4-15 Life & Death
…。
良いの。あの村には、もっと私が大きくなってから帰るって、決めてたから。
私は昔から、両親がいない家庭で育った。
村では、親代わりとして育ててくれた父がいたけれど、その父も度々帰って来ない時期があって、ある時突然別れを告げられたんだ。
あの時のことは、よく覚えてるよ。突然もう帰って来られないって、言われちゃってね。もしかしたら…またどこかで、会えるかもしれない。この先どうなるかは、分からないけどね?
いつか、この大陸が平和になったら、旅してみたいな。きっと、良い経験になると思うんだ。新しい出会いも、あるかもしれないねっ。
疲れるね!…でも楽しい!今日の夜ご飯はこの野菜使おうね!
…親は小さい頃から、いなかった。顔、覚えてないんだ。私がうんと小さかった頃の、話。
ねーねーおじさん、この人、だぁれ?
人は、何かのきっかけで、すぐに変わってしまう。それが良いものであろうとそうでなかろうと、変化は常に人間の生活に住み着いている。私たちは、自分たちの状況を常に周りに動かされ、やがて自分たちが、状況を作る身となった。
それも…すべて、運命だった。
優しさだけでは、人は救えない。罪も穢れも、消せないから…。
「…ふ…」
「…!?」
その場ですぐに気付く。自分の剣が弾かれ、バトラーの放った銃弾が、自分には命中していないということを。そして、彼の目の前で倒れている女性は、間違いなくフィルであるということを。まだ鼓膜に銃声が鳴り響く感覚を残しながら、一方で何が起こったのかを気付く前に、自分の名前を呼ぶ彼女の姿があったことを、思い出す。
「フィル…!?」
カリウスは、殆ど言葉にならない、声も出ないような、わずかな音を発した。倒れてから動くことのないフィルを目の前に、今度自分の足元に大量の血が流れ始めていることに気付く。目の前に敵がいるのにもかかわらず、彼はすぐに姿勢を下ろして、彼女を確認した。
一方で、撃ってしまった本人、バトラーは驚いた表情のまま、その場に動くことが出来ない。バトラーは、まさかすぐにフィルが彼を庇おうとするとは思わなかったのだ。トリガーが元の位置に戻らない。指に力が入り、抜けようとしない。目を見開き、その場で起きた現実を直視する。するとその時、わずかな時間ではあったが、施設内が大きく揺れる。フィルのそばにいるカリウスもそれを感じる。バトラーは、揺れを感知した後、すぐにその場から走り去っていく。
その表情は硬かった。そして、カリウスは、バトラーを追うことはしない。
「フィル…しっかりしろ…」
「…ごめんね、こんな姿で…」
息はある。カリウスは、銃弾が受けたと思われる箇所を手で押さえ、出血を止めようとする。しかし、そんなカリウスの行動を無視して、大量の血が流れ続けている。想像を絶する痛みと苦しみが今、彼女を襲っているが、彼女はそれに屈することなく、わずかに見える光を頼りに、目の前にいるカリウスを見続けていた。
「私ね…、私―」
「もういい、喋るな。今助かる、必ずだから―」
「もう…良いの。私の身体は、私が一番よく分かる…」
カリウスが話そうとすると、フィルがそれを遮るようにして手をだし、話し始めた。元々声が大きくない彼女の、更に小さく弱くなった声は、カリウスには聞いていられないほど、一種苦痛を呼ぶものであった。心からこみあげてくる波を目に浮かばせながら、彼女の話を聞く。
「…私、分かった気がする。私たちのこと…ば、バトラーたちのことも…人は、みんな変化を求めて…この、戦争も…」
フィルは、話しながらカリウスに向けた手を、今度カリウスの胸元に触れさせる。厳しい、いや寂しさや悲しさに満ちた表情を持つ彼は、その手を片方の手で優しく掴んだ。
「…でも、それは悲しみを作る…戦争からは何も、学べない…でも、それでも…お父さんは、それを分からせようとした」
たとえ…この不毛な時代でも、それを分からせなきゃいけない…人々に…
「…フィル…」
フィルは、今自分が出せる最大の力を使って、カリウスの手を握り締めた。とても、強く掴んだとは思えないほどの、力で。フィルの目から、涙が零れ落ちる。
涙は、彼の手に触れる。
「カリウス…貴方が往くのよ…生きて人々に教えるため…!」
「…あぁ、分かった。フィル…分かったよ…」
「うん…それで、良いよ…ね、カリウス。寂しがることなんか、ない…」
わ…た、しは………。
「…っ…フィルっ…」
彼の涙が零れ落ちた時、彼女の涙が止む。彼の涙を知る時、彼女は目を閉じた。
12月28日。カリウスの前で、フィルは息を引く。4人の仲間と出会い、各地を歩き続け、戦闘に参加する男たちの支えを陰でし続けた彼女は、その役目を終える。
父の理想が彼女へ伝えられる。そして、彼女は彼に現実を伝える。
…。




