第15話 学校の七不思議
智菊は藤田先生の質問に真剣な表情で話し始める。
「この間の放課後の話だそうです。先生は学校の怪談って言ったら何かご存知ですか?」
智菊の問いに、顎の髭を触りつつ藤田先生は記憶を辿る。
学校の怪談で有名なのは七不思議が定番になるだろう。
そう考えてすぐに口に出す。
「学校の七不思議って確かトイレの花子さんとかだよな?」
里美の方に顔を向けると、里美はうんうんと首を縦に上下する。
「そうそう。音楽室とかよね? えっとあたしが弟に聞いてきたのを教えようか?」
里美に頷くことで肯定を示す。
「ん。それじゃ紙に書いてきたから読むね」
肩にかけてきた鞄の中かた小さな紙を取り出して里美がそこに書かれた内容を読んだ。
1、学校は戦後間もなく建てられたが、その前は墓地だった。夜になると死者が教室に集まって集会をしている。その姿を見たら死ぬ。
2、放課後一人で廊下を歩いていると後ろから自分以外の足音が聞こえてくる。振り返ると誰もいないが、よく見ると足だけが宙に浮いて立っている。
3、トイレの花子さん。放課後一人で女子トイレで用を足すと突然現れる。
4、理科室の動く人体標本模型。夜な夜な理科室でフラフラと動く模型の姿がある。見るとどこまでも見た人物を追い掛け回す。
5、誰もいない音楽室のピアノが勝手に演奏する。同じ曲を連続して聴くと死ぬ噂がある。
最後に全ての七不思議を知った者は必ず死ぬという話がある。
「……とりあえず、この学校にあるのがこれらの怪談になるわ。6個目のは七不思議じゃなくて呪いだって話だからカウントに入れないけど。うちらが小学校の頃に聞いたのと変わらないよ」
里美はこの小学校の出身者だ。当然この七不思議にも精通していた。
五つの怪談話を聞いて藤田先生は苦笑していた。
「こういう怖い話ってのは時代が変わってもそれほど変化がないもんだな。しかしこの小学校はまだ開校25年にも届かない比較的新しい学校だぞ? その前が墓地ってのはありえないな。元々は田んぼだったんだ」
里美が当時を懐かしみながら説明を加える。
「……そうよね。ちょっと大雨がふったりすると校庭が水浸しで数日は使用できなかった記憶があるような……」
「ああ。今でも大雨が降ると校庭は翌日晴れたとしても利用できないな」
智菊も自分の小学校時代の七不思議を思い出すがやはりここのと変わりない。
「そうだったんだ。でも、学校の七不思議なんて場所が変わっても内容は大差ないよね。私のいた小学校でも今のと一緒だった」
「やっぱり? それで噂のさつき君は六つ目がどうだって言うの?」
里美にさつき君の話を振られた途端、智菊の顔が曇ってしまう。
はあっと小さく息を吐くと手紙について話す。
「さつき君はその六つ目を見つけたって言うの。それがこれから話す体験談なんだけど。二つ目の廊下の七不思議の怪談を体験したって」
智菊の言葉に二人は一瞬ぽかんと口を開いた。
信じられないと言うのを口にする必要がないくらい分かりやすい顔だった。
すぐに藤田先生は、自分の開いていた口を閉じて智菊の顔を凝視する。
真剣な表情で佇む智菊の様子に藤田先生は笑いをこらえようとするも失敗した。
「はははっ! それはその子の勘違いだろ。おそらく恐怖から足だけ見たって勘違いしたんだ。恐い話をそこまで真面目に受けてあげるのは偉いがな」
「ぷははっ。そうよ! 智菊ってばそんなのその子の勘違いよ。電話ですごーく深刻そうだったから慌てたのにそんなオチ?」
二人に半ば呆れられても智菊の険しい表情は変化しない。
真剣に取り上げないのは予想できたとばかりに話を進める。
「……怖い話を体験したってだけなら関与しようとは思わない。子供の話に首をつっこんで良いわけないしね。それがトラウマになりそうならどうにか七不思議を壊さずに種明かしできるように話す努力をするよ。でも問題はその廊下の体験のあとの話なの」
「……?」
「どういうこと? 先があるの?」
智菊はゆっくりと首を動かしてさつき君の体験した怖い話を語りだす。
