2-9 過去からの暗躍
敵軍兵士は逃亡した。
現場の状況を説明し、敵の正体を探り続ける。
そこに見えてきた、過去の事実と、一つの可能性。
「…これが、戦争…」
彼らと対峙した所属不明の軍隊は、彼らがギルド街で出会った敵と、同じであった。予想通り、敵軍兵士が乗っていたヘリはトラブルに遭遇し、回収を待っていた。そこへ現れたギガント公国軍と激突。激しい戦いの末、お互いに犠牲を出しながら、敵軍に逃亡を許した。目の前で繰り広げられた戦い。カリウスたちは、今までなら、戦争など遠い国の出来事、テレビの中の物語に過ぎなかった。それが、今となっては、ソウル大陸本土への侵攻をきっかけに、彼らも、そして他の大勢の人たちの身近に、戦争が現れるようになった。
戦争は、人が始めたもの。しかし、人の望まぬ行為も、数多く繰り返されている。結局、人の愚行は人が正さなくてはならなく、本来それは政府が主導して行うものであっただろう。
しかし。
好戦主義者の何と多いことだろうか。それが、50年あまりも戦争を続けてきた、皮肉の象徴であっただろう。
「とにかく、貴方たちが無事で良かった」
朝、帰投すると、彼らはすぐにドゴールに呼ばれた。彼は今回の戦闘における活躍を、ワーレンから報告を受けたらしく、どんな戦果よりも、まず無事でいたことに喜びと安心を感じていた。彼ら自身でも、戦況を報告し、自分たちのミスを謝した。ドゴールは詫びる必要などない、と言って、彼らの健闘を評価した。
「せめて敵の正体さえ分かっていりゃなー…」
「今も放置されたヘリを分析していますが、結構型の古い機体であることは、間違いないようです。それだけでは、特定することは難しいですが…」
大きな窓から外を見て話す、ドゴールの数歩隣には、ワーレンもいる。アイクは彼に、今回戦った相手で何か心当たりはないのかと、聞いた。ワーレンにとっても、心当たりがないわけではなかった。
「エルジアでも、ソロモンでも、アスカンタにある王国でもないことは確かだ。そもそも奴らはワッペンを付けていなかった。となれば、国の正規兵でない線で考えていいだろう」
子供である彼らが、歴史を学んでいたとしても、そこまで発想が行き届いたかどうかは、分からなかった。正規兵でなければ、敵は寄せ集められた可能性が高い。しかし、この戦時下、そのような戦力をどう集めるか。敵は対地攻撃用の車両も有していたし、さらに言えば、ギガント公国と同等レベルに近い輸送機を保有している。
そこでワーレンは、あることに気が付いた。
「…6年前、オーク大陸で激しい戦闘があった。グランバートが強大な力を持って、オーク大陸侵攻を続けていた頃。その波に飲まれ、滅亡した国家が一つある」
「…ルウム公国…」
レイがそう呟いた。6年前、レイは子供であったが、彼はその情報をクラインから教えてもらっていたので、その存在をハッキリと覚えている。
アミストラス戦役。オーク大陸南西部から西部にかけて領土を構えていた、ルウム公国と、肥大化を続けるエルジア王国、そして大陸干渉を続けるグランバート王国、三ヶ国での戦闘。激しい戦火の末、ルウム公国は首都アミストラスを失い、政府機能が全滅。事実上滅亡した。グランバートは、大陸侵攻作戦の延期を余儀なくされ、エルジアは、軍事再編成計画を実行するに至った、ここ数年間の戦闘でも、最も激しい戦闘であったと言われている、戦役。
「つい最近滅亡した国は、そのルウムという国だ。少し可能性として考えられそうだが…」
それを聞いた時、カリウスは誰よりも先に、ギルド街襲撃事件の時を思い出した。核弾頭を手にして逃亡する際、彼らに向けて言い放った、あの少佐の一言。
―ここにあった物は頂く!我々国家の再興のためにな!!
「…それだ」
彼ら全員に、鳥肌が発生する。核弾頭を奪ったのがルウム公国の残党軍だとすれば、その言葉の意味が理解できる。辻褄が合う。そんな気が彼らにはしてきた。
ここに来て、再び情勢に新たな変化が生まれようとしている。そして彼らは、その変化の渦中にいることを、自覚せざるを得なかった。本来の目的から発展した、自分たちの立場。ギガント公国の政府にこの話が流れれば、当然軍事目的での話し合いが行われることであろう。その結果次第では、ギガント公国が動き出すことになる。今回の一件と、グランバート衰退の状況を考えて。
ルウム公国。
過去の事実から躍進をする可能性の一手が、今、世界へと放たれる。
…。




