3-12 Revenge
ついに、矢は放たれる。
その力を持って、大地に絶望をもたらす。
それこそが、この世界への、最大の復讐。
「カリウス気をつけろ!こいつらは今までの奴らより早い!!」
セプテブルクでの戦闘。エルジア陸軍が思わぬ行動に出たため、ソロモン、ギガント連合軍は苦戦を強いられることになった。もともと、戦場における用兵学は、常に完璧にその通りにいく訳ではなかった。過去の戦役でも、常識を覆すような用兵によって、味方に勝利をもたらした軍がいる。今回の挟撃作戦の失敗は、あるいはその一種かもしれない。しかしながら、エルジア軍の攻撃が思うようにいかず、お互いに兵力を削りあう激しい戦闘が続いていた。その中で、彼らは最前線へ行き、至る所にいる兵士を倒し続けている。ソウル大陸で戦った時よりも、相手は格段に強かった。本土侵攻を阻止したい気持ちが、この攻撃にも表れているのだろう。彼らはそう思っていた。
一方。彼らが激戦を繰り広げている中で、背後からさらに別の大部隊が接近している。それを、連合軍もエルジア軍も、確認してはいなかった。この混戦の状態から、思わぬ形で新たな局面を迎えることとなる。
「なんだ…!?」
「どうした、カリウス」
そばにいたレイが、カリウスの方を向く。周りに敵が見えなくなり、少し落ち着いているかにも見えたが、彼の顔を見れば、それは違うのだと、レイはすぐに分かった。
次の瞬間だった。突如後ろから強烈な風を受ける。風と共に飛んできた石に背中を打ちつけられ、思わず二人は地面に伏せる。想像していたよりも、強い風であった。
「今のは…砲撃!?」
「しかし、なぜ後ろから…!!」
背後から戦場全体にわたって、相次いで発生した砲撃。その標的は連合軍だけでなく、エルジア軍も入っていた。突然発生した出来事に、両軍の被害と混乱はさらに拡大していく。
「何が起きたんだ!?」
「後ろです!後ろから攻撃を受けました!!」
「…後ろだと…!?」
ギガント公国軍も、彼らと同じように、前線を押し上げようと、エルジア軍に対して攻撃を続けていた。ワーレン大尉は、異常が発生したことに気付き、すぐに後方の司令部まで退いてきた。そこで情報を受けていたが、後ろから攻撃をされたという状況を、ワーレンはその場ですぐに考えた。
…このような規模の攻撃が出来る軍…まさか…。
「砲撃された場所をすぐに特定してくれ!」
「ちょっと待って下さい!」
ワーレンは、車両の上に乗って、自分たちが進んできた道を振り返る。目の前に丘陵地帯が広がっているが、部隊の影は見えない。しかし、砲弾は今も部隊を直撃し続けている。
「出ました!距離およそ70キロメートル!!」
「…違う、これは砲撃ではない…」
背後からの攻撃で、近くに新たな敵がいると考えられた。しかし、ワーレンが聞いた情報は、少なくとも70キロメートルは離れている、というものであった。その数字が正確なものかどうかはわからないが、少なくとも目視できる範囲に、敵はいない。とすれば、この攻撃は小型の何らかの物体であると、彼は考えた。あまりに精密な爆撃なので、上空からということも考えたが、今はやや離れた位置で、両軍とも空戦を行っている。
「大尉!大陸北部から当空域へ向かう機影を確認しました!制空権内突入まで、あと20分!」
それを聞いた瞬間。ワーレンの全身に冷や汗と鳥肌が一瞬にして生まれた。これほどの精密な爆撃を行えるほどの軍事力。可能性に包まれつつも、かつては大規模な軍事大国として国を支えた、あの連中の力。アミストラス戦役で敗れ、事実上滅亡した国の亡霊。
「…すぐに撤退命令を出せ!戦線を放棄しても構わない。海上方面へ撤退させろ!!」
ワーレンは、その場ですぐにソロモンの上層部に連絡を取り、一つの可能性について早急に伝えた。内々の事情はソロモンもある程度理解していたため、それを聞いた時、彼と同じようにして、背筋が凍るような感覚を覚えたという。連合軍は、直ちに全軍撤退命令を発令する。あまりに突然すぎる撤退命令にに、最前線にいる兵士たちにはさらなる混乱が発生した。エルジア軍は、それを見て攻撃範囲を拡大させる。
「カリウス聞いたか!海の方に逃げろってよ!」
「分かってる!!とにかく司令部の方へ行かないと!!」
司令部から通達が来てから、2分後に彼らも動き出した。戦闘を放棄し、急いで後ろまで下がる。どこへいっても逃げ惑う人ばかりで、その様子からも、混乱状態がうかがえる。三人が走っていた時、目の前に車が急停止した。そこに乗っていたのは、ワーレンであった。彼は運転席から降り、三人の目の前に汗を流しながら立った。後部座席には、メロディとフィルもいる。
「カリウス、レイ、アイク。話はわかったな?」
「ワーレンさんも早く…」
「いや、俺はまだ行けない。味方の撤退を誘導しなくてはならん。それと…さっきようやく思い出したよ。かつてソロモンやエルジアと肩を並べるほどになるだろうと期待された、ルウム公国。アミストラス戦役で敗戦はしたものの、ルウムにはバトラーという、恐ろしく強い兵士がいたそうだ…!」
「…まさか、そのバトラーという奴が…!?」
三人の頭の中で、ギルド街襲撃事件の時に見た光景が思い出される。国家再興のための事件。ギガント公国南部の荒野で出会った、凄腕の兵士。勇ましく、力のある男。その時出会った男こそが、バトラーと呼ばれる、ルウム公国の兵士だったのではないか、と。
「…すまなかった。無事であることを祈る!」
「ワーレンさん!!…また、会いましょう。必ず…どこかで…!!」
「もちろんだ!」
ワーレンはそう言うと、走って元々司令部のあった方へ向かっていく。走る味方に声をかけながら、次々に誘導し始めて行った。カリウスはすぐに運転席に座り、車を動かし始める。全速力で、その場から離脱する。車が遠ざかっていくその姿を、ワーレンは見ていた。
…生き延びろよ。
「…随分混乱しているな。良い時に知ってくれたものだ」
大陸の北部から南部へやってきた、1機の強襲機。高高度を飛び、レーダーで敵の配置を確認しながら、ようやく、セプテブルクの制空権内へ侵入を始める。陸戦では、いまだに撤退を続ける連合軍を追うエルジア軍もいる。上空にいる者にとっては、愚かな光景でしかなかった。
強襲機の底部格納庫が開く。
「…見よ。これが、我々の戦争だ!!!」
…。