「仮にさつき君をここではA君とします。架空の話として聞いておいてくださいね。……A君は一度は学校が終ってすぐにお友達と一緒に下校したそうです。何事もなく帰宅して荷物を置いたA君はそれからすぐに外出して一緒に帰ったお友達と遊んで17時くらいには帰ったそうです。お母さんに言われて夕飯前に宿題をしようとしたら、ランドセルにその宿題が見つからなかった。ようやく宿題を学校に忘れたのに気付いた」
「そういうのあるよね! あたしも忘れ物して次の日先生に怒られたなー」
「……今はもう大丈夫なのか?」
「うん! 中学で一度かなり担任に叱られたお陰で今は注意力が鍛えられた! 嫌いな担任だったけどそれには感謝だなー」
えへんと偉そうに胸を張った里美にかまわず続ける。
「……もう時計の針は18時近くになっている状態で、そんな中で一人で外出したらお母さんに絶対に怒られる。でもやらないと先生にも怒られるからどうしようと焦っていたら、一緒に遊んでた子から電話がありました。A君にとってラッキーなことにその子も宿題を忘れたというのです。二人が電話で相談していると、その電話を側で聞いてたその子の小学6年生のお兄ちゃんが一緒について行くと言ってくれました。そこで3人で学校に行くことになったのです」
「うーん。悩む所よね。あたしも昔言われたことあったけど断ったし行くのも止めた。行きはいいけど帰りは暗いじゃん。子供だけだと危ないよ」
里美の言葉に同意を示す。
「うん。そうなのよね。まだ冬本番で18時なんて太陽はとっくに隠れてるからね」
智菊はようやくさつき君の体験した恐怖を味わってもらおうと声を低くした。
座っている椅子の上から身を半ば乗り出すように身振り手振りを交えて話す様は、二人を怖がらせようとする語り口だった。
「3人仲良く学校に着いたのは学校の大きな時計で確認すると18時すぎになっていて、もうすっかり外は暗くなっていたそうです」
「もう17時の段階だって暗くなり始めてたんじゃん?」
「だろうね。遊んでると暗いとか明るいとかあまり子供には関係ないからね」
学校正面玄関に行くとそこには帰宅しようとしたA君とお友達の担任の先生が偶然居合わせた。
「こらっ! お前たち、まだ学校にいたのか?」
「ち、ちがいます! ぼくたちは宿題取りに来たんです」
「そうです! お兄ちゃんにいっしょについて来てもらったんです」
「……宿題? 忘れたのか? あれだけ教室で先生が注意したのに!?」
「ごめんなさい」
「すいませーん」
二人はちょっと怒られたけど、A君とお友達が教室から宿題を取ってくるまで担任の先生は帰らずにいてくれることになった。
「本当について行かなくて平気か? 先生ならついて言ってもいいんだぞ?」
最初は一緒について来ようとした先生に「だいじょうぶ」と言い切って、友達のお兄ちゃんにもそこにいてもらって、二人で冒険のつもりで教室まで向かった。
誰のいない廊下の様子に特に気に留めることもないままに、二人の頭の中は早く宿題を取りに行かなくちゃいけないとそれしかなかった。
「はやく、はやく! 遅くなるとまたおこられちゃうよ」
「うん、わかった!」
どうにか教室に着いて電気を点けた二人は、早速目的の物を探し出す。
どこに置いてあるか分かっていたのでさほど時間はかからなかった。
「……あった?」
「あったよ!」
「よし! じゃあ帰ろう」
「うん」
教室で無事に宿題を手に持って他に忘れ物がないか確認した二人は、教室の電気を消す。
開いていたドアを閉めてから、教室の前の廊下に出て宿題を手にしたことで余裕が生まれた子供たちは、自分達がいるのが夜の学校だというのに興味を持った。
顔を上気させて興奮した様子でA君の友達が提案する。
「……なあ、少しより道しない? こんな風に学校に残るなんてめったにできないんだよ」
「でも先生は?」
「少しくらいなら平気だよ、きっと」
「うん! そうだね」
左右に分かれている廊下は暗くて非常灯が点灯しているくらいだ。
