30分(3:1)ブルートゼーユングフラオ【血人魚】(2:2でも可)
■ブルートゼーユングフラオ【血人魚】
作:七菜 かずは
CAST(男3女1 or 男2女2)
・人魚姫ミティンベリイ(ミティ)♀
(心優しく、美しい人魚の娘。赤毛のロングウエーブヘア。ウロコは青)
・プルバウラング(プルー)♂
(人魚姫の大親友。人魚。青年。150キロ近いすごいデブ。白米が好き。大きな耐水性のリュックを背負っていて、中にはお菓子やら色々入っている。ウロコは黄色)
・ワーグナー♂
(赤黒い巨大な飛竜。他者を嫌っている。特に人間に恨みがあるらしい。年齢不詳)
・ブロッチ♂or♀
(ワーグナーに仕えている愛らしい姿の小熊。ワーグナーの為なら何でもする。緑のベストを着ていて、見た目は可愛い。声はオッサンでもロリでもなんでも可)
CAST【配役用】(男3女1 or 男2女2)
・ミティ♀ :
・プルー♂ :
・ワーグナー♂ :
・ブロッチ♂or♀ :
真夜中。とある小さな王国の人魚岬。
美しい人魚姫のミティが、海に浮かびながら歌っている。
相棒のプルーが、うっとりした表情で彼女を見詰めている。
ミティ(歌っている)「……」
ミティの歌がフェードアウトしていく。
プルー(拍手して)「よっ! 今日も素敵だねミティ! ザ、歌姫! 魚の中の魚だよッ!! なんだか、切なくなるんだよねぇ」
ミティ「ありがと、プルー。あ……。んー……。ふふっ。あー……」(困ったように笑って)
プルー「どうしたの?」
ミティ「プルー、また少し太ったんじゃない? ちょっと前までは私とほとんど体重変わらなかったのに」
プルー(自分のお腹を撫でて)「あ~。そうなんだよねえ。別人みたい?」
ミティ「病気になったら困るわ」
プルー「ついつい夜中に白米にチョコかけて食べちゃうんだよねえ。深夜アニメのお供にさあ。人間の間で流行ってるんだよ!」
ミティ「プルーのお兄様たちは、海草しか食べないじゃない」
プルー「信じられないよね」(バカにして)
ミティ「うーん……。人間の行商人が、ここの浜で商売をしているの、やめさせたほうがいいんじゃないかしら」
プルー「それは困るよお! 明日は読みたい週刊誌を持ってきてくれる話になってたし! それにね、」
ミティ(話を遮って)「プルー。人間と関わるのは良くないってお父様が言ってたじゃない! 演説、ちゃんと聴いていなかったの!?」
プルー「はいはい。うるさいなあ」
ミティ「もう。寝不足になってウロコが透明になって仕舞いには泡になって消えても。知らないわよ!」
プルー「んなおとぎ話みたいなこと言ってぇ。大丈夫だよ!」
ミティ「心配だから言ってるの!」
プルー「あはは……。ごめん。まあ、急にはやめられないけどさ。ほら、ボク美食家だから!?」
ミティ(溜め息)「……」
プルー「でも、年上のミティよりも先に逝っちゃうのはごめんだからね。少しずつ量を減らしてみるよ」
ミティ「うん。約束ね」
少し離れた場所から、ワーグナーのうめき声が聞こえる。
ワーグナー「ぐうう……っ……」
ミティ「?」
ブロッチ「ワーグナー様、お気を確かにっ! しっかりして下さいっ!」
プルー「? なんだろう?」
ミティ「待って。人間かも知れないわ!」
プルー「でも仲間だったらどうするんだよ!」
ミティ「っ……」
プルー「困ってる人をほっとくなんて、君らしくないんじゃない?」
ミティ「……そうね。行きましょう!」
プルー「うん!」
泳ぎ出す二人。
ワーグナー「追っ手が、来る……。ブロ。お前は先に、逃げろ……」
ブロッチ「そんなことは出来ません! くそうっ。誰かっ! ああっもうっ!
