1-11 道化師
禍々しい気と共に、道化師は動き出す。
自分の目的を果たすため、そのための邪魔者を排除するため。
月明かりの夜、満月の空の下で。
道化師との激闘の末、隙を見抜かれ転倒させられたレイに、目標は定まる。レイに攻撃が撃ち放たれようとした瞬間。彼の視界と、そしてその部屋中にまばゆい光が広がった。暗い空間の中で輝く光に目をやられ、しばらく周りが見えなくなってしまう。
やがて光が消え、視界が回復していく。その場にいた全員何が起こったのかよく分からない状況の中、たった一人。その道化師はその場にずっと立っていた。横たわる院長を見ながら。
「院長…!?」
「ハハハッ…院長、貴方の命は無駄にはしない。これで障害はほぼ消えた」
「貴様…!!」
目の前で倒れて意識を失っている院長を見て、レイは再び立ち上がった。再び剣を取って彼が道化師に攻撃を仕掛けようとするが、道化師もそれを見て体を宙に浮かせ、大きな窓の方へ移動する。間合いを詰めることが出来ない。
「お前はいったい何者なんだ!?」
「…私の名は、ネオス。いずれすべて気付いた頃には…もう、手遅れになっていることでしょう…」
レイの怒りの問いに不気味な笑みを浮かべて答えた、道化師ネオス。背後にある大きな窓ガラスを割り、空中浮遊したまま、建物から離れていく。風も無い冷気が急に室内を覆い始めた。満月の夜、雲一つ見えない快晴の夜に、ネオスはその姿を闇と同化していく。
レイは倒れたまま動かないスレンダーのもとへ行く。魔道による攻撃を防いだ場面を見て想像するに、ネオスは杖で直接スレンダー院長を攻撃したのだろう。胸部に近い部分に貫通が見られるのは、恐らくそのためであった。
「院長…しっかりして下さい!!」
「…もう、遅い」
間違いなく胸部に近いところの貫通が、致命傷となっている。元々ご老体であるため、これほどの傷を負えば相当な負担がかかることだろう。レイは救護班を呼ぶために立ち上がろうとしたが、それをスレンダーが静止した。静かに、でも冷静に言うスレンダーの言葉に、レイの感情の中に波打つものが表面に出てきそうになった。
「…クラインに、伝えてくれ。聖堂院を頼む、と。それから…」
そう言うと、スレンダーは傷を負いながらも立ち上がっている、カリウスたちの方を見た。メロディとフィルは建物の入り口の方で、口を押えながら涙を流している。アイクは拳を握りしめ、悔やみ憎しむ表情を浮かべる。
カリウスは、冷静にその場に立ち尽くしていた。その目が語るものを、スレンダーは感じ取っていた。
「…選ばれし者、乱れた世に、善とバランスを…」
…。
スレンダーは、自分の意識を手放すその瞬間まで、カリウスの目を見続けていた。カリウスにも、スレンダーが心の内なる部分で何を伝えようとしていたのか、分かった気がした。たった数日、そばで教わっただけで変化した、自分の中の流れ。自分の中にあると分かってしまった、内なるものの力。スレンダーの目に、旅人達の希望が見えると信じて。
月明かりの夜、満月の空の下。
スレンダーは目を閉じる。彼がこの世で最期に行った、動作であった。
…。




