3-10 Neos’s Teachings
いまだ謎に包まれている事件の有様を、確認する。
死んだ都市の光景に、道化師が姿を現す。
戦争の愚かさは、もはや人の理解を超えていた。
「…君たちも、街へ行ってみるが良い。特に、街の東側にな」
彼らは車を使用し、約1週間で都市エールバシオンへ到達する。そこには、既に連邦軍が到着しており、先日発生した事件の詳細を調べていた。たとえエルジア領であっても、自分たちに直接的な関係が無かったとしても、あまりに不可解な事件であるから、調べる必要は当然あった。
彼らは連邦軍所属のクロス大佐の指揮下に入り、命令を待つことになった。そこで聞いたのは、実際に彼らにも事件のありさまを確認してほしい、というものであった。次の出撃が決まっている4日後までは、自由行動が許される。その間に、何が起こったのかを、彼らとしても確かめたいと思っていた。
「…さっきと、全然景色が違う…!」
「これは酷い…」
フィルが口元を押さえ、体を震わせるのが、隣にいたレイにはすぐに分かった。背後にある都市とは全く景色が違い、あらゆる建物が粉砕され、その瓦礫が多数散らばっている。原型を留めない物も多く、その形を視認出来たとしても、激しく破壊されたような跡が残されている。一体どのような攻撃を受けたのか、これだけでは、彼らとしては想像もつかなかった。
人の死体さえ、転がっている。
「生存者は…なし、か」
「なんてこった!これが戦争かよ…!?」
―そうです。それが、貴方たちのやってきた、戦争の姿なのです。
突然、禍々しい気が増幅するのを、カリウスは感じた。一瞬でそれに反応し、剣を抜いたが、その物体が出現した場所は、彼の間合いの外であった。目の前に黒い光の環が見えたかと思えば、一瞬眩い白き光を打ち出し、そして目の前に浮遊する者を確認することが出来た。
「ネオスっ…てめぇ!!」
「なぜここに…!?」
「…まぁまぁ。私と戦いたい気持ちは分かりますが、それよりも、貴方たちはここで何が起こったのか、気になりませんか?」
それは否定することが出来なかった。クロス大佐が言ったように、確かに彼らはここに来て、事件の有様を確認することは出来た。しかし、何が原因でこうなってしまったのかまでは、分かっていない。軍の関係者も知りたがっているような、情報だ。
「お前は…知っているのか」
「えぇ、もちろん。貴方たちに教えると、私にとっては不利益になりますので、言いませんが…それにしても。人間という生き物は、自分たちさえ良ければ、平然とこのようなこともやってしまうんですね」
たった一度のこの攻撃で、どれほどの一般人が殺されたことか。ネオスが彼らに重くそう言い放つ。人間の愚行は人間が正すべきであろう。しかし、現在はそれを理解している人がいたとしても、戦争という行為によって愚行そのものを正そうとしている。相手の国力を奪うことに執着し、全く関係の無い市民を巻き込んでいる。
「連邦軍と合流した貴方たちは、もはやギガントとソロモンの連携の要。軍人は政府に、上官に従うのが第一です。貴方たちはこの戦争のために、良いように利用され続けているのですよ」
「それがなんだってんだ!!俺たちぁ争い事を鎮めるために、その種をまいた相手を潰すだけだ!!」
「もしかしたら、それで戦争は終わるかもしれません。ですが、それで人々は平和が訪れたと、思いますかね?」
平和のために戦争をする。安定のために武力を持って武力を削り取る。多くの矛盾と私的な行為が、気付かないところで無罪の人々を巻き込み続けている。ネオスは、彼らもそのうちの一人なのだと、言った。
「軍人は、上の命令には従う。奴隷のような扱いをされ、その見返りさえ来ない。自分たちに戦場へ行けと命令する政府の者たちは、安全なところで戦争による結果を賛美する。…なんとも、皮肉なものですな。一人ひとりが命を懸けて国のために戦っているというのに、政治家たちは軍人の代えならいくらでもいる、そう思っているんですよ?例外なく、貴方たちもね」
…この世は、腐りきっている。不毛な時代に、能無しの政治家。
権力と私情の横行。
傭兵は決して恵まれず、ただ敵を殺すために働く道具となる。
…それのどこに、平和が訪れると言うのか。一体、誰が正義で、誰が悪なのか。
誰のための、戦争なのか。
「では私はこの辺で。魔道の力は、徐々に貴方たちの力さえも、浸食していきますよ…?」
ネオスは不気味な笑みを浮かべながらそう言った後、登場した時と同じような光を放って、その場から消えた。突然現れ、そして突然消えて行った、不可解な行動。ネオスの持つ杖を取り返さなくてはならない、彼らの本来の目的があったが、その話の後では、武器を抜くことさえ出来なかった。自分たちは、平和のために戦争をしている。平和で安定した生活を崩す相手を潰すために、戦いを続けている。
しかし、それは一方で、潰された方の一般市民が犠牲となり、その犠牲のうえに新たな平和が敷かれることになる。それを平和と呼ぶのか。
…ここで、彼らはようやく気付く。平和のための戦争。その形があったとしても、自分たちのやってきたことは、鎮圧や侵攻という名のもとに、平和のために戦争を拡大してきたのだということを。
…。




