4-2 discovery
予想を裏切るかのような、戦闘の展開。
残党部隊は逃げにかかり、連合軍は追撃をかけなかった。
思わぬ事態が、再び彼らを困惑させる。
戦争への道に進んでいることを、当然彼らは理解している。それでも今は、自分たちのすべきことだと思い込み、この流れに乗るしか、彼らにはなかった。戦闘は、次第に激しさを増す。連邦軍の偵察活動によって発見された、ルウム公国軍残党部隊が駐留する基地に、連合軍が強襲を行った。駐留部隊の規模は大きく、戦闘は長続きするかに思えた。しかし、予想を裏切り短期決戦になりそうな展開を見せている。
「少佐、思ったより攻撃が激しく、回収が困難かと…」
「それでもここは退く以外に手はない。急げ!」
何故なら、彼らや連合軍には、妙に残党部隊が焦って後退をしているようにも見えたからである。基地内部の制圧は、彼らや他の部隊の活躍もあり、迅速に行われた。しかし、周辺の空域は、制空権を確保していたのにもかかわらず、残党軍の増援部隊として送り込まれた航空戦力に次々と味方機が撃破され、逆に足止めを食らう羽目となった。連邦軍は、既に航空偵察隊から周辺に敵軍の輸送機がいることを発見していて、恐らく時間を稼ぐのが目的だろう、と上層部は判断した。
彼らが基地への侵入を果たしてから、1時間30分ほどが経過する。基地を制圧することは出来たものの、多くの部隊を逃がしたと推測された。
「…思ったよりも、抵抗が弱い。基地内部を徹底的に捜索しろ。何か役立つ情報があるはずだ」
クロス大佐が周りにいる兵士にそう指示し、自分も基地内を移動し始める。結果的に、この戦いで連合軍は勝利したものの、何か不可解な点が残る。思った以上に抵抗が弱い理由とは、何か。クロスは、残留部隊のみを残し、一時撤退することを決定した。彼らもクロスと共に基地に残り、データなどを確かめている。しかし、基地内部のハードは既にデータ消去が完了していて、書類などに頼るしかなかった。
「…こんな面倒なことをするくらいなら、すべて燃やしてしまえば良かったものを…」
カリウスがそう吐き捨てた。しかし現実には、急な攻撃を受け基地内部を破壊するような手筈は整っていなかった。それはカリウスも理解出来ていた。もしこれでこの戦いを有利に進める情報が発見されれば、情勢は再び傾くだろう。
内心ではそれを期待していた。しばらくすると、一人の兵士が書類を持ってクロスの前に現れた。
「これは…」
そばにいた彼らも、その書類の様子を見る。アイクがどこで発見したのかを聞くと、地下にあった作戦司令室だと言う。
「すぐに検討する必要がある」
クロス大佐はそう言って、他の兵士たちに、更に何か役立つ情報があるかどうかを確かめるように、指示した。彼らは、その書類の中身を確かめる。そこに書かれていた情報こそが、内心で期待していたものに相当するかどうか。カリウスは確かめた。
どちらかと言えば、彼らにとっては厄介で、むしろ絶望を与えるものであったかもしれない。
「対空科学レーザー兵器…」
連合軍は、ひとまず最寄のソロモン連邦軍基地に撤退を完了させる。クロス大佐は、すぐに軍の上層部を会議室へ呼び出した。今日基地で手に入れた情報の検討を行うためである。その会議には、彼ら三人も出席した。クロス大佐直々の呼び出しであった。ギガント公国の軍上層部を交えた、会議。
その会議場に、ワーレンの姿はない。
「この画像を見てもらいたい。残留部隊の調査により判明した、恐らくはルウム公国が兵器開発を行っていたであろうものだ」
クロス大佐が、その場で画像を見ながら、説明を始めた。
対空防衛用科学レーザー兵器、名称をイプシロンという。概要は、ルウム公国が本国領土防衛および、制空権の持続的な確保を目的に開発、運用準備が進められていたものである。全形を高いビルのような構造で成り立たせ、周囲にエネルギー供給施設を3つ置き、更にジャミング装置による電波攪乱機能を備えた小型の施設が、兵器の周辺の土地にある、という。有効射程距離は、およそ十数千キロ。ルウム公国の領土はもちろんのこと、ソロモン連邦領土の多くを射程に捉えている。
「まさか、これほどの兵器が開発されていたとは…」
「アミストラスの戦いで、その脅威は完全に崩れ去ったと、思い込んでいた。それが実は穴だったようだな」
政府機能の停止だけで、国家は滅亡する。そんな固定概念のようなものが、今回の兵器の脅威発見に結びついた。もしもっと各国の軍が警戒を強めていれば、あの時、核攻撃を受けるキッカケを作らずに済んだのかもしれない。起きてしまったことを、今更言うのもおかしなものではあったが。
イプシロンは、ルウム公国北部の丘陵地帯にある。人里離れた土地で、この周囲は立ち入り禁止となっているようだった。
「では、エールバシオンを襲撃したのは…」
「間違いなく、残党部隊だ。それも書類の中に詳しい情報が書かれていた。直接有効射程距離に届かない地域に対しては、宇宙空間に存在する反射衛星を利用して、その射程を伸ばしている、と」
「信じらんねぇ…そんなことも出来るようになったのかよ、この戦争は」
「…これも、科学の発展さ。良くも悪くも」
アイクの驚きをカリウスが冷静に処理した。他の人にしても、カリウスの言うことが間違っているとは全く思えない。むしろ正しいことを言っているだろうと考えた。
戦争による、技術の向上。まるで競うかのようにして、戦争のために発展を急ごうとする。ルウムの高い技術力は、国として成立していないこの瞬間にも、評価されていた。
「今、大陸の空は、国を持たない軍人たちに支配されている。これを撃破しなければ、空を取り戻すことは出来ない。…作戦を、考える」
一方で、彼らが軍人のように、連合軍の中心に近い立場で動いている間、戦いそのものに関わることが出来ていない、メロディとフィルは、連邦政府が用意してくれた小さな家で、彼らの無事を祈っていた。家にいる二人は、毎日テレビを見て、今情勢がどのようにして動いているのか、ずっと確かめていたのである。
…。




