2-8 濃霧の中の激闘
敵との接触を果たした彼ら。
激しい攻撃を潜り抜けながら、ついに間近で対峙する。
静寂の空間に、戦火は起こる。
荒野の中で所属不明のシグナルを確認し、現場へ急行するギガント公国軍の部隊と、彼ら。霧が濃いため、陸上で車両を使って移動をするしかなかった。まだ夜が明けるまでには、一時間以上あり、現場近くで車両を降りてからも、静かな荒野の中を捜索し続けた。
カリウスたちが見覚えのあるヘリを発見した直後、事は起きた。突然下方向からの砲撃を受け、足場が崩される。重力に逆らえず急激に落下する感触を味わいながら、迫ってくる地面を嫌でも見ることになった、彼ら。十数メートルほど転落しただろうか、もはや正確な数字など気にしている場合ではなかった。濃霧の中から発砲され、転落したとはいっても、立ち止まっている余裕はない。彼らは剣や斧を使い、壁を使って何とか落下速度を遅めた。それだけでも、手には相当な衝撃が加わり、痛みを感じる。しかし、本当の困難はこれからであった。
「出来るだけ爆発物は避けろ!…カリウス、お前たちは裏へまわれ!」
「し、しかし…!」
「この状況では、近接戦闘が圧倒的に有利だ。早くしろ!」
核を守る側の敵は、ミスさえしなければ、砲撃を加えても大した問題ではない。しかし、核を奪取しなくてはならない公国軍は、同じようにして砲撃を加えると、誘爆を発生させる危険性があった。ギガント公国本土でそのようなことがあってはならない。元々、軍事目的で利用される核弾頭は、多少の衝撃や爆発には耐えうるほどの装甲を、表面にまとっていても不思議ではない。しかし、注意するに越したことは無かった。
公国軍は、はじめの砲撃で自走砲数台を破壊され、20名ほどが行動不能状態に陥った。ワーレンは、足場が崩落したことによって生まれた壁で、身を守りながら攻める機会を伺う。濃霧が視界を遮り、敵の位置を正確に視認することが出来ない。そのせいか、銃撃戦は中々発生せず、敵が砲撃を繰り返しても、命中しないことが多かった。
「よし…この辺だ。いいか、レイ、アイク」
彼らは、周囲の地形など把握していない。しかし、静寂であった広大な荒野に響く音を頼りに、彼らは敵の後ろを取ることに成功した。敵の数さえ把握出来ないこの現状で、この行動が戦況をどのように左右するか。今は考えてもどうしようもないことであっただろう。
「…いくぞ!!」
彼らは、濃霧の中から一気に突入していく。
「連絡はまだか」
「電波が悪いせいか、よく聞こえませんが、既に回収部隊は近くまで―」
「…!?」
突然背後から接近するものを確認した“その男”は、瞬時に後ろを振り返り、戦闘ナイフを抜き出した。一瞬光り輝いた物体は、次の瞬間には激しい音と共に、一方の剣とぶつかり合っていた。目の前には、鋭い視線で剣を両手で持つ、青年。激しくぶつかった凶器同士、音を継続的に鳴らしながら、力で押しあっている。
「この間の奴らか…!!」
「少佐!!…ぐっ!」
突然少人数で背後を突かれたことに、国籍不明の敵兵士たちは動揺した。その隙をついて、今度は公国軍が前進してくる。お互い決して多くはない人員をすべて戦闘に割き、近接戦闘が始まった。兵士に、少佐と呼ばれるその男は、戦場を移動しながら、カリウスと戦闘を続けた。カリウスも、少佐の動きを見つつ、防御しながら、攻撃を繰り返している。
「大公の犬かっ…!」
「そんなんじゃない!!」
カリウスの腕が良いことを、その少佐も認めざるを得なかった。自分の攻撃を素早くかわし、狙い澄まされた一撃を、直撃コースに狙ってくる。ただ剣技が優秀なだけでなく、戦闘の状況を瞬時に理解する力を持っている。少佐にとっては好敵手であったかもしれないが、この際は邪魔者でしかなかった。敵は移動しながら近接戦闘を続ける。
やがて、空が明るくなり始めてきた。濃霧の中に光が入り込み、幻想的な光景を作り出す。そこに入り込む、戦火。そして戦闘。荒野の中でも広い空間に出た彼ら。
「…大丈夫かな、みんな…」
「…大丈夫、きっと…」
先ほどの足場崩落に巻き込まれた無かった、メロディとフィルは、同じ高台のような場所から、戦闘の様子を眺めていた。既に距離は離れているが、音がよく聞こえてくる。時々聞こえてくる、爆音のような音に、彼女たちは不安を覚えた。
しかし。やがて爆音とは全く別の、轟音のようなものが聞こえてくる。
「何の音だ…あっ!!」
突然迫ってくる音に気を取られ、目の前にいる少佐に強烈な蹴りを顔面に受ける。一瞬意識が遠のき、その場でよろめく。命の危険を感じたが、少佐はそこでカリウスに攻撃をせず、怯んだ隙に一気に間合いを開けた。
その時。空に現れた物が、爆音とは別の、音の正体だと、彼らは気付いた。
「輸送機だと…!?」
ワーレンはすぐに迎撃の指示を出そうとする。が、しかし、輸送機からの攻撃が始まり、まるで爆撃のような攻撃のおかげで、指示を伝達することが出来ない。機銃と砲弾による一方的な攻撃は、ギガント公国軍の部隊の損害を拡大させた。彼らも、爆風に巻き込まれ、危うく銃弾を受けるとこであった。が、カリウスただ一人が、飛んでくる銃弾を綺麗に避け、弾き飛ばす。しかし、態勢を立て直した頃には、既に遅かった。生き残った所属不明の敵兵士は、大きな輸送機に乗り込み、また激しい轟音と共に空へあがっていく。ようやく明るくなってきた空の中に、一つ、黒い物体が遠く離れていくのを、彼らはハッキリと見た。
カリウスは、剣を地面に差し、飛んでいく輸送機の方を見た。
「…これが、戦争…」
…。




