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宿屋にて

 街道を歩く、とりあえず宿屋を探して。

 詳しくは知らないが、中世ファンタジーの世界の町並みとしてはでかいのだろう。

 この街の名前すら分からんが、あちこちに露天商や、しっかりした店舗もあり、賑をみせている。

 太陽の位置から言って恐らく、昼ごろなんだろう、食べ物の露天に集う人々が多く見受けられる。

 俺の腹も減ってきている、キャサントンの串焼きなる物を売ってるらしい店から香ばしい食欲をさそう香りがする、どんな生き物かも判らないがキャサントン旨そうだ。

 しかしながら、今は、寄り道をするより宿でしっかり、色々考えたい。

 正直思考放棄して、露天で食べ歩きなんてしたいのだが、自重するべきだと判断する、さらばキャサントン。

 いや、露天で買い物して、露天商の人に道でも聞くべきか?

 RPGなんかだとINNと書かれた店がこれみよがしにある物だが、それに類似したような意味を持つ看板が見当たらない。

 宿なんて人通りの多い大通りなんかに構えてる物だと想うのだが、なかなかみつからない。

 次にキャサントンの店を見つけたらそこで聞いてみよう、キャサントン食べたい。

 ファンタジー不思議料理なんて、知的好奇心を擽りすぎる。

 そして、見つけた、看板にキャサントンの文字。


「キャサントンの……安らぎ亭」

 

 お帰りキャサントン。

 いや、うん、見つかったよ、宿屋。

 露天じゃなくて店舗の看板に書かれたそれ、確かに宿屋を探していたし、キャサントンの露天で聞こうとしてたんだが、なにこのキャサントンのゴリ押し、この辺りの郷土料理かなにかなの?

 俺は苦笑を浮かべ入り口を潜る、中に入ってみると、一階が酒場兼食堂、二階が宿屋になってるのが分かる。


「いらっしゃい、一泊2000G食事は別だよ。」


 カウンターに居るかっぷくの良いおばちゃんにそう言われる。


「あ、はい、とりあえず一泊お願いできますか?食事はまた後で取りに来ます。」


 袋の中に手を入れて2000Gとイメージすれば、金貨2枚の感触が産まれる、それをカウンターに置くと、17号室と書かれた鍵を渡される。

 あ、はい、案内は無いんですね。

 近くの階段を上り17号室を探す、まぁ、数字を追うだけなので単純に17番目の部屋なんだが。

 鍵を開け、キィーと蝶番が音を立てる木製のドアを開けて室内にはいると、ベットと簡単なテーブルとコート掛けがあるだけの質素な部屋だった。

 まぁ、安宿なんだろう、金はあるのだからもっと良い宿を探すべきだったのだろうか?

 ベットに腰かけると、硬い木の板に布団を置いてあるだけの、質素感だが、なんとか人心地つけた気がする。

 

 「さて、どうしたものかねぇ。」


 そのままベットに背中から倒れこみ、声をあげる。

 何故、俺はここに来たのだろうか? 何故、俺はこんな事になっているのだろうか? 何故俺は……。

 思考がぐるぐる回る、そして一番の疑問は、何故俺は、こんな状態になっても、こんなに気力溢れているのだろうか?

 そう、俺は凄く不安を感じるべき状態なのに、不安を感じて居ない、いや、不安はあるのだが、不安を追い越すくらい希望に溢れているのである。

 ヤバイ薬でもキメてるみたいに、心の奥から熱い何かが溢れて来るのである。


「元の世界じゃ、うつ病の薬すら効かなかったのにな。」


 まぁ、良い事ではあると思おう。どの道、自殺を考えていたような過去の精神状態のままなら、無気力に死んでいくだけだったのだし。

 どうしてこうなったかなんて、考えても分からないだろうし、聞いても誰も教えてくれないだろう。

 保留として置こう。

 そんな事よりこれから、どうするべきか……いや、どうしたいか、だ。

 この世界は楽しい、いや、楽しそうなのだ、まさに世界が輝いて見えると言う奴である。

 折角のファンタジーなのだから、ドラゴンに会ってみたいし、エルフ耳も触りたい、魔法もガンガン使いたいし、ドワーフの武器も触ってみたい。

 やりたい事は沢山ある、それらを成すに必要なのが、やはり身分証明だろう。

 俺はギルドカードを取り出し、テーブルの上に置いてみる。

 恐らくこれは、本物だと思う、例え偽物であってもバレるような偽物ではない、袋の不思議パワーでバレないように出来てるのではないのだろうか?


 「鑑定」


 呟くように唱え、カードに触れる。

 

 名所:ギルドカード

 冒険者ギルド発行のクルト=アイダのギルドカードである、身分証明書にもなる。


 唱えなくとも出てくるのだが、気分の問題。

 出てくる文字は変わらず同じである。

 Aランクの鑑定スキルで偽物だと分からないのであれば、偽物ではないのであろうか?

 本物だとして、俺はいつこのカードを作ったのだろうか?

 ギルドに行けば発行時期くらい分かるのだろう。

 更新が古いとあのおっさんは言っていた、ならば誰かが一度は更新した事になる……ひょっとして。

 思考の海に潜って行く中、テーブルの上に置いてあった本に目がつく。

 ホテルにある聖書のような物だろうか?

 カードに鑑定を掛けたまま、意識をカードから本へと移す。


 名所:伝説の勇者 クルト=アイダの伝説

 現在から約10年前に現れた、伝説の勇者、クルト=アイダの伝説を書き起こした書である。

 キャルロット王国が、勇者の話を教え広めるため、自国の公共機関及び宿泊施設等に無料配布された物である。

 

 エンチャント:持ち出し不可の呪いA


 「…………」


 思考か、真っ白になった。

 声が声にならない上に、何と声を出そうとしているのかも、分からない。

 なんだこれ?


「なんだこれ?」


 やっと絞りだした言葉は思考と同じで答える物も居ない、無意味なつぶやき。

 なんだこれ?なんだこれ?なんだこれ?なんだこれ?

 あーうん、この国キャルロット王国って言うんだ、へー………いや、そうじゃなくてだな。

 いや、まぁ、うん、そうじゃないかなぁとは思ったのよ、俺10年前にここに居たのかよ?

 いや、全然思い出せないけど、俺の今までの人生でこんな不可解な事に関わる事って、10年前の空白だけだもん。

 そういや、俺の職業、伝説の勇者だったわな。

 もう既に伝説になってる、勇者だわ、こんな所で10年来の謎が解けるとはなぁ、俺異世界に居たのか、あー、なるほどなー。

 一見、信じられる理由のない事ではあったが、なんとなく、心にストンと理解できた。

 あー、なら‥………この世界には俺の愛した誰かが、居るのかもしれない。

 動悸が、鼓動が、早くなる、なんか頬が熱くなる。

 なんだろう、初恋のあの人に再び合うみたいなそんな気持ちになるのは、その相手を全く思いだせないというのにだ。

 あ、この本に俺の愛する人の事も書かれて居るのかもしれない、勇者の物語にはヒロインの存在が書かれたりするもんな。

 俺は本を手にとりページを開く、言語スキルあって良かったと思いながら。


 第一章『勇者クルト、全裸でドラゴンに立ち向かう!!』



「何やってんだ俺ぇえええええええええええ!!」


 叫び声を上げた俺は悪く無い、例え隣の部屋から壁ドン!! されようとも。


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