どうしよう、どうしようっ! ワーグナー様! お役に立てないオイラを、ぶって下さいっ! ぶって、ぶってええええ!」
ワーグナー(唸る)「耳元で……騒ぐな……」
ミティとプルー、ワーグナーが倒れている浜まで泳いで来て。
ミティ「っ!?」
血だらけで倒れているワーグナーを見て驚くミティ。
プルー「っ待ってミティ! あれドラゴンだよ! 人間が退治してくれたんだ! やったね!」
ミティ「ッ……かわいそう……。あんな怪我、ほっておいたら死んでしまうわ」
プルー「いや、ほっといて平気だって。死んでいいんだよっ! ドラゴンなんて、火を吐いて海を枯らしたりするって言うじゃないか! 関わっちゃだめだあっ!」
ミティ(ワーグナーとブロッチに近付いて)「ちょっと、ねえ!」
ブロッチ「!?」
プルー「ミティ!!」
ミティ「こぐまさん」
ブロッチ「人魚、姫!?」
ミティ「その方を助けます」
プルー「ミティだめだ! 戻っておいで!」
ブロッチ「っ!! ありがとう……っ!」
ワーグナー「余計なことを、するな……」
ミティ「黙ってください。傷口が開きます。こぐまさん、私はバレンダイン海域・地底海王国第9の姫ミティンベリイ」
ブロッチ「オイラはブロッチ! この飛竜様は、オイラの親分ワーグナー様!」
プルー「ミティってば!」
ミティ「ワーグナー……。こぐまさん、彼を海の中まで押し入れられますか?」
ブロッチ「まかせて! オイラ、力だけは強いんだ! ワーグナー様、押しますよっ! んっんっん~~~~!!」
ミティ(ワーグナーの尻尾を引っ張る)「ん~~~~~~!!」
ワーグナー「や、めろ……! 余計な手助けは無用だ……!」
ミティ「プルーお願い! 手伝って!」
プルー「ええええ!? やだよお! 食べられちゃうよ!?」
ミティ「お願いっ!」
ブロッチ「ワーグナー様、今助けますからあああ! ぐああああ!」
ワーグナー「っ……」
ミティ「くっ……! ん……!」
プルー「っ……」
ミティ&ブロッチ「ん~~!!」
ブロッチは粘り強くワーグナーを押し続ける。
ミティはワーグナーを引っ張り続ける。
プルー(少し嫌々ながらも)「ああもうしょうがないなあ! ミティ! そっち側にまわってっ!」
ミティ「あっ! うんっ!」
プルー「いくよ! いっせーのー」
ミティ&プルー&ブロッチ「せっ!!!!」
四人、海の中に入っていく。
ブロッチ「やったっ! あああがばばばばばばばば……オイラ……泳げない……」
ミティ「こぐまさん、捕まってっ!」
ブロッチ「ごあばばばばばばば」
プルー「ミティ! ミティが創ったあのナースプールに連れて行くの?」
ミティ「うんっ」
プルー「凶暴なドラゴンに、優しくするのは賛成出来ないよ」
ミティ「っ……。そう、よね……。でもっ」
プルー「ワーグナー! お前は、」
ワーグナー「去れ、小汚い人魚め! このままほおっておけ! ブロ、はやく――」
ミティ「バカッ!」
ミティ、ワーグナーの頬を叩く!
