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「それ、恋じゃない?」と親友に言われてから、彼の何気ない優しさに振り回されています  作者: 入多麗夜
1章

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06. 至福の女子会

 二次会と呼ばれる集まりは、同じ屋敷の奥、庭園に面した小さな場所で行われていた。扉を閉めれば外のざわめきは途切れ、代わりに灯りと甘い香りが満ちる。


「……やっと終わったぁ」


 最初に息を吐いたのはエレノア・フェルトだった。真面目な顔を崩さないことで有名な彼女が、背もたれに沈み込む。その珍しい姿に、場が小さく笑う。


 エレノアは三大公家に属さない一般家系で、アリスと同期の総務省の中央調整課出身であった。


 初任の配属こそ異なっていたが、書類の回り方や臨時案件を通じて顔を合わせる機会は多く、気づけば互いの仕事ぶりを最もよく知る存在になっていた。


 推薦以外からの一般採用から入るのは難しく、実力であがってきたという点ではアリス以上に優秀であった。


「ほんと、お疲れさま」


 アリスは隣に腰を下ろし、そう声をかけた。エレノアは視線だけを向け、短く頷く。


「こうして座っていられるだけで、体の奥から力が抜けていくのが分かるわ」

「分かるわ。あの場所って別に誰かに話しかけられてなくても、ずっと見られてる気がしてね。気が気でなかったわ」

「あなたはまだいい方よ。慣れているんだから。私なんて……本当に逃げたいくらいだよ」


「皆さん、早いわね。もう落ち着いてしまった感じ?」


 リーザロッテ・ヴァルナーだった。

 動きやすさを優先したドレスに、背筋の伸びた立ち姿。軍の関係者と日常的にやり取りをしているせいか、仕事時は視線も鋭いのだとか。防衛省関係の部署で、軍・防衛案件の連絡と調整を担う人間だった。


「落ち着いたっていうより、もう力尽きたって感じよ。もう歩きたくないわね」


 エレノアがそう返すと、リーゼロッテは苦笑しながらソファの背に手をついた。


「分かるわ、それ。もうクタクタよ」


 そう言いながら腰を下ろす様子は、完全に“仕事帰り”のそれだった。


「やっぱり、何度見ても防衛省の方の団結力は凄いわね」


 アリスの言葉に、リーザロッテはわずかに口角を上げる。


「団結、というより癖みたいなものよ。ほら、軍隊って規律ある行動を取るでしょ?それと似たようなものよ」


 するとエレノアは突っ込みを入れた。


「私達はとにかく、まとまりの無さそうな財務省なんてのもいるし、人それぞれだよね」


 そこへ、足取りで近づいてきたのが、フィオナ・エルンストだった。


「……あの、お邪魔じゃなければ……」



 今年入ってきたばかりの新人で、この顔ぶれの中では最年少になる。法務省系の補助職として配属されたばかりで、こうした二次会――ましてや女子会に参加するのも、今回が初めてだった。


 アリスがすぐに気づいて、手招きをする。


「全然いいのよ。初めてなんでしょう、こういうの」


 フィオナはほっとしたように表情を緩め、空いているソファの端に腰を下ろした。


 法務省の若手らしく、癖のない服装と落ち着いた色合い。派手さはないが、きちんと整えられた身なりは、彼女の性格そのものを表していた。


「緊張してる?」


 エレノアが柔らかく声をかけると、フィオナは少し困ったように笑った。


「正直に言うと……さっきまでのお茶会も、頭が真っ白で」

「安心していいわよ。ここでは派閥のわだかまりとか一切ないからね。ただの趣味でやっているお茶会よ」


 アリスの言葉に、リーザロッテが頷く。


「そうそう。今は“仕事人として”じゃなくて、“仕事に疲れた人たち”の集まりだから」


 フィオナが少し驚いたように目を丸くし、そのあとでつられるように笑う。エレノアは口元を押さえ、アリスは肩をすくめながらソファに深く沈み込んだ。


 しばし、その余韻が続いたあとで、アリスがふと思い出したように首を傾げる。


「……そういえば、セシルは最初から来てなかったわね」


 その名前が出た瞬間、リーザロッテが苦笑する。


「ああ、彼女?最初から欠席よ。今ごろ残業中だと思うわ。ほら、決算の時期だから」


 誰からともなく、短い笑いがこぼれる。声を上げるほどではないが、「ああ、やっぱり」という納得が混じった反応だった。


 エレノアが天井を仰ぐ。


「可哀想な、 セシル。こういう場に顔を出すときは、だいたい山場を超えた後だものね」

「逆に呼んだら機嫌悪くなるから、呼ばないで正解よ。そっとしておきましょう」


 アリスの言葉に、エレノアが笑いながら頷いたのだった。

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