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断絶の魔法師  作者: 永地 京
一章 境界の理
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2 初めての魔法

 

 貧乳。


 その定義は地域や宗教、人によって様々だ。

 一応俺の住む界隈の基準では、日本人女性の平均胸囲がCカップなのでそれ未満、つまりBカップ以下が貧乳であるとしている。


 誤解がないように先に言っておくが、別に俺は巨乳が嫌いな訳じゃない。むしろ好きだ。

 この世の女性の胸部のその全てを俺は好いている。


 しかし貧乳は、もう好きを通り越して、愛しているといっても過言ではない。


 それはまるで兵器が強化される過程で、形状がより洗礼されていく様に、女体が機能性を高め至った美。

 重力の受けることなく。

 変化、進化という万物に強いられる選択の中で、『変わらない』という道を選び続けた者の証。

 

 何ものにも屈しない、変わらない永遠の美しさを貧乳は有しているのだ。


 ◇◆◇◆◇




「月日が経つのは早いもんだなぁ」


 気がつけばもう俺は三歳になっていた。


 前世を含めて二十歳。見た目は三歳児だけど、俺も中身はもう立派な大人だ。どこかの名探偵より中身と外見にギャップがある。


 この三年は屈辱と幸福の日々だった。


 この赤ん坊の体は、生理現象を全く制御できないのだ。

 残念なことに貧乳フェチでしかない俺には、赤ちゃんプレイはレベルが高すぎて、ただただ申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。

 ただ、その分貧乳を思う存分味わえた。

 お腹が減ったら母乳を啜る以外に俺に選択肢はなかったのだから、それはもう存分に甘えさせてもらった。


 この三年で分かったことが幾つかある。

 まず一つ。俺が生まれ変わった世界は日本どころか地球ですらなかった。この世界の名前は知らないが、俺が今住んでいる国はフィールラリアという国で、早い話が異世界だ。

 現実は小説よりファンタステックだとはよく言うけれど、まさかこんな事が自分の身に起こるだなんて想像もしてなかった。


 俺が生まれ変わった家はかなり裕福だ。

 多分貴族って奴なのだろう。あんまり興味ないから気にしてないけど。


 五歳になるまで、他家の人間には顔を見せないのがこの国の慣習らしいから、うち以外の貴族って感じの人どころか、家を囲う塀の向こう側も俺は見たこと無い。

 だから、どのくらい裕福なのかはわからないが、大豪邸にメイドを十数人雇う生活がこの世界のスタンダードだとは到底思えない。


 俺の今の名前はシーアルト・ロー・フーリアス。母親のリーシア、父親のクアンたちからはシーアと呼ばれている。


 二つ目。屋敷の使用人が全員貧乳だったから間違えないとは思っていたが、やっぱりクアンも俺と同じ貧乳フェチだった。

 しかし、彼の貧乳愛は俺の想像を超えていた。彼は俺の顔を見るたびに、赤ん坊の俺に貧乳の素晴らしさを洗脳するかの様に説いてくるのだ。お前、俺が転生者じゃなかったら始めて喋る言葉は間違いなく「ひんにゅー!」だぞと、俺でも引くレベルの貧乳愛の持ち主だった。


「シーア、こんなところでなにしてるのかな?」


 家から出られない俺は少しでも外の事を知るために、クアンの書斎から本を持ち出し、バルコニーで読むことを日課としている。

 上を見上げると(遮るもの)がないのでお母様の端麗な顔が。


「お母様~!」


 そう言って俺はお母様、リーシアの(ない)胸に飛び込む。


「あらあら、シーアは甘えん坊さんね」


 リーシアは優しく俺を抱き上げると、俺の頭を撫でる。

 最初の頃は自分の胸に母性が感じられないのでは無いかと不安がっていたようだが、クアンが言葉で、俺が行動でそんなことはないぞと、寧ろ貴方の胸は聖域、貴方は聖母の様な存在ですよと全身全霊で伝えまくった。


 結果、今では自分の身体に誇りというか、自信を持っているようだ。


 満面の笑みでリーシアの胸に顔埋める俺。

 しかし、なぜかやましい気持ちが一切湧か無い。


 何というか、劣情を全く感じない。これは母親であるリーシアに限った話ではなく他の貧乳の人でも同じで、俺の貧乳フェチはもはや愛というか、信仰に近いものへと昇華しているようだ。


 愛おしいこの胸を守りたい。

 