ワーグナー「くっ!」
プルー&ブロッチ「ッ!!?」
ミティ「ばか……。傷、たまらなく痛いんでしょう? 私たちを振りほどく力すら、あなたには残っていないじゃない……」
ワーグナー「っ……」
ミティ「ここまで酷いと1日2日では無理だけれど、私には傷を癒す力があります」
ブロッチ「そんなことができるの?」
ミティ「ええ。その力を、この先の岩場にたくさん込めてあるの。そこに連れていきます」
ワーグナー「人魚は……」
ミティ「?」
ワーグナー「本当にばかだな」
プルー「おい、なんつった!?」
ブロッチ「わああ、悪気はないんですうう!」
ミティ「プルー、静かにして。こぐまさん、プルーの背中に乗せてもらって着いて来てね。私はワーグナーを押していきます。さぁ」
ワーグナー(唸る)「……」
プルー「はーあ。言い出したら聞かないんだから。まったく。変わらないな」
ミティ「もう少し耐えて……」
プルー「お人よし過ぎるよ。ミティ」
ミティ「……うん」
ブロッチ「ワーグナー様は、次の日の晩まで、ずーっと。ナースプールで眠っていました。
ミティは、ワーグナー様をちっとも恐れず。片時も側を離れようとはしませんでした。
彼の傷ついたウロコを撫で。優しく癒し続けていました」
プルー「そろそろ行商人が来る時間だぁっ!! ちょっと行って来るね♪」
ミティ「うん。あんまり、行商人の子を穴が開くほど見詰めないようにね」
プルー「なんで知ってんの!?」
ミティ「わかるわよ。何年、幼馴染してると思ってるの? いつもご機嫌なのは、あの可愛い人に会ってるからでしょ?」
プルー「なんだミティ、妬いてたのか?」(カッコつけて)
ミティ「ぜんっぜん?」
プルー「え、なんかごめんなさい」
ミティ「プルーは、弟みたいなものじゃない」
プルー「ですよねえ」
ミティ「人間と、なんて。親たちは許さないわよ?」
プルー「わかってるよ。でもさ、心はみんな一緒だって、教えてくれたのはミティだったでしょ?
どんな命も、年齢も関係なく、喜怒哀楽があるのはみんな一緒。姿の違いで差別するのは反対だって」
ミティ「そう……。確かに、それは私の意見よ。でも、規則は違う。それを誇らしげに掲げていたら、皆争ってしまうから」
プルー「どうしてなんだろうね?」
ミティ「ん?」
プルー「みんな心は一緒なのに。ワーグナーは独りぼっちで。人間にこんなに傷つけられて」
ミティ「ブロッチがいるわ」
プルー「……そうだね」
ブロッチ(ワーグナーに寄り添って寝ている)「くう……」
プルー「さて、と。行って来るね」
ミティ「うん」
ブロッチ「……? ぅ、ぅ、……ん」
ミティ(鼻歌から徐々に優しい歌声を奏でて)「……」
ブロッチ(心地よく聞いている)「……」
ミティの歌が終わると、もぞもぞと起きるブロッチ。
ブロッチ「ミティ」
ミティ「ごめんなさい、起こしちゃった?」
ブロッチ「ううん。起きたの」
ミティ「ワーグナー、随分良くなったわ」
ブロッチ「うん。本当にありがとう。凄い力だね。傷を治せるなんて!」
ミティ「ねえ。本当に人間にやられたの?」
ブロッチ「うん。ワーグナー様がオイラを乗せて空を飛んでいたら、突然。鉄砲でね。何度も撃たれて。剣でも沢山刺されたんだ」
ミティ「そう……。あ、こぐまさんは、どうしてワーグナーと一緒に居るの?」
ブロッチ「オイラ、ジケトビルルバロールグリアっていう卵から生まれたらしいんだけど」
ミティ「うん」
ブロッチ「氷山で親に捨てられて。でも、瀕死だった所をワーグナー様が拾ってくれたらしいんだ」
ミティ「そうなの。じゃあ、ブロッチっていう名前も、ワーグナーがつけたのね?」
ブロッチ「うん。そうみたい」
ミティ「素敵な名前ね」
ブロッチ「そう? 意味はわからないんだけど」
ミティ「色んなお花が集まっていることを、ブロッチっていうのよ。
海の中には花は咲かないけれど、陸には美しい花がたくさん咲く。
昔おばあさまから聞いたことがあるの。お花には、一つ一つにね、色んな希望の意味があって」
ブロッチ「へええ! じゃあオイラ、すっごく色んな希望なんだね!」
ミティ「ふふふっ」
ブロッチ「嬉しいな。ワーグナー様、そういうこと直接言ってくれないから。あっ、オイラ、ちょっとお水飲んでくる!」
ミティ「ふふ。うん。いってらっしゃい」
ワーグナー「何故助けた」
ミティ「あなたがあまりにも可哀想だったから」
ワーグナー「今すぐその首を掻っ切ることも出来るんだぞ」
ミティ「あなたには出来ない」
ワーグナー「調子に乗るな!! たかが人魚が何をほざく!! ふんっ!! はぁぁぁっ!」
ワーグナー、ミティを振り払い、その巨大な尻尾でミティの脇の大岩を破壊する!
