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大輪の花。あの人を想う。

作者: 七草せり

夏の暑さで気怠くなる。

灯籠流しの日、花火が上がる。


私は(まこと) さんと、灯籠流しへと出向いた。


祈りを込めて灯篭を流す。

海に近い川 に……。


土手の下では、花火の職人が準備をしていた。

春の彼岸に私はお墓参りへ出かけた。

あの人の眠る場所……。

一つのけじめだ。

この秋に、真さんと夫婦になる報告と、前を向いて歩く決意の為に。


お盆にも墓参りに出かけた。

お盆は組み合いの集まりがあり、戦争で命を落とした方への弔いの為。


学校教師として。


私情はもう挟まない。そう決めたのだから。

そして、灯篭流し。


皆それぞれの灯篭に願いを込めて流す。


彼岸に届く為にと……。


私達も、願いをこめ灯篭を流す。


淡い火がゆらゆら揺れ、水面を流れる。

私の最後の思いを乗せ、ゆっくり流れる中、

花火が上がった。


轟く音と、美しい花火。

咲いては散る花の様。


涙はとうに流したのに、こみ上げる物はなんだろう。

浴衣を強く握る手は、どうしてか優しく温かい。


あの人が側にいる様で、たまらない感情に流されそうになる。


前を向いて歩く私を励ましてくれているのか

ふと思った私の口が、自然と何か呟いた。


「貴方を思い過ぎる日々は夢の様。 叶わぬ約束はまるでこの花火の様に儚いもの。

交わした約束は、大輪の花火の如く呆気なく消え去る……」


そっと呟いた言葉は、花火の音にかき消される。


しかし、きっと届いているだろう。あの人の耳に。


確信のない不確かな自信が私にはあった。


姿なくても。きっと……。

だってこんなに温かいから。


夏の生ぬるい風ではない。

あの時の優しい温もりの様な風が吹く。


「真さん……。 幸せになりましょう。 命紡げぬ方達の為に」


私は真さんの手をそっと握った。


夜空の花火は美しく、また悲しい。

その儚い悲しさが、より美しく魅せる。


頬をつたう涙は、悲しみの涙ではない。


新たな誓いの涙なのだろう。


涙ぬぐわず泣けばいい。今日だけは。

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