ちょっと怖いけど、もうすぐ2年生になるし、肝試しみたいで楽しいかもしれない。
そんな軽い気持ちで二人は冒険内容を考えた。
「一人ずつ遠回りして玄関に行こう。先についた方が勝ちだぞ」
先生たちなら少しくらい遅くなっても待っててくれる。
そう思った二人はそれぞれ、反対の階段を下りて玄関に向かおうと教室前で別れた。
また注意される可能性があったが二人はそれよりも目先の遊びに夢中になった。
「じゃあ始めるよ。下で会おうね」
「うん、じゃあね」
手を振り合ってお互いに笑ってそれぞれが左右別々に動き出す。
友達は1年2組で左から二つ目の教室から見て左側のすぐの階段を使い、A君は右側にとじゃんけんで決めた通りに足を運ぶことになっていた。
一人になったA君は、ゆっくり慎重に廊下を歩いて周囲を見回していた。
暗くなった学校はひっそりと静まり返っていた。
友達は後ろを振り返ったA君の目には既に映らなくなっていたので階段を下りているようだ。
教室前で友達と別れるまではちっとも怖くなどなかった。
それが暗い廊下を一人で歩いていると意識した途端に、ぶるりと身震いした。
ヒタヒタ
なるべく足音を立てないように歩いていると、A君の少し後ろから足音は聞こえた。
冷たい空気で撫でられ背筋がゾクっとした。
後ろに誰かいる気配がした。
「……だれかいるの?」
いつもより少し小さめな声を出して振り返って見ても後ろには誰もいない。
辺りを何度も確認してみるが、人の気配は何もない。
廊下は相変わらず薄暗いがそれだけだ。
――ぼくはもう小学生だぞ! こわがってなんかないんだからな!
「……っ」
ヒタヒタ
早足で廊下を進むとやはりA君は自分以外の足音が聞こえた気がした。
そこでA君は、この前聞いたばかりの七不思議を思い出した。
――そういえば、クラスの子たちがこんな話があるって言ってたっけ。
それは放課後一人で歩いていると自分以外の足音がするという話だった。
ずっと前に亡くなった生徒が、寂しくて一人で歩いている生徒を見つけては後をついていくというものだ。
誰もいないはずの後ろには、振り返って見ると人の足と思われるものだけが宙に浮いた状態で現れたということだった。
もしもその足を見てしまったら、見た生徒は亡くなった生徒に取り憑かれてしまう。
そこまで思い出すと今のA君の状況がその話に瓜二つなのに嫌でも気付かされた。
ゾクっと体が短い間に冷えて厚着をしているにもかかわらず、ガタガタと体が震えるのを両腕で押さえつけて怒鳴る。
「こ、こわくなんかないんだからな! おどろかそうとしてもムダだよ!」
涙をこらえて必死で自分に言い聞かせるように大声で喝を入れるA君は、幸いなことに自分の足以外を見ることはなかった。
どうにか階段まで辿り着いてからは、我慢していた怖さを堪えきれなくなった。
形振りかまわず駆け足で一階まで下りた。
「はあっはあっ……ふうっ……あれ? もう聞こえない?」
下りて来た階段を上の方にまで視線を向けても何もなかった。
非常灯が階段に降り注いでいるだけでしかなかった。
さきほどの足音は聞こえず、急いだためにドクドクと通常よりも早く鼓動する心臓の音しか響いていなかった。
忙しなくなった呼吸が少しずつ収まっていった。
さっきの足音は気のせいだったのかと安堵したその瞬間のことだ。
「……ひゃ、ううっ」
どこからか女のすすりく声がA君に耳にかすかに届いた。
さっきの足音のことが頭から離れず、空耳ではないかとびくつきながら願った。
「気のせいだよ。きっと、何でもないんだ!」
だが、耳を澄ますと声は幻聴などではないようだ。
その場から動くことができず数分の間、体がかちんこちんに固まった状態だった。
「……保健室から声がする?」
電気は非常灯しかついておらず、鍵のかかった人気のない保健室がその声の出所だとようやく分かった。
「……やめ……たす……」
どうにか体を意思の力で動かして保健室の側に近寄ると、中からは女の苦しそうな声が確かに聞こえてくる。
――もしかしてこれも学校のうわさになったやつかな?