ミティ「……ワーグナー」
ワーグナー「呼ぶな。失せろ、人魚……」
ミティ「私の名前は、ミティンベリイ」
ワーグナー「口を開くな」
ミティ「あなたを助ける」
ワーグナー「今すぐ消え失せろ!」
ミティ「それは出来ない!」
ワーグナー「……何故……」
ミティ、ワーグナーの大きな口の先端に、そっと手を当てて。
ミティ「何日も眠っていなかったんでしょ? まだ夜は明けないし。
全ては静かでいつもの平和な……。ここには誰も来ないから。誰もわからないから。
だからワーグナー。まだここに居て。傷をきちんと癒して」
ワーグナー「何故我を恐れない」
ミティ「私に恐いものなんてないの」
ワーグナー「何故だ。答えろ人魚。そんな強靭なものを、お前のようなひ弱な人魚が持っているはずがない!」
ミティ「私は昔、人間が作ったナイフで。仲間でもある小さなアジを捕って焼いて食べたことがある」
少しだけ、戸惑うワーグナー。
ワーグナー「? ……お前がか?」
ミティ「うん。とても臭くて。ほとんど吐いてしまったけれど。……でもあれはただの好奇心だった。
友達と人間に感化されて。っ……自分の意思が弱かった。そして無知だった。仲間を殺してしまうなんて。私、決してやってはならないことをしたのよ」
ワーグナー「お前は本当にばかだな」
ミティ「うん。だからね。恐いものなんてないのよ」
ワーグナー「人など何百と焼き殺した」
ミティ「ワーグナー。全ては海から生まれたのよ。はるか昔。私たちは皆、海だった」
ワーグナー「お前の話は退屈だ。もう行かせて貰う。――盗み聞きしてないで、行くぞ! ブロ」
ブロッチ「はっ! いいっ! うっ、うっううっ!」
慌ててワーグナーの背に乗るブロッチ。
ミティ「待って! どこへ行くつもり」
ワーグナー「復讐だ。あの街の灯りを見ろ。人間どもは、お前たちを殺し牛を殺し豚を殺し全てを奪っていく。海も陸も空も、人間が支配して行く。
そんな様を黙って見てはいられん。やられる前にやらなくてはならない。残された我の成すべき事だ」
ミティ「確かに、私の母は人間に両腕を斬られ、ここの浜で見世物にされながらただ死んで行った。
弟も姉も、下半身を斬られて焼かれて。人間に食べられ、上半身だけ海に返された」
ワーグナー「ふん。恨まない理由がないのはお前もじゃないか」
ミティ「でも……。お願い。ブロッチ! あなたにも聞いて欲しい。あなたにも悲しいことがあったのかも知れない。でも、でもね!」
ワーグナー「行くぞ」
ブロッチ「わっ。待ってくださいっ!」
ミティ「大切なのは許すことだと思うの!!」
ワーグナー(台詞を喰って)「フンっ!!」
ワーグナー、飛び立ってしまう。
ブロッチ「っ……!」
ミティ「待って! 誰も殺さないで! 総てを怨むのはもうやめて! 何かを赦せないと思いたいのなら!
