2-6 不安感
自分たちがしようとしていることへの、自覚。
先を見通せない、何が起こるかも分からない、道。
彼女、そして彼らに、不安感は現る。
ギガント公国から、今回のギルド街襲撃事件について、協力してほしい要請を彼らは受けた。彼らはこの事件の当事者であり、その他にも、あの危機的状況を切り抜けた、勇敢な者たちとして認められていた。当事者には、当事者なりの責任があることを、カリウスも、また他の人も、当然理解している。だからこそ、彼らはじっくりと話をする機会が欲しかった。
即答を避け、その日の夜。用意された宿の一部屋に彼らは集まり、話し合いを始めた。道化師ネオスを追うこの日常に、徐々に変化が出始めている。それは、この行程を続ける彼ら全員が気付き、理解していることであった。ここでの判断は、後にどのような結果を生むことになるか。当然今の彼らには分からない話であった。
しかし、カリウスは言う。ここが何かの境目であるかもしれない、と。
「一方通行の協力関係は、恐らく求められないだろう」
「だろうね。俺たちがネオスの情報を求め、捜索してもらうなら、こちらも向こうに何かしらのことはしないといけない」
「けど…私たちの関わっていることって…」
カリウスとレイが率先して発言する中、漠然とした不安感を表した声で、メロディは皆に言った。
「…戦争、なんだよね?」
この一件が、戦争とどう関係しているかは、まだ分からない。単なるテロ事件に過ぎないのか、それとも戦争に発展する重大事件なのか。事が起きてしまった後でも、判断しづらい点はある。しかし、ギガント公国やエルジア王国との接点を持ってしまった今、自分たちの目的に側面に、その二文字が付きまとい始めていることは、確かだと言える。
「…いずれは、そう言うことになる」
カリウスは言う。真剣に真正面を向きながら、頭の中ではこれから先のことを考えて話していた。言葉の重みが積み重なって、不安と絶望を背負ったように、メロディには感じられた。それでも、クラインも頼りにしていた公国との同盟関係を見逃す訳にはいかない。こちらも公国を利用して道化師ネオスに辿り着かなくてはならない。その考えが、彼らの中には強まった。
「…やってみよう。まずは襲撃現場にいた当事者として、この一件を片付ける。片付けられれば、だが…」
彼らの意見はまとまる。ギガント公国と同盟関係を結び、ギルド街襲撃事件に関する全面協力を約束するものとした。その分、道化師ネオスの捜索に協力をもらう、という条件を提示することに決まった。カリウスは考えていた。公国と同盟関係を結べば、恐らく自分たちは一時的に軍の管理下に置かれるだろう。
軍を動かすのは、国。国は民衆と、そして政治家とで、成り立つ。その下で、いつも軍人が動かされる。
日が改まり、夜中。大きな都市であっても、夜はとても静かなもので、虫の鳴き声が聞こえるほどであった。やや冷え込んだ外の空気を吸いながら、カリウスは一人で考え事をしていた。夜空に浮かぶ、数えきれないほどの星を眺めながら。
…昔は、あの星に手が届くと、思い込んでいた。光を掴むようにして、いつかあの星を知ることが出来ると、思っていた。
「ん?」
その時。後ろから物音がしたので、カリウスはゆっくりと振り返った。そこには、寝間着姿だが眠れないという、メロディの姿があった。少し寒そうに見えたので、カリウスは自分が身に着けているローブをメロディに着せた。
「私たちの判断が正しいかどうか、私にも分からない。でも…私は、大丈夫だと、信じてる」
ベランダに両肘を乗せながら、カリウスに向かって話すメロディは、先刻会議をした時と同様、不安そうな表情を見せた。皆で話し合っていた時、メロディは出来るだけ表面に出さずにいたが、話の最後の方は表情が崩れていた。
「歴史を刻むのに、正しさは必要ない。特に当事者であれば…確か、デラーズ王がこんなことを、言っていたよ。メロディ、今俺たちは、俺たちに出来る範囲のことを、していけば良い。焦ることはない」
「…そう、だよね。うん…」
それでも、彼女の心の中を支配する不安感は、癒すことさえ出来なかった。
…。