 そう心の底から強い思いが際限なく沸き起こる。


「おっ、リーシア。シーアを見つけたみたいだな」


「あ、お父様」


 お母様の背中越しに俺を見下ろす、金髪で金と緑のオッドアイの美丈夫が、俺の父親、クアン・ロー・フーリアス。


「おう、シーア。元気にしてたか?」


 お父様、クアンはこの家の当主で、普段は城で仕事をしているらしい。


 だからしょっちゅう城に行っていてあまり家にはいない。

 まあ、顔を合わせたところで、貧乳の話しかしないが。


「僕に何か用事ですか?」


「あぁ。そろそろお前の魔力も安定期に入ってきたからな。制御法の勉強とか色々とやらなきゃならんことがあるんだよ。あと二年でお前も五歳だからな。そうなると一応他家の連中にもお前を紹介せにゃならんのよ。その時までにはある程度魔力を制御出来る様に──って、まだまだお子ちゃまのお前には難しい話だったな」


 そう言ってクアンはガシガシと乱暴に俺の頭を撫でる。


「い、痛いです。お父様」


 ちくしょう、子供扱いしやがって。


 俺の精神年齢とクアンとリーシアの年は同じだ。

 つまり、クアンとリーシアは同い年で二十歳と言う事だ。

 この若さでこの家の主っていうのだから驚きだ。

 でも、二十代で当主ということは、おそらく前当主であっただろう俺の祖父や祖母はもう亡くなっているのかもしれない。

 少なくとも俺は、この家で祖父や祖母の姿を見たことがない。


「それで、僕は何をすればいいんですか?」


 俺とリーシアとの貴重な憩いの時間を邪魔しやがって、この貧乳フェチ!

 クアンの腕を振り払い、不満丸出しの声で俺は尋ねた。


「いや、今日は別に難しいことはしない。補助の魔術具使って魔法の──」


「魔法!!」


 そう、この世界には魔法があるのだ。

 この前、階段から転げ落ちた俺にリーシアが魔法で傷を治してくれて知ったのだが、この世界は所謂剣と魔法のファンタジーな世界なのだ。

 しかし今の今まで魔法を覚える機会が全くなかった。

 俺の目のつくところには魔法の本は一切置いておらず、魔法が使いたいなぁと仄めかしても、もう少し大きくなってからねとはぐらかされてきた。


 それが今日やっと、


「すぐやりましょう! さあ早く!」


 魔法と聞いて興奮する俺を、二人は微笑ましい顔で見つめていた。




 ◇◆◇◆◇




 リーシアに抱かれたまま、連れてこられたのは屋敷の庭。

 そこにはどこから持ってきたのか、一抱え程の立方体の石が置いてあった。

 表面は滑らかで、日向に置いてあったわりに熱を持っていない。


「いいか、これは魔法の補助と使える魔力を制限する魔法具だ。これに触りながら、魔法を使って魔力を使うことになれるわけだ」


 まずは補助輪付きで慣らしていこうということだな。


「そこにある、積木の中から好きなのを選んで、それをよく見ながら掌にそれと同じものがあるって思い浮かべるの」


 なるほど、確りとイメージすることが大事ってことですね。了解しました。


 そうだな、まずはあの丸いのにするか。

 球体の積木を視界に収め、魔術具に触れる。

 すると体の中から何かがするりと抜け出していく。

 なるほど、これが魔力を使うってことか。

 掌に魔力が揺らめき、それが段々と形になっていく。

 数秒後、魔力は完全な形となり、ふわふわと掌の上に浮かんでいる。


「…………あれ?」


「おっ、すごいじゃないか。はじめは大体のやつは形が歪んだり、斑になったりするんだが。まさか初めてで、ここまで完璧に魔力変形できるとはな」


「シーア、すごいわ! 将来はきっと大魔法師ね!!」


 嬉しそうに、口々に俺を褒めそやす両親に対し俺は首を傾げていた。

 俺の頭の中は疑問符で一杯だ。

 なぜなら、俺の手にはスカイブルーの綺麗な正方形(・・・)の魔力が浮かんでいたからだ。


 これは────成功って言っていいんだろうか。


「わっ! ぷっ」


「今日はお祝いね!!」


 正方形を見つめていると、リーシアが俺を後ろから抱き上げ、力一杯抱きしめた。


 …………うん。成功ってことにしよう。


 細かいことはあとで考えればいいや。


次話は明日の十二時投稿予定です

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