無情なあなたを引き止める……私のことだけを赦さないで!! ワーグナー!!」
ブロッチ「ミティ! この辺りもすぐに焼け野原になる! 海底に逃げるんだ!
――優しくしてくれて嬉しかった! ありがとう! さようなら! ……さようなら、ミティ」
ワーグナー「……」(溜め息)
ブロッチ「怒ってますか? でもミティは、ワーグナー様にあんなに優しくしてくれて……!」
ワーグナー「気まぐれに惑わされるな」
ブロッチ「っ! ……はい」
ミティ「人間が他族を支配するのは、人間にも寂しい気持ちがあるからよ。私にはそれがわかる……」
プルー(鼻歌を歌いながら。ご機嫌で戻ってくる)「フンフフンフーン♪」
ミティ(プルーに掴みかかって)「プルー! 魔女人魚の子孫なんだから! お願い!!」
プルー「わああああなにいいいい!? なんだよう、突然。あれ? ワーグナーとブロッチは!?」
ミティ「お願いプルー!! お願いっ!!」
プルーの首を掴んで彼の身体を前後に激しく揺らすミティ。
プルー「ま、まってままっまっまっ死ぬっうううううっうっうっああっ……アッ……」
ミティ「っ!! ごめんっ!!」
突然手を放すミティ。
プルー「うっ! ゲホッ! ゲホゲホッ! 何何どうし――」
ミティ「私を人間にして!!」
プルー「は??」
ミティ「少量だったら解毒に使えるあの薬っ! 全部出してっ! 今すぐ! いつも持ち歩いてるでしょ!? リュックの中にっ!」
プルーのリュックを無理やりこじ開けるミティ。
プルー「わあああやめてええええ!!」
ミティ「お菓子ばっかり!? もうっ! どこっ! どこにあるのっ!?」
プルー「落ち着いてって! ミティ。人間になりたい!? 何言ってるんだよ!?
そんなことしたら。もう人魚姫じゃいられなくなるんだよ!?
泳げなくなって。魚とも会話が出来なくなる! まあ……人間の世界には、美味しいものが沢山あるけどさあ!」
ミティ「ワーグナーがデルティアを滅ぼしに行っちゃったのよ! 人間を皆殺しにするって!」
プルー「は……?」
ミティ「だから止めなくちゃ!」
プルー「待ってよ! あの街が滅んじゃったら。もうポテチも白米もチキンサンドもベーコンポテトバーガーも食べられなくなっちゃうじゃん! あっ……。ご、ごめんなさい。待って、そんな目で見ないでお願い」
ミティ「私は……。ワーグナーがこれ以上罪を重ねてどんどん自分を追い込んで。
完全に堕ちてしまうのを見たくないの!! プルーも見たでしょう? あんな切なくて、うんと哀しみに満ちた瞳。彼は本当は優しいのよ。だから」
プルー「ミティ。確かにこの薬を一瓶以上飲めば、人間になれる。でも副作用がある!」
ミティ「言語能力がなくなることね」(凛として)
プルー「覚悟した上なんだね……」
ミティ「……うん」
プルー「ミティ。ボクがこの薬を改良して。少しの言葉なら……なんとか話せるようには……」
ミティ「ありがとう。さあ、渡して!」
プルー「……ミティ」
プルー、ミティの手の上に、薬の入った瓶を置き。だが自分の手はどかさず。
ミティ「ん?」
プルー「今まで、色んなところに行ったね。家族と、仲間と一緒に。生まれた時からずっと、たっくさん、泳いだよね」
ミティ「……うん」
プルー「君が人間になったら、全部なかったことになってしまいそうで。ボクたち、もう……一緒には」
ミティ「大丈夫よ」
ミティ、薬を飲み干す。
ミティ「っ、っ、っ!」
プルー「――っ」
