金色の輪がぶら下がっていた。

 首から下げられた黄金の輪、それはご存知聖円教徒の証である。


 彼女の真紅の光に照らされた横顔と表情は、まるで戦場にいるかのようで────って、ちょっと待て。真紅の光に照らされてって。

 緋色の光源、思い当たる人物はこの部屋の中に一人だけ。


「ん────!」


 案の定、赤髪の少女から洒落にならない量の魔力が溢れ出している。

 部屋中を真紅に染め上げた魔力は一瞬でその色を失い、彼女の前に凝縮される。不意に胸に抑えつけられているような圧迫感を感じ、息が苦しくなる。

 そしてなにより、彼女の胸のあたりの空間が不自然に歪んで見えるのが、実にヤバイ。


「ちょっ! これまずいんじゃ──」


 と言い切る前に彼女の魔法が炸裂した。


 彼女に正面に立っていた俺は、爆風としか呼べない風の奔流に飲み込まれ、海の見える素敵な窓枠に激突。

 その後、床へ無様に顔面から着地し、床に敷かれた絨毯を彼女の魔力と同じ真紅に染めた。


「いってぇ」


 あまりの出来事に、鈍痛の走る自分の鼻を思わず袖で拭ってしまった。

 あ~、折角フィーナが選んだ高そうな服に鼻血がべっちょりと付いてしまった。

 俺は直ぐに治癒魔法を使って鼻血を止める。

 ゆっくりと鼻の痛みが引いて行く。

 事の原因である、暴風の中心部にいた赤髪少女はというと、若干服が開けている程度で怪我一つなく、得意げに腰に手を当ててにやけている。

 いやいや、ちょっと今のはまずいんじゃないですかねと、口から怨言が零れる直前、不意に、そういえばあの爆風の中銀髪の子は無事なのかと不安が頭を過った。

 思考が一瞬で凍り付き、顔からさっと血の気がひく。

 今俺の顔を鏡で見たなら、俺の魔力と同じ空の色に染まっていることだろう。

 最悪の事態を想定し、辺りを見渡すと銀髪少女は天井を見上げてポロポロと涙を零していた。


「だ、大丈夫!? どっかぶつけたの?」


「…………とれない」


「とれない?」


 彼女は目尻に涙を浮かべたまま、天井へと手を伸ばし、ピョンピョンと跳ねている。

 俺は彼女の跳ねる先に目を向ける。その先には、壁にかけてある時計があり、その上にちょうど彼女のお絵描き帳が乗っかっていた。


「なるほど。ちょっと待っててね。今とって来てくるから」


 そう言って俺は床に一メートル四方のスクエアを作り出し、それの上に乗る。

 スクエアを浮かび上げお絵描き帳を手に取り、再びスクエアを操作、銀髪少女の前まで移動する。

 即席魔法のエレベーターである。


「ほら」


 銀髪の少女にお絵描き帳を差し出す。

 しかし、少女はお絵描き帳には目もくれず、俺の魔法(スクエア)をじっと見つめていた。


「…………きれい」


「へっ?」


「……それ、魔法なの?」


「そ、そうだけど」


「すごくきれい。触っていい?」


「う、うん。どうぞ」


 俺がスクエアから降りると、銀髪の少女が四つん這いになってペタペタとスクエアを撫で始めた。


「……つるつる」


 そりゃ、貧乳(つるぺた)への愛がその魔法を形作っていますからね。


「すごーい。君、空飛べるんだ! 私はね、さっきの魔法使うと飛べるんだけどね、お父さんが危ないからこれつけとこうねってペンダントくれたの。そしたらとべなくなっちゃったの」


 この子はこの子で変わらず非常にマイペースに何かの種子で出来たペンダントを俺の顔に押し当てた。

 空を飛んでいる訳じゃないよと、口にする前に扉が控えめにコンコンとノックされた。

 さっきから言葉を遮られてばっかりだな。


「お待たせしました。入場の準備が出来ましたので、ご案内いたします」


 腰に剣を下げた騎士っぽい人たちが優しげな笑みを浮かべながら部屋に入って来て、俺たちに告げた。

 俺は一言「分かりました」と答えて、俺たち三人は騎士たちに連れられて部屋を後にした。

 移動中、そういえば今日の式典ではどんなことをやるのか、聞いていなかったなと思い、ちょうどいいので彼女たちに尋ねてみることにした。


「君は今日どんなことやるか知ってる?」


「うんっ! おいしいものがね、いっぱいあるんだって」


 うん、花より団子を地で行くわけね、君は。

 どうかその心と胸囲を失わずに、育ってください。


「みんなでならんで歩く」


 それなら安心だ。いきなり踊れとか歌えとか言われても困るだけだしな。

 まあ一通りの事はフィーナに習っているけど、ぶっつけ本番程緊張することはないだろうし。

 

 一応、騎士の人にも確認しようと振り返えると。


「ぐえっ」


 行き成り誰かに襟首を掴かまれ、持ち上げられた。

 反射的にスクエアを展開、不埒者にぶつけようとする前に、俺の頭に鈍い痛みが走った。

次話は今日の十二時投稿予定です

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