4-8 hinder
昏迷の時代に生きた者たちが交わす、言葉。
いつまで続くかも分からずに戦い続けた日常。
世界は、再び人をその渦へと引き寄せようとする。
戦闘の発生しない今。かつては戦火が大陸中を、世界中を飲み込んでいた。しかし、ここまで静かな状態になったことが、ここ50年間で何度あっただろうか。恐らく、殆どこの状態は生まれなかっただろう。すべて、人が行ってきたことによって、その沈黙は常に破られ続けた。
それが今は、ある意味で戦場を会議室へ移しているようなものであった。各国がこの戦争の処理に追われる中、姿を消したルウム公国の残党軍。そして彼らの目的であったネオスの行方不明。彼らにはまだ、やらなくてはならないことがあった。ギガント公国は、先の戦いによる影響で、現在道化師ネオスの調査を中断している。同じようにソロモン連邦も、現在は軍備の調整に追われていた。皆が、それぞれの仕事に携わっていた。
12月25日。
「羨ましいよーレイ何でも出来て」
「フィルこそ一人前だな。…ん?」
彼らが、メロディとフィルの住んでいた町に戻り、その家で昼ご飯の用意をしていた時のこと。突然家の電話が鳴りだし、レイがエプロンを外して受話器を取ろうとした。が、それよりも先にカリウスが電話に出た。
「…何ですって…!」
「…どうした、カリウス」
カリウスの表情が驚いたようにも、また、絶望したようにも見えた。短い電話が終わった後、カリウスは受話器を置き、皆の方を向いた。
「終戦協定の会議が行われているアルカナが…何者かによって爆撃された…!」
カリウスの、突然の爆弾発言は、彼自身が発したものとはいえ、彼自身でさえ、それに相当する出来事である、と思っていた。そしてそれを聞いた時、彼らは全員驚愕の表情を浮かべた。メロディはすぐに外を見て、フィルはその場で口を押えた。レイは拳を握りしめ、アイクは表情を徐々に怒りへと表す。
12月25日午後0時20分。突然もたらされたその情報は、北部防空司令部基地からのものであった。都市アルカナが何者かによって爆撃され、街全体が壊滅的な打撃を受けた、とのこと。その正体は現在も調査中だが、遠距離からの攻撃を受けたということだけは、間違いないと報告が行われた。一瞬、彼らも、また連邦軍の司令部も、兵器イプシロンに似た何かではないか、と頭をよぎった。
しかし、そんなことよりも、思うことがあった。
「…また、戦争が…」
その後。彼らはすぐに近くの基地まで移動するよう命じられる。一体どのようなことが起こったのか、これから何をするべきなのか。それをすべて確認するために、移動をする。勢いのままメロディたちも一緒についてきたために、基地で出迎えた兵士も戸惑った。が、とにかくは別室へ案内させ、カリウスたち三人は情報司令室へとやってきた。
「…彼女たちも、心配のようだね。では、情報参謀である私から、現状を報告する」
若い男参謀は、すぐに集められた情報の数々を、モニターに映し出した。発生した場所、時刻、その内容などが記されている。既に都市アルカナは街全体が壊滅的打撃を受け、市民にも犠牲が出ているという。恐らく協定締結会議を狙ったものであるだろう。
「遠距離からの攻撃だと推定される。現在発射位置を特定中だが、それまでに更なる攻撃が予想される。既に救出部隊と幾つかの航空戦力が現地に急行している」
「遠距離からの攻撃ってんなら、まだ正体は掴めねぇな」
「しかし…いずれにしても、この行為は戦争を終結させることを嫌う者の犯行だろう。放っておくわけにはいかない。君たちにもまた、前線に出てもらうことになるだろう」
「…愚かな」
この一件による犠牲者は、総勢6千人にもなった。突如アルカナを襲った爆撃の正体は今も不明で、再び大陸に不安と恐怖が広まった。武器を持たない市民の虐殺。たった一つの目的、協定を締結させるのを防ぐために行われた、街の破壊。多くの人たちの様々な声が広がる。徹底抗戦、攻撃した相手の抹殺。戦争の長期化、再開への嘆き、怒り、苦しみ。
冬の深まるこの季節。もうすぐ、今年が終わろうとしている中。混迷の時代は、再び人々に牙をむける。
…。