ミティ「ぷはっ。……ふふっ。プルー。私、人間になったら。あの行商人の女の子に、弟子入りして。
毎日会いにくる。新しい思い出。たくさん作ろうね」
プルー「……はーあ。飲んじゃったか」
ミティ「うっ……! うっ……! ああっ!」
ミティの下半身が、人間の足に変わっていく。
プルー「ミティ……」
ミティ「人間に、なった……! 私……もう……」
プルー「あーあ。これ、あの子に渡そうと思って極秘に入手したワンピースなんだけどなぁ」
ミティ「っ! プルー」
プルー「ほら。国を救うヒロインが、素っ裸じゃあカッコ悪いよ? オヒメサマ! どうぞ! さあ行って!」
ミティ「ありがとうっ! 行って来るね……! 必ず、戻ってくるからっ!」
プルー「……あぁ……。こんなことになるなんてな。このまま戻ったら。ボク、追放されちゃうかなあ」
ブロッチ「復讐に燃えていたワーグナー様は、いつものように。人間の街をファイアブレスで焼き尽くしはじめました。
オイラは心が苦しかった。どうしてか、涙がこみあげてきて。ミティのあの必死な顔と優しい笑顔が、頭から離れない。
ワーグナー様はいつもにも増してイラついていて。吼え方も尋常じゃなかった。
いつもなら、人間たちが泣き叫ぶ声なんかちっとも気にならないのに。むしろ、愉快なのに。
何故か耳を塞ぎたくなった。逃げてしまいたい。……ミティ、君と話したい」
ワーグナー「アアアアアアアアアああああああああああああああああああああ!!
うヴあああああああああああああああ!!」
ブロッチ「ワーグナー様……血が……!」
ワーグナー(息を荒げて)「……ブロ」
ブロッチ「は、いっ……!」
ワーグナー「いつものように高笑いしていろ」
ブロッチ「……っ」
ワーグナー「今日は雷を吐かんのか」
ブロッチ「もうほとんど。終わっているじゃないですか」
ワーグナー「まだ臭いがする。人間の……息だ。全て根絶やしにしてやる。殺せ。ブロ。全ての家屋に落雷を。全て――」
ブロッチ「もういいじゃないですか!! もう氷山に帰りましょう! オイラはもう、」
ワーグナー「歯向かうというの、かッ!? ――……ぐっ!?」
ブロッチ「ワーグナー様!?」
残っていた人間に銃で撃たれ。傾き、地上に落下するワーグナー。
ブロッチ「わっわああっ!? おっ落ちるっ!? ワーグナーさまあっ!?」
ワーグナー「っ!!」
なんとか受け身を取るが。
ブロッチ「っ!? 囲まれてるっ!」
ワーグナー「逃げろ、ブロ」
ブロッチ「え?」
ワーグナー「もう、飛べん。ここまでのようだ」
ブロッチ「えっ、い、や! ワーグナー様……! そんな!!」
ワーグナー「ブロ。北に真っ直ぐ突っ切ればすぐ街の外に行ける。そこから……」
ブロッチ「嫌です!! ワーグナーさま……! ッ!!」
大量の銃弾を浴びるワーグナー。ブロッチは、その衝撃で空に弾き飛び、民家の屋根に落下する。
ワーグナー「ぐっ!? グアアアああああああああああああああっ!!」
ブロッチ「ワーグナーさまあああっ!!」
とどめを刺そうとばかりに、人間たちはワーグナーに詰め寄り、銃口を再びワーグナーに向ける。
ブロッチ「もう、やだ。もう、やめましょう。オイラ、ミティに会いたいっ……」
ワーグナー(息を荒げ)「ふざけるな。顔を上げろ、ブロ。……人間よ!! 覚悟はしている。さあ撃て。
……。ふ……何故、あんな娘の顔が浮かぶのか。わからんな……」
ブロッチ「やめろおお!」
ワーグナー「ブロ。殺し屋に涙は必要ない」
ブロッチ「!!? あっ――」
