0-3 彼と彼女
ただ平凡な兵士のように振る舞う、いや、そう見える「彼」。
城内で働く元気で美人なメイド、「彼女」。
二人より話は始まっていく。
ここはソウル大陸北部。
この大陸は他の大陸に比べると、比較的気候に恵まれ、豊かな自然が育ち続けている。四季が存在し、比較的人類が生活するに困らない、あるいは悩まされないような生活環境を整えることが出来るだろう。大陸の歴史の中でも、ソウル大陸は人類の祖先が生活していた場所としても知られ、場所によっては古代文明や古代文化がハッキリと見えるようなところもある。
グランバートは、まだ比較的歴史の浅い国家であった。しかしながら、建国当時から人々の間では、いずれこのように大国になると噂されていた。国としての環境よりも、自然的条件よりも、当時王職に就いた者たちが、ソウル大陸でも指折りの指導者たちであったことが、一番の要因であったかもしれない。
…ソウル大陸北部 グランバート城 西庭…
四季で言えば、秋の季節にあたるこの頃。やや弱く心地よい風が吹き、庭の花々が風に打たれ静かに音を立てながら、同時に香りを空間いっぱいに放出している。
西庭。細いアスファルトの上、一人の兵士が防具をつけないまま、剣を帯刀し、ゆっくりとした足取りで歩いている。仕事で城内警備をしているのか、非番なのか、分からないような姿の青年であった。やがて城内へと向かってゆっくりと歩いていたが、声が一つ聞こえてきた。
「おーいカリウスー!」
…カリウス。
彼が、グランバート城の兵士を務める若き青年であった。彼はやや太い声質を持つ男性兵士の声を聞いて、その声の方角を向いた。距離はあったが、声はハッキリと聞こえる。周りに花壇の世話をするメイドがいるが、構わず返答した。
「さっきメロディってメイドがお前を探してたぞ!友人だろ?」
にこっと、やや太い声質を持つ男性兵士がそう言うと、カリウスは少し上を向いて、また兵士に視線を戻した。わずかに1秒の動作であったが、その間には何の用なのだろうか、と一瞬で考え付いていた。
「分かった。行くよ」
「たぶん大広間にいると思うぞ!」
兵士が手を振り、カリウスが片手をあげる。
「ありがとう」
彼はゆっくりとした足取りを戻し、いつもと変わらない速度で大広間へと入っていく。この空間は特別何か目的を持つような空間ではないが、庭園と城内を結ぶ一つの空間というような役割は持っている。下級兵士はよくここで剣術修行をしていることがある。カリウスも兵士ではあるが、下級兵士とは若干立場が違う。
彼の視線に現れた、メイド姿の女性。セミロングヘアで後頭部で一つにまとめあげている。彼が声をかけると、座っての作業を中断し、その場に立ち上がった。背も他の女性よりは少し高い方だろうか。
…メロディ。
グランバート城内で働く、メイドの一人。雑務の他、兵士分隊の食事表や健康管理などにも携わっている、可愛い外見で美しくも見える、女性だ。
「あら、早かったのね」
「呼んでいたそうだけど、何かな?」
そう彼が聞くと、彼女は笑って返答をする。
「ごめんなさい。私が呼んだ訳じゃないの。大臣がカリウスを呼んでたよ」
そう返されると、彼はまるで疑問符を頭の上に書いたかのような表情を浮かべる。メロディにとってはそれさえも笑えるようなものであった。
「なぜ大臣が俺に?」
「分からない。何か悪いことでも―」
「してない」
決して悪意があった訳ではないだろうが、わざとらしくも聞こえる彼女の問いに、割り込んですぐに返事をする彼。彼女は大臣が恐らく玉座の間にいるだろうことを彼に伝える。彼の疑問は晴れないまま、彼は彼女のもとを離れ、玉座の間へと向かう。
カリウスとメロディ。
彼と、彼女。
既に大人びた二人ではあるが、かなり前から二人は仲が良い。
…。