プロローグ
「俺は、この☓☓を愛してる」
また、この夢か……
真っ暗な闇の中、どうしようも無い絶望の中、命の輝きまで消え失せる漆黒の中。
そう宣言したのは、告白したのは、嘆いたのは……。
俺だった。
時折俺はこの夢を見る。
見始めたのはそう、14いや15の時か。
俺には14歳の誕生日から15歳の誕生日までの丸一年の記憶が無い。
そして、その時期世間で俺は行方不明扱いになっていた。
15歳の誕生日のあの日、俺はボロボロの姿でふらりと家に帰ってきたらしい。
らしいと言うのは、俺が目覚めたのは病院のベットの上だったからだ。
両親が玄関口で倒れた音を聞きつけ、気絶した俺を発見し、病院へ搬送。
行方不明から戻ってきた事に両親は喜んでくれていたが……。
当時中学生だったが、当然1年も学校に行けていなければ勉強にもついていけない。
どちらかと言えば真面目だった俺は、補修や自主学習で徐々に追いつこうとするがなかなか上手くいくわけもない。
1年も行方不明だった奴がいれば、クラスメイト等周りの連中からは奇異の視線で見られる。
しかも、俺は何故かPTSD(心的外傷後ストレス障害)をも抱えていたのだ。
一番最初は、不良共に絡まれた時だっただろうか。1
年間行方不明だった存在は格好の的だったのだろう。
罵られながら俺の襟元を掴んだ腕をひねり骨を折り、流れるように掌底を腹に決めクビの骨を捻って折ろうとした所を周りに取り押さえられた。
結果は、過剰防衛である。
ここまでして置いて俺は、全身が恐怖に引きつっているのである、やらなきゃやられる、この矮小の身体だと身を守るのも全力でなければならないと。
まるで、素晴らしい力を昔持っていたかの様な気持ちだが、それすら説明できない。
空白の記憶のない1年、俺に何があったのだろうか。
そこから俺の人生は狂っていった、俺が原因で両親は離婚、蒸発、俺は母方の爺さんに引き取られて田舎で農家のまね事をしながら、療養生活を送っていた。
あれから10年、俺、相田 来斗は25歳になったが社会には未だ馴染めずにいる。
いつも思っていた、この世界は俺が生きるべき世界ではないと。
それを誰かに言うとただの妄想と現実逃避だと言われる。
まさにその通りなのだろう俺は事実この世界を受け入れきれず、小説やゲームに逃げているのだから。
そしてその逃避しているという事実すら俺の心を折っていく。
あの謎の夢を繰り返し見ながら。
俺は、記憶のない1年に誰かを愛したのだろうか?
あの、1年は俺の心に理由の分からない刺となったまま、刺さったまま抜けない。
「お前、死んだから」
気がついたら俺は、真っ白い世界にいた。
目の前に居るのは、子供の様な老人の様で、男の様な女の様な……■■だった。
俺は目の前に居る存在を知っている、少なくとも似たようなものを見た事があるはずだ。
「まぁ、俺(私、儂、我)は神だ、そして俺様(僕ちん、妾、ミー)のミスなんだがな、そこでお前にはいせ、っとお前随分と……」
ああ、こいつはそうだ、神だ、俺はこの手の存在と対峙するのは二度目だ、あの頃と変わらず醜悪な様は自分の嘗ての偉業を肯定されてるようで心地よくもある。
あれ?俺は今何を考えて居た、俺が神なんかに会った事があるはずなんて無いだろう。
目の前の存在が何か言っているが、聞きたくも無い。
自分が死んだと言われたがそんな事はどうでも良かった。
社会にも馴染めず人にも馴染めず、生き足掻くのにも疲れていた。
周りからはいつ切れるか分から無い腫れ物の様に扱われ、懸命に生きようとすれば咎められ、PTSDを起こし、俺は腐っていった。
最後まで俺を見てくれていた爺さんも、去年死んだ。
俺に生きる意味は無い、自殺しなかったのは、生きる責任があると思ったからだ。
なんに対する責任だったかはもう覚えていない。
俺の愛した☓☓はもうどこにも無い。
☓☓が何だったのかも、分からない。
「おい、聞こえてるか?おい?駄目だなこれは、摩耗してるな。仕方がない、こいつは消却して次の奴を…」
やっと消えられるのだろうか?
この苦しみから開放されるのだろうか?
俺は許されるのだろうか?
「んじゃまぁ、君はハズレってことで、バイバーイ」
目の前の存在が手を左右に振る。
嗚呼、俺が消えていく……視界が白く白く…。
「さ せ な い」
そして俺が最後に見たのは、目の前の存在を蹴り飛ばす、
それは
とても
オソロシク
ウツクシク
■■■しい
銀色の髪の少女だった。
プロローグです、おそらくクドいし暗い印象を受けると思います。
次話からだいぶ明るくなる予定