A君たちの学校では、最近七不思議にはまだなっていないが、噂になっている出来事があった。
もしかしたらこれが七不思議の知られてない残りなのではないか?
そんな風に噂になっていたその話はこんな感じだ。
半年くらい前から、死んだのを納得できなくて成仏できない女の幽霊が、保健室の中で夕方になると泣いているという話だ。
その女の声は、すぐに終わる日もあれば、長い時間をかけて聞こえる日もあるという。
数年前にその保健室で不登校のまま病気で亡くなった生徒が、友達のいない寂しさから、時折泣いて友達を求めて苦しんでいる。
そんなまことしやかな噂が子供たちの話題になりつつあった。
慌ててA君は、保健室のドアの前に立って耳をそばだてる。
「……ああっ、いやっ」
すると保健室の中からは噂通りに女性のか細い声が聞こえてくる。
何て言ってるのか分からないが、ドアに耳をつけてよく聞いてみると女性だけでなく、気のせいか男性の声も聞こえる。
――中にいるのは一人だけじゃない?
そこまでくるとA君はさきほどの足音の恐怖も思い出してしまい、慌てて玄関に後ろを確認せずに駆け足で戻って行った。
「遅いぞ!」
「A君、ぼくの方が早かったよ!」
「……うわーん!!」
正面玄関には担任の先生も友達のお兄ちゃんも友達も何の変わりもなく待っていてくれた。
――ぼくはお化けからにげれたんだ。
こわかったことや不安だったことなど感情が制御できずに泣くだけ泣いた。
3人はA君が突然泣き出してしまったので、かなり慌てた。
「どうした? 何かあったのか?」
「だいじょうぶ?」
「おいおい、男の子なら泣いちゃだめだよ」
単に一人で学校を歩いたのが怖かったと勘違いした3人はどうにかA君を落ち着かせてくれようとした。
「……一人がこわかったのか? 大丈夫だぞ。今日はこれから先生と一緒に帰ろうな」
担任の先生が子供たちの家にそれぞれを送ることにしてくれた。
友達はお兄ちゃんと手を結び、先生はA君の小さな手を握り締めて歩いてくれた。
「じゃあまたね」
「気をつけてな。今度は忘れ物しちゃダメだぞ」
「はい、先生」
「さようなら」
先に友達たちを送ってから先生と二人でA君の家に歩いていた。
「……何か一人のときに見たのか?」
心配そうに先生が聞いてくるが、首を振って否定してしまう。
怖いと正直に言うのは躊躇う気持ちがあったのか、自宅まで俯いたままだった。
「あら、先生! わざわざこの子を送ってくれたんですか?」
「はい。すみません。息子さんが一人で怖い思いをしたようで……。一緒にいずに申し訳ありませんでした」
頭を下げる担任に母親は恐縮して、逆にお詫びを口にする。
「本当にこちらこそ、この子がご面倒かけてすみません! 宿題忘れて取りに行くってきかなくて。そもそも忘れたのが悪いんですから、先生にここまでされると本当に悪くって……」
ぺこぺこと頭を下げて先生は帰って行った。
見送りが終わった母親は、息子の涙でぐしゃぐしゃになった顔をタオルで拭ってあげた。
「……ご飯できてるわよ。宿題を部屋においてらっしゃい」
「……うん」
ようやく自宅に戻って安心できたのか、夕飯を食べ終わる頃にはすっかり元気になっていた。
「……それでどうして泣いたの? 誰かにいじめられたの?」
夕飯を全部平らげた息子を呆れた眼差しで見やりながら母親が問うと、息子は押し黙った。
――お母さんに言う? どうしよう。言ったらおこられるかな?
