4-18 Days
…。
それまでのことも、それからのことも、私は覚えてる。だけど、あの一瞬だけ、何が起こったのか、私にも、他の人にも分からなかった。でも、それが原因で周りが静かになったんだ、ということは、分かった。
「…な、なんだ」
「さっきまでとは大違いだ…」
ついさっきまで、あんなに激しく戦闘を続けていたのに、今はもう、静かになっていた。お互い傷つけあいながら戦って、そして今、ここにいる。
「張り詰めた空気が消えた感じがするな」
「独立軍は…そうか、既に殆どが…」
私は思った。
この戦いに、勝敗がないこと。政府の人たちが取り決めをしたその意味。人々が自国の利益のために、多くの犠牲を生みだしてきたことへの、反省。
生き残った人たちは、次の時代のために、その役目を担わなきゃいけない。
「あの女は…消えた、のか…?」
気を失っていたのか、それとも眩いほどの光で視界を奪われていたのか、理解できていなかった。だが、レイは先ほどまで戦っていた女が目の前から消えていたことに、すぐ気付く。すぐそばの壁は崩落し、その位置から外が見渡せる。もう少し壁際に寄っていれば、転落していた可能性があった。レイは周囲に脅威がないことを確認し、その場で剣を収める。
空が、明るい。そんな中、静かにゆっくりと、雪が降り続けている。今の彼にも感じるものがあった。先ほどまで、この谷全体を取り囲むようにしていた感覚が、今はもう感じられない。それどころか、心の奥底で温かみを感じる、そんな感覚さえ感じられる。とても戦場にいるとは思えない、安らぎのある気持ち。その正体が何なのかは、彼には分からない。
レイは、静かになった戦場、施設内部を歩き続ける。両軍とも、多くの犠牲を出してしまった。幾つもの、心を開くことのない体を見て、彼は表情を硬くする。
そして彼は、爆発の激しい地域、発射台の周辺に辿り着く。音もなく静かな風が吹き、彼の体を刺激する。本当は施設であり、外壁に包まれていたであろうものが、今はその面影さえなく破壊されてしまっている。短時間で発生した何らかの現象であるのか、どうか。彼には断定することができない。
しかし、そこに人はいない。
「…、あれは…」
残骸の激しく残る場所。発射台も先ほどまではその高さを維持していたのであろうが、今は瓦礫の山のような光景と変わってしまっている。その瓦礫には、正体不明の何らかの物体も、含まれていた。巨大なエンジンのようにも見える物体。大きな固定銃器の破片。
その瓦礫から、ハッキリと見えるある二つの物を、レイは発見する。二つの物はほぼ同じ位置にあったが、そのどちらとも、彼は見た瞬間に何であるかを、理解した。
「…そうか…」
『彼ら』の、本当の目的。
そのために大陸中を移動し続け、探し求めていたもの。取り返すために、戦うことを選んだもの。彼はそれを目の前にして、足も手も止まる。どうしてこれがここにあるのか、何故という点を考えるよりも先に、彼は力なく、まるで翼を失った鳥が横たわるようにしてあったその物体を見て、幾つかの感情と共に、言葉を発す。
「…カリウス、終わったんだな…」
もう一つのもの。
それはかつて、あの者が若い頃、戦争が続く不毛な時代に羽織り続けていた、黒のローブであった…。
12月28日。
この年の終わり。この日を最後に、戦闘は発生しなくなる。「国境なき独立軍」その正体は結局のところ不明であったが、後に人々にその名前が知れ渡ったとき、多くの研究者や人々が、この者たちの目的や理解、思想などを調査、主張した。本当のことを知る者は、当事者しかいない。
事実上、「国境なき独立軍」は全滅をもって、歴史上では伝えられる。一つには、不毛な時代を変革するべく強硬手段を行った、革命的存在として。もう一方では、戦争の拡大と人民の犠牲を強調した、史上最大の凶悪組織として。50年もの間、国家間が戦争を続けていた不毛の時代に変化をもたらしたのは、間違いなく国境なき独立軍であり、その正体がルウム公国の残党軍だという説は、今後根強く展開されることになる。
一方で、連合という立場にいながら、この戦争を終結させるための立役者として、時代は新たに「ゼータの英雄」という言葉を作り出した。『彼ら』という存在が、道化師ネオスという、グランバート城を崩落させた謎の人物を追う過程で、ソウル大陸北部に位置する地方を、その由来としている。『彼ら』の始まり、カリウス、メロディの両名が大陸北部から歩き始め、途中3人の仲間と出会い、そして戦争へかかわっていく。劇的な展開を迎え、経験しつつも、彼らは最後まで荒波に立ち向かい続け、12月28日まで貢献し続けた。
本来であれば、この一連の流れこそが史実となるのだが、それを知る者はいない。当事者である軍関係者などは、これらの情報を公開せずにいる。見通しの立たない中、多くの情報は錯綜するが、その中で間違いなく、ゼータの英雄という言葉が人々の間で信じられ、そして戦争終結に大きく関わった、という認識が拡大した。
『彼ら』にとって、これは良いことなのか、どうなのか。様々な人が多種多様な感性を持ち、意見を述べる。その過程が出現し、現在も人々の間で色々な形で表現されているのは、『彼ら』という存在が出現してから、時代が変化を遂げたという、一種の証拠なのかもしれない。
…12月28日。
戦争は、終結する。
…。




