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「それ、恋じゃない?」と親友に言われてから、彼の何気ない優しさに振り回されています  作者: 入多麗夜
1章

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15. 調査開始

 財務省の区画は、地上と地下二階層で構成されていた。

 二人達が降りた地下の天井は低く、石壁が露出し、通路の幅もわずかに狭くなる。


  アレクは無意識に背筋を伸ばし、周囲を見回す。


「セシルさんはこの区画はよく行かれるのですか?」


 セシルは歩みを止めることなく、ちらりとこちらを振り返った。


「あまり行かないわね。やっぱりここは、財務省の中でも特別な場所だから」


 セシル曰く、財務省では役職が上がるほど、活動する区画は逆に下へと降りていくのだという。

 地上階は一般業務、そして最深部には大臣や事務次官といった上級役職が集まっているフロアがあるとの事だった。


「今の私達は仕事っていう程だけれども、普段は入れない場所よ」


 そう言いながら、セシルは階段の手すりに手をかけ、ゆっくりと下を見下ろした。


 地下へと続く通路は、地上とはまるで別の建物のようだった。


 その静けさの中で、アレクがぽつりと口を開いた。


「それって……仮に金の増減が人為的な物だった場合、犯人は限られますよね」


 その一言に、アリスとセシル、そして少し遅れてローズが、同時に足を止めた。


 確かに――と、三人とも内心で頷いていた。


 あまりにも当然の指摘で、どうして今まで誰も口にしなかったのか不思議に思えるほどだった。


 考えてみれば、この地下区画に出入りできる人間自体が限られている。そして、金の保管庫に入る権限があるのは、それに携わる者か、あるいは上の階級の人間だけだ。

 

 アリスは静かに息を吐いた。


「……そうね。言われてみれば、そうなのかも」


 アリスはそう呟きながら、ゆっくりと視線を地下通路の奥へと向けた。


 地下通路は、足音が異様に響く。

 石壁に反射して、四人分の靴音がわずかに遅れて返ってくる。

 通路には窓がなく、天井近くに等間隔で設置されたランプだけが、薄く黄ばんだ光を落としている。

 その光は壁の凹凸を際立たせ、ところどころに刻まれた古い補修痕や、時代を経た石材の継ぎ目を浮かび上がらせていた。


 財務省がこの地下区画を造ったのは、何十年も前のことだという。

 当時から金の保管は国家の最重要事項であり、敵国の侵入、事故災害――あらゆる事態を想定した末に、最も堅牢な場所としてこの地下が選ばれた。

 地上の建物が何度改修されようと、この区画だけはほとんど姿を変えていない。


 湿り気のない空気は、ひどく冷たい。ここでは季節の感覚すら失われる。外が夏であろうと冬であろうと、この地下の温度はほとんど変わらない。


 やがて、先ほどの円形扉の前へと辿り着く。

 金属の表面には、何層もの保護処理が施され、わずかに照明を反射して鈍く光っている。


 金属が擦れる低い音が、通路にゆっくりと広がっていく。


 扉の縁に沿って組み込まれた機構が作動し、内部のロックが一つずつ外れていく音だった。

 

「 お話は聞いております。アリス・ウェールズ、アレク・サントロリア、セシル・ハインズ、ローズ・ブライナ、以下4名。入室許可、出ています」

「ありがとうございます」


 アリスが応じる。


 管理官は小さく頷き、扉脇の機構に手を伸ばした。金属製のレバーが引かれ、内部の装置が作動する。先ほどと同じ、低く、重たい音が通路に満ちていく。


 空気がわずかに震え、扉がゆっくりと開き始めた。冷気が、肌の表面をなぞるように流れ出してくる。


 扉の向こう側は、思った以上に広かった。


 通路を抜けた先に現れたのは、巨大な石造りの空間だった。天井は高く、壁は分厚く、外界の音も振動も完全に遮断されている。中央には幅の広い通路が一本まっすぐに延び、その両脇に規則正しく区切られた区画が並んでいる。


 床は分厚い石板で覆われ、足音はほとんど吸い込まれるように小さくなる。


「現在の立会担当は私が務めます。区画内の移動は指示に従ってください」

「分かりました」


 アリスが短く答える。


 四人は管理官の後ろについて歩き出した。


 進むにつれて、空間の冷え方が一層強まっていく。体温がゆっくりと奪われていくような感覚に、アレクは無意識に腕を擦った。


 セシルは周囲を見回し