3-8 morning memory
古き記憶の再生。
お互いを知り、お互い支え合ってきた、今の彼ら。
新たな情勢下、再び彼らは、行くべきところへ、行かねばならない。
ギガント公国政府は、正式にソロモン連邦共和国との、同盟締結のための準備に入った。エルジア王国軍事拠点が、何らかの攻撃を受け大きな被害を受けた直後のことであった。そして、現在も、どのようにして攻撃を受けたのか、判明してはいなかった。
しかし。調査結果で明らかとなったのは、当時刻、ソロモン連邦は大陸南部への侵攻はしていなかった、ということであった。
大陸の遠くで、何かが起こった。そんな予感を覚えたカリウス。その日はそれ以降、寝ることはせず、夜明けようやく空が明るくなってきた頃、メディの家のリビングへ行った。まだ、誰も起きていないと思ったが、メディは既に、食事の用意をしていた。
「おはよう、カリウスさん、もう傷は大丈夫ですか?」
「はい。おかげさまで」
メディの家で治療が出来たことが、カリウスにとっては救いであった。あのまま傷を負ったままだと、思わぬところで今後に影響する可能性があった。そうなれば、間違いなく今以上に、足止めを食らったことであろう。メディは、朝ごはんの準備中であったが、カリウスに温かな飲み物を出した。熱いお茶であった。
「ソウル大陸にも、美味しい茶の生産地があると聞きます。死ぬ前に一度、行ってみたいですね」
「美味しいです。メディさんにもぜひ、味わっていただきたい」
「…ところで、カリウスさんは何故、このような旅を?」
本当は、旅の者に目的を聞くのは、あまり良くないことなのかもしれない。メディはそう思いつつも、カリウスに質問した。しかし、カリウスたちは、旅をするためにこの大陸へ来た訳ではない。道化師ネオスを追い、奪われた杖を取り返す。それが、彼らの目的であった。その途上、ギガント公国と同盟を結び、軍事的面でも、関わるようになっている。それをカリウスが話すと、メディは内心で驚いた。まだ二十歳ほどであろうこの子供たちが、戦争に関わっている。そのような時代へ突入したのかと思っていた。
「そうでしたか…元々は、城の兵士だったのですね」
「昔の話です。その時にメロディと出会いました」
「彼女、とても礼儀正しく、とても美しい女性ですよね。あのような女性は、中々見ません。若くて、それでもって元気もあって…羨ましいです」
今思えば、メロディと出会ってから、もう既にかなりの年月が過ぎている。まだ二人が小さかった頃から友人でもあり、その頃からずっと一緒にいたことを考えると、自分も歳を取ってきたのだと、カリウスは心の中で苦笑しながら、そう思っていた。
「カリウスさん。きっと貴方は、この戦争で多くの物を得る機会があると思います。この昏迷の時代に生きた、一人の人間として、自分の考えを決して破棄することなく、抱き続けて下さい。私のように、年寄りなおばさんはもう、何もすることは出来ませんが…」
かつて、メディが魔道の善たる道を知る者として活動していたことを、後に彼は知ることになった。若い者が時代を担う、それが混迷の時代に新たな潮流を起こすキッカケになるだろう、とメディは、彼に話した。
それからしばらくして、彼らのもとに、エールバシオン郊外の基地が強襲された、という情報が、ギガント公国のワーレンから、無線連絡で飛んできた。彼らはリビングで、その情報を聞いている。
「その後、道化師はどうなってるんだ?」
「一度戦いましたが、それ以降は行方不明です」
「その道化師も、奇妙なものだな。あの島で一体何をしていたのかは分からないが…。我々公国軍は、政府の命により、ソロモン連邦との同盟を結ぶことになった」
その情報は、彼らにとっても驚きであったが、戦線拡大を続けるエルジアを抑えるには、その方法が手っ取り早いことを、彼らは理解することが出来た。政府が取り決めを行い、軍隊を動かすことが決定され、公国軍もオーク大陸での戦闘に参加することになる。それを聞いた瞬間、カリウスは自分たちが何をやらなくてはならないのか、ハッキリと分かった。
政府の指示により、彼らもまた、動かされる。
「ついては、一度軍に合流してもらいたい。エールバシオン強襲は事実であっても、どの軍が攻撃したかは、まだ分かっていない。直接エールバシオンまで来て、まず連邦軍と合流してほしい。彼らも、ここ数日間は、事実調査で追われるだろう」
「分かりました。少々時間が掛かるかと思いますが、出来るだけ早く、そちらへ向かいます」
「頼む」
「メディさん、私たち…」
メロディが話し始めると、メディは笑顔で頷いた。彼女には、彼らを止める術はない。止める必要もなく、送り出してあげることが、今彼女に出来る唯一のことであった。この先どのような苦難が待っているか、メディには分からない。彼らでさえ、分からない。しかし今、彼らは必要とされている。
「その気持ちに応えることも、力を持つ者の必要なことです。無理はせず、けれど、努力を忘れずに、頑張って下さいね」
「ありがとうございます…!」
傷が癒えた訳ではない。それでも今は、彼らは情勢の変化に、必要とされている。それを無視することは、彼らには出来なかった。一行は、メディばあさんのもとを離れ、エールバシオンで待機している、ソロモン連邦軍と合流するために、移動を始めた。
広い大地、若い者たちの背中が見えなくなるまで、メディは経ち続けていた。
「…そうね。人は、変わっていくもの、だから…」
エールバシオン事件。何者かによってエルジア軍基地が襲撃され、エルジア軍に大打撃を与えた事件。この真相が明らかになるまでには、まだ期間を要するが、この事件により、エルジア情勢が一気に傾き始めたのは、間違いなかった。ギガント公国とソロモン連邦が同盟を結ぶという状況は、対エルジア戦を第一に考えたものであり、エルジア包囲を世間の動きにするための、謀略とも言えた。
…。




