2-1 古びた街を訪ねて
戦争は決して地震や津波のような天変地異ではない。
何の音沙汰もなく突然やってくるものではない。
戦争は、戦争を養う。
秋が深まるこの時期。四季の存在するソウル大陸では、至る所で紅葉が始まり、彩り豊富な自然を表現してくれていた。季節の歩みと同時に、暖かさは冬に向けた準備を始めていた。毎日の朝晩は冷え込み、風こそ弱いものの、温かい格好をする必要のある時期になってきた。
自然豊かなソウル大陸にも、ここ一週間で新たな状況が生み出されていた。
「貴様ら…エルジアの兵士だな!?」
「構わん!殺せ!」
ラズール聖堂院での事件。院長スレンダーが道化師ネオスに暗殺され、再び彼らは道化師ネオスを追う旅路に出る。時を同じくして、大国エルジアはソウル大陸中部への上陸作戦を開始した。世間では様々な憶測が流れていたが、恐らくは二正面作戦を実行したのだろうと考えられていた。大国グランバート軍の動きが奇妙に鈍いこと、もう一つはオーク大陸で同じく肥大化を続ける脅威、ソロモン連邦共和国との戦いであった。大国エルジアはソウル大陸の南部にあるギガント公国もその射程に捉える気でいることも、十分に考えられていた。しかし、人々の目には、明らかにエルジア軍が戦線を拡大させすぎていることがハッキリと見えていた。
エルジア国内でどのような政治下、戦争が行われているのか。当事者にしか分からないことではあるが、他の国の人たちでも想像は出来ていた。
上陸作戦が開始されてから、一週間後。彼らは突然エルジア軍の分隊に遭遇した。恐らく本隊とは別の目的で行動していたのだろう。後に彼らはエルジアの偵察分隊だと決定づけた。
「皆大丈夫かな…人殺しになっちゃうけど…」
「見ない方が良い。でも、一方的に攻撃を受けそうになって黙っているような人たちじゃないよ、あの三人は。大丈夫、自分の身は自分の戦いで守ることを、知ってる人たちだからっ」
彼らの二倍の数敵兵士はいたが、男性三人は傷一つ負うことなく、その場で全員斬殺した。カリウス以外は軍人ではないが、軍人以上の力量を持っているということの証明にもなるだろう。敵の分隊長以外は拳銃を持っていなかったが、この先の戦闘ではそうもいかなくなるだろう。カリウスは分隊長が撃った拳銃の弾丸をすべて弾き返したが、アイクやレイにはとても出来ないことであった。
「こんな力のある人がグランバート城の兵士とはね、ホント恐れ入るよ」
そういうと、レイは息をしない分隊長のそばにいき、持っていた拳銃と予備の弾薬を入手し、懐の中にしまった。いざと言う時に役に立つだろうとレイは考えていた。
「軍人に抜擢されなかった?」
「城の兵士と軍人は別物だからね、それは無かった。とはいっても、どちらも国の言いなりで動く機械のようなものだけどね」
カリウスはそういうと、先に歩き始めた。レイの心の奥底で一瞬、何かが動いたような気がしたが、本人でさえ気のせいだと一瞬で感覚を止めるほど、その時はまだ弱いものであった。
歩いていると、アイクが地図を見ながら提案をした。
「もしよかったらだが、この先にあるギルドって街に寄っていかねぇか?実はここ、俺の生まれ故郷でな。しばらく来てはいなかったが…」
「知ってるよギルド!娯楽と活気の町で有名だよね」
ギルド。中々古臭い街だというが、規模は大きく、カジノが幾つかあり活気のある街である。たまに有名人が来る場所としても知られていて、上質で安い宿屋は特に評判がいい。現在グランバート王国軍の管轄下に置かれている街でもある。
アイクの提案により、彼らはギルドの街へ向かうことにした。地図で確認してもほぼ通り道から外れることなく、更にここから近い場所にあったため、迷うことはしなかった。長旅の疲れを少しでも癒そうと考え、そして数時間後には街に到着する。この周囲には古い街や建物が多く存在しているといい、人類の歴史に深く関係のある場所として、近年注目されている。アラドの街も、ギルドからはそう遠くはない。
宿屋に五人で部屋を取ると、本当に上質でしかも安く、流石に驚くものがあった。夜になり宿屋の夕食を取ると、彼らは部屋に戻って明日以降の行程の打ち合わせをした。ギガント公国まではまだまだ遠い。
話し合いも終わり、既に夜中。もうすぐ半月になる月明かりの下、ベランダでカリウスはただ一人、空を眺めていた。月があるのにもかかわらず、星空は綺麗に光り輝いていた。そこへ、後ろからフィルがやってきた。他の人たちは既に寝ている。カリウスが眠れないように、フィルも中々眠りにつくことが出来なかったようだ。
「疲れてない?」
「大丈夫。戦ってる三人よりは、楽だと思うから。…カリウスは、強いね。あんなに危険な目に遭っても、逃げずに戦った」
「逃げたってどうしようも無いからな。この生き方をすると決めた以上はね。俺は強くはない…むしろ弱い方だ。心身ともに強くなりたいと思っている。だがそれにはまだ、時間が必要だ。今よりも…」
カリウスの言葉を聞いて、フィルは自分の昔を思い出した。自分の親代わりとして育ててくれたあの人も、昔カリウスと同じように強くなりたいと、自分に言っていなかっただろうか。あの人はよく、自分に今の戦争のことについて話していたはずだ、と。
「…無理、しなくて良いからね?」
「大丈夫さ」
カリウスがベランダから部屋の中へ戻ろうとした、その時だった。突然心の内に強烈な感覚を覚えた。まるで危機感が自分たちに迫ってくるような。カリウスは足が止まり、瞬きも止まり、そして後ろを振り返った。様子がおかしいカリウスにフィルも気付く。
禍々しい気、とは別だった。
…次の瞬間。
…。




