2-7 静寂な荒野
所属不明のシグナルを感知する。
何らかのトラブルが発生した敵軍のものと判断し、出撃を命じる。
濃霧の中、奇妙なほど静かな空間を、彼らも進んでいく。
メロディの不安感は、消えることは無かった。誰もが不安に耐えながら、この状況を乗り越え、本来の目的へ近づこうとしている。その中で、自分だけが弱気でいてはならない。メロディには、そういった考えが強かった。そばにいたカリウスも、メロディが不安を感じていることは分かっていたし、自分が何を言っても、その不安を消すことは出来ないだろうと、理解していた。
それだけに、これから自分たちのしようとしていることが、国家にとって、あるいはこの世界にとって重要な意味を成してくる、ということにも繋がる。核は、その大きさを知る、人間の作り出した凶悪な兵器なのだから。
「…すまない、少し遅れた」
ギガント公国軍施設内部にある、情報室。部屋全体が真っ暗で、様々な機械が出す光のみが点在している空間。狭い部屋の中で、幾人かが作業をし続けている。そこへ走って入ってきた、ワーレンの姿があった。
「確認されたのは、今から15分前です。大陸南部の荒野地帯で、着陸する輸送ヘリのようなものを感知しました」
「トラぶったか?ずっと空を飛んでいれば、ステルスで引っ掛からなかったものを」
「その可能性は十分にあります。正確な場所は特定できませんが、ここから50キロメートル範囲内でのことです」
まだ夜も明けない日のこと。部屋で寝ようとしていたワーレンのもとに、突如内線で呼び出しがかかってきた。情報室からのものとみて、彼はすぐに情報室へやってきた。情報員が話す通り、ステルス効果が一瞬切れた所属不明の機体を感知した、というものであった。この夜遅くにギガント公国は演習などは行っていないため、間違いなく敵か、あるいはギルド街襲撃事件の連中だと、ワーレンは判断した。
「確かめる必要がある。夜明けまで、あとどのくらいだ」
「およそ、2時間です」
「2時間か…航空戦力は使えんな」
それには、理由がある。ギガント公国首都から南部へ入ると、すぐに人の住まない荒野地帯が広がる。そこには岩山なども多数存在しており、輸送機などが下りられるようなスペースを確保するのに、時間が掛かること。そして、この時間から昼間に入るまでの時間、荒野地帯は濃い霧に覆われることが挙げられた。視界不良は、パイロットにとっては非常に危険な状態である。それを無理してまで出撃させることは、ワーレンには出来なかった。
「自走砲と陸戦部隊を送り込もう。それから、あの子供たちにも連絡してくれ」
真夜中のことではあったが、彼らにも召集がかかり、起きてすぐに準備を整え、指定された場所まで移動した。流石に眠そうな人もいたが、今は非常事態故に、そのようなことを気にしている場合ではなかった。ワーレンは状況説明を、乗り込んだ車内で行った。無線を使うと敵に傍受される危険性があるため、あらかじめ使用する車のナビに、司令を転送しておいた。わずか10分でのことである。
「敵は、恐らくギルド街襲撃事件の奴らだ。話は聞いているが、武装も抜かりない。トラブルがあったとしても、何か警戒をしているはずだ。いいな?」
「…はい…!」
カリウスは真っ直ぐな瞳で返事をする。隣にいるレイとアイクは、それぞれ頷いて了解した。ワーレンは、彼ら全員に拳銃を手渡した。メロディとフィルは戦闘に参加することはないが、戦場となりうる場所の近くまで行くため、所持を指示された。本来であれば、非戦闘員は行動しないのが当然のところだが、彼らという一つの団体で行動させるべきであることを、ワーレンは大公ドゴールと話していた。
荒野地帯に入って行くと、足場が悪く車内がとても揺れた。徐々に現場近くに近づくと、カリウスは心の中で何か強い気配のようなものを感じ始めていた。車両は、最後に感知した周囲に到達する。霧が濃く、周りをよく見渡すことが出来ない。砲台を積んだ車両はいつでも使用できるよう、準備を整える。他の人たちは車両から降りて、周りを捜索し始めた。相手は核爆弾を所持しているため、迂闊に手を出すことが出来ない。部隊の人たちは、慎重に、隠密行動しているかのように、動いた。
「必ず、取り返す…」
高低差の激しい荒野地帯を歩き続ける。すると、行き止まりとなった小規模の崖から見下ろした時、一機のヘリが静かに止まっているのをハッキリと確認できた。
「あれだぜカリウス…!間違いねぇ!」
「あぁ、あの時の…!」
陸戦部隊と彼らが別のルートでヘリまで近づこうとした時、突然目の前が一瞬白く光った。カリウスは、一瞬にして嫌な予感を感じ取る。そしてその瞬間に、大きな爆発が発生する。地面が激しく揺れ、足場が崩れていく。
「なんだ!?」
「敵の砲撃だ!!」
公国軍と彼らは、まるで待ち伏せをされていたかのような奇襲を受け、混乱状態に陥る。これもすべて、ギルド街を襲った部隊のトラブルから発展した作戦の、一つだった。
…。