ミティ「わぐ!!!! っ!! っ!!」
白いワンピースを着た女性が、ワーグナーを庇い、撃たれる。
ブロッチ「み、てぃ?」
倒れるミティ。
ミティ「っ! か、はっ……ッ!」
ワーグナー「……何故……何故だ」
ミティ「んぅ……!!」
ミティ、最後の力を振り絞り。ワーグナーの前足に手を伸ばし。彼に触れ。全力でワーグナーの全身の傷を癒す。
ワーグナー「!? やめろ……!!」
ブロッチ「癒しの光!? ミティ……! そんなことしたら死んじゃうよ!」
ミティ「……わぐ」
ワーグナー「笑うな。微笑みかけるな!! 死ね、人魚!!」
ミティ「……っ」
ブロッチ「ワーグナー様、ミティはワーグナー様を庇って……!!」
ワーグナー「ブロ、背中に乗れ! 逃げるぞ!」
ブロッチ「っはいっ!! ミティも!!」
ワーグナー「そいつはもう虫の息だ」
ブロッチ「えっ。置いて行けません!!」
ワーグナー「ならばその女と共にここに残れ!!」
ブロッチ「いやだあっ!! うおああああああああああああっ!! バーストボルトぉっ!!」
ブロッチの周りに雷が落ち。ワーグナーを取り囲んでいた人間を焼き殺してしまう。
ワーグナー「ふん……」
ブロッチ「ミティ、ミティ、死なないで! どうして! その姿はどうしたの!?」
ミティ「あの、……っ……っ」
ワーグナー「……はぁぁ……!」
ブロッチ「!!? ちょっ! ワーグナー様!? 何を!?」
ワーグナー「人間は殺す」
ミティ「わぐ……」
ワーグナー「うるさい!! 呼ぶな!! ……呼ぶな……ミ……ティ……。私を……癒すのは……やめてくれ」
ワーグナーの大きな瞳から、大粒の涙がこぼれる。
ブロッチ「!」
ミティ「わぐ……」
ワーグナー「うるさい……」
ミティ「わぐ……」
ワーグナー「なぜ……」
ミティ「っ……」
ワーグナー(はじめて笑う)「本当にばかだな」
ミティ「あり……」
ワーグナー「お前が礼を言うのか……」
ミティ「が……と」
ブロッチ「ミティ? ミティ!」
ミティ「さ……よ……」
ワーグナー(ミティを守るように尻尾と翼でくるみ)「さようなら。人魚姫」
ミティ「……」
ブロッチ「うっ……ううっ……! ミティぃぃ……!」
ワーグナー「ブロ。一緒に背に乗れ」
ブロッチ「どこへ……行かれるんですか……」
ワーグナー「どんな翼も届かぬ、美しい所へ。こいつを置いたら。また、」
ブロッチ「また……?」
ワーグナー「いや。……ふっ。この心が変わるなど、ありはしないよな。こんなことで」
ブロッチ「ワーグナー様」
ワーグナー「何百何千と殺してきたんだ」
ブロッチ「ミティ、身体、キレイに洗ってあげるからね……」
ワーグナー「この心は決して変わらない。こんな、たった一つの……」
ミティにそっとキスをして。
ワーグナー「貧弱な歌声では」
プルー(かなり痩せた)「ボクには、どうしても許せない奴が居る。是非説教をしてやりたい。
だって、ボクの大親友をわざわざ人魚から人間に変えさせて。しかも、海から。全てから。あいつは姫を取り上げた。
ボクが気になっていたあの行商人の女の子も、あれ以来、浜にはやってこない。
絶対に許さない。次会ったら、ボコボコにして。やっつけてやる。飛竜ワーグナー。小熊のブロッチ。
生涯かけても、見付け出してこの手で討ってやる。
こうしてこの浜から、街があった廃墟を見るだけでも、涙がこぼれるよ……ミティ」
ミティ「――無情なあなたを引き止める……私のことだけを赦さないで。ワーグナー」
BADEND