さんざん迷ったが、言うのはやめて「ちょっと一人がこわかった」とだけ伝えた。
自分の息子が何かを黙っているのは分かったが、けろりとした顔をしているので母親は詮索を控えた。
「……とそんなことが学校で起こったと手紙にはありました」
智菊に渡った手紙には、智菊にだけ先に教えると書かれてあった。
「ご両親には起こった出来事を近い内に自分で話すとあったので、秘密の話ではないと思ってこうして相談に来たんです。というわけで、藤田先生、対処して下さいね」
藤田先生は難しい顔をしている。
智菊の話で保健室の出来事を聞いてから単純な怖い話ではないのが分かって、どう対応するべきか悩み始めている。
子供にとってみれば廊下の足音はともかく、保健室の女性の泣き声は幽霊の存在と言い切れないものがある。
「……それは今回だけじゃないのか? もしくは本当に保健室で誰かが泣いてたとか」
あまり事態を深刻化したくない藤田先生が、逃げ道を探す様に智菊は苦笑する。
その智菊の横ではきょとんとした顔で里美が二人の顔を交互に見ている。
「……七不思議にされそうなくらい噂になっているんです。何人かは実際にその声を聞いているんだと思います。電話でこの里美の従姉妹がこの学校に通ってたというので確認してもらいました」
一緒に話を聞いていた里美が首を大きく振って答えてくれる。
「うん。あの子は去年卒業したけど、その時はそんな怖い話は聞いた覚えないって言ってた。保健室の泣き声なんて耳にした記憶はどう考えてもないってさ」
里美の話に軽く頷く。
智菊は電話で里美に本当に保健室の幽霊騒動話は昔からなかったのかを事前に調べてもらった。
考えていたように半年前より以前にその場所での怪談話は存在しなかった。
「つまり、噂の通りにここ半年の話なんです。子供たちはそれを怖がりながらも楽しんでいますが、それも真相が知れ渡れば夢が壊れます。怪談話は子供の内は真相など考えず怖いままでいたらちょっとした思い出になるでしょう?」
藤田先生を脅すかのように凄みを帯びた笑みを浮かべる。
智菊のその顔に引きつりつつも、里美は果敢に質問する。
「……ところで真相って何? さっきから何で二人して険しい顔しちゃってんの?」
里美のその言葉に二人はお互いの顔を見合わせた。
険しい表情は一転して、智菊は後ろめたい表情になった。
智菊の顔を眺めて藤田先生も思わず内心を吐露する。
「……確かに、それだけの手紙でよくそんな想像できたな? 先生としてはお前に不安を感じるよ」
どこか呆れた目で智菊を見る藤田先生の視線から顔をそらしてごほんとわざとらしく咳をする。
「……ええとまあそれはいいじゃないですか。とにかく問題は保健室なんです。子供の噂はなかなか消えないですよ。まだ保護者の間に広まっていないのが不思議なくらいです。これからが大変ですよ。一応確認だけ早い段階でしてもらって内密に処理するようにして下さい。教頭先生なんだから」
「はあっまさかこんな問題が出てくるなんてな。教師人生そこそこになるが、小学校でこんな話が浮かぶなんて、頭が痛いよ」
「ねー! あたしの質問には答えてくれないわけ?」
里美がぷうと頬をわざとらしく膨らませて不満をあらわにした。
「……もう少し自分で考えてみたら? もしかしたら私の推測が間違ってるかもしれないしね」
「そうだな。先生もその方が助かる」
「さつき君にはどうにか起こった出来事をご両親以外には話さないようにと伝えますから、その間に頑張って証拠を見つけて対処して下さい」
「ああ。わざわざすまないな」
「いえ。先生にはいつもお世話になってましたから、少しでも手助けが出来るのが良かったです」
「ちょっと! 本気で分かんないんだけど!! 幽霊話に何でこんなに大げさに騒ぐ必要あったのさ!」
「じゃあヒントね。保健室の出来事をよく考えてみて。大人なら想像できるから」
「それじゃああんたは何なの?」
「それを言われると立場がない。女の私が分かったのはちょっと……って話だよ。これがヒント」
里美は智菊の言葉に目を吊り上げて顎に人差し指を押し付けて考える。
「……あーっ! 分かった!」
里美が思わず叫んだのは藤田先生と別れて二人で学校から出てからだった。




