2-5 技術進歩
高い技術力の維持は、国力を支えるものの一つ。
しかし、この時代の国力とは、軍事力の強さを示す。
彼らの知らぬ間に、技術は戦争に振り回されていた。
「お疲れ様です、閣下」
状況報告のために帰還したワーレンは、ドゴール大公のもとを訪れ、ギルド街襲撃事件についての詳細を報告した。本来核弾頭の話は外部に知られないよう、厳重に情報が管理されていたので、グランバート内部から何らかの情報を得た可能性があることを、彼は大公に告げた。また、それを裏付けるかのように、過去ギルド街の軍事資料は何度かセキュリティコードが変更された形跡がある。これらの情報を、ワーレンはすべて評議会講堂の情報管理室から得た。グランバートの管理体制が厳しいものであれば、たとえ友好国であっても調べるのには困難であっただろう。この際は、グランバート体制が崩壊しつつある状況を上手く利用できたことに、喜ぶべきであった。
「改めて、グランバート王国の先進技術の高さに、驚かされました。あの核弾頭は試作型のようですが、他にも幾つか作られているかと思われます」
「強大過ぎる力のあまり、敵を作りすぎてしまった。軍事を増強することによって、国力を肥大することと同じように、この時代の戦争という側面を育ててしまったことにもなる。今更ながら、この数十年は愚かな行為だった」
「本来の戦う意味を見失った末路が、この昏迷の時代ですね」
その後、ワーレンは同じく報告書を提出し、目を通すよう大公にお願いした。彼はカリウスたちが今何をしているのかも、大公に聞いた。大公はギガント公国軍の技術部を見学させている、と言った。その目で公国の技術開発を見ることは、彼らの心に何かしらの影響を与えることが出来るだろう、とドゴールは考えていた。
「彼らは、事の重大さを正確に捉えている。だが、道化師を追う行程が、まさか戦争に繋がっていたとは、信じたくもないのだろう…」
「ギルド街を襲った部隊とは別の、奇妙な集団、に関しては、現在も調査が進められています。もうじき、居場所まで特定できそうです」
一方、カリウスたちは、ドゴールがワーレンに伝えたように、軍の兵士によって軍事技術部の見学をしていた。彼らが輸送機で街を眺めた時、この基地の周りに見えた工場はほぼすべて、軍事利用されているものだと説明された。今は、その中でも一番規模の大きい工場の中に入っていた。
「あのデカ物は…っ!?」
「…船、か?」
まだ外壁が完成していない、まるで内部が剥き出しになっている大きな物体は、彼らの目には船に見えた。この工場を造船所かと一瞬思ったが、兵士は否定した。
「確かに、あれは船です。ですがまだ、3分の1程度しか全体像が完成していません。本来なら、あれがすべて完成し、推進装置を取り付けて空を飛ばすのが目的です。ですが今は、あれほどの巨体を飛ばすのに維持する推進装置を開発するのが遅れていまして…」
苦笑いしながら、兵士はそう説明した。戦闘機など、比較的小さな物に対しては、既に小型用推進装置が搭載出来ている。彼らが使った輸送機もその一種で、今はあの程度の大きさの飛行機を作るのが限界だと、説明された。
「恐らくあれほど大きな船を作る技術があるのは、我々とグランバートだけだと思われています。もっとも、その技術が認められたとしても、今の私たちにはまだ完成させられないのが、現状です」
「けどよ、あんな大きな船飛ばしたって、敵からすりゃ獲物同然じゃねぇのか?」
アイクがそう聞くと、兵士は否定しなかった。しかし、標的になるための対策は既に考えられ、それを実装することが可能であることも、兵士は彼らに伝える。軍事利用される車両、特に空を飛ぶものに関しては、シールドと呼ばれる、一時的に光学的攻撃を防いでくれる防御壁が搭載されている場合がある。今となっては、ほとんどの国でシールドを作ることが可能だと、兵士は言った。
「ただし、ミサイルや砲弾といった、実弾による攻撃には、ほぼ意味がないんですけどね」
「物理エネルギー攻撃か…俺たちが知らない間に、そんなに戦争技術は進歩していたんだな」
レイは深く考え込みながら、目の前で作られている大型船を見た。陸上戦闘では、未だに剣などの近接戦闘が主体である。だがもしこの先、航空戦闘が主体の時代になれば、剣で戦う者は減るかもしれない。時代が変わるごとに、戦闘のスタイルも変化していく。それがむしろ当たり前なのだろうか、とレイは考えた。
その日の夜まで、彼らは見学を続けた。そして、軍の上層部が手配してくれた宿に案内された後、彼らは今後について話し合う。
…。




