0-7 すべての引き金
誰も望まぬ絶望の到来。
世に放たれた魔道の力と、それを操る杖。
一夜にして、すべてが始まる。
事が起きてから、二人が意識を取り戻すまでに、およそどのくらいの時間が必要だっただろうか。もはや二人にも正確な時間を掴むことは不可能であった。重たい体を起こして、カリウスは周りを見る。既にあの陰のような者も、杖も無かった。冷たく音を立てながら風が空間内を吹き抜けていく。肌に感じる寒さに彼は気付き、天井を見た。
既に宝物庫の天井は破壊されて、真っ暗な闇夜に雲と切れ間から星空が見えるようになっていた。風が吹く原因はそれだったのだろう。光り続けていたガラス状の地面は、至る所で粉々になり、既に何一つ光っていなかった。
メロディも起き上がり、周りの状況を確認する。
「…私たち、一体どう…」
「俺にも分からない…ただ…」
ここ最近噂になっていた、道化師の話。城下町や周囲の町で、城の内部について探っていた何者か。あの陰はまさにその道化師で、はじめから杖を強奪するために探っていたのではないか、と彼はすぐに考えた。そして事は見事に成功してしまい、杖は奪われた。
「あの杖は世に触れてはならない物だと言う。…取り返さなくては」
「こんな状態から…あっ、大臣や王様は…!!」
この宝物庫は周りよりも高い位置に作られているので、被害はこのフロアだけかと思ったが、それは誤りであった。城内のほぼ全域が破壊され、もはや城は瓦礫の山と化していた。玉座の間も、大広間も、あんなに綺麗だった庭園もすべて、この一件に巻き込まれ姿を変えてしまった。
たった一度の行為で、国の中枢であるグランバート城が崩壊したのである。そして二人や他の国民は、指導者たる人物を多数行方不明になったことを理解した時、急激に絶望感に襲われることになるのだ。
「…行こう、メロディ。もうここにいても、どうしようもない」
「杖を、取り戻しに行くのね?」
このような事態が発生してしまった以上、もう取り返しのつかないことだと二人は自覚していた。彼は杖の警備を任されていたこともあり、彼なりの責任を感じていることは、彼女にもすぐに分かった。だからこそ、彼のその言葉には重みがあり、それを受け入れ共に行動するだけの器をメロディは持っていた。
「…必ず、グランバートを…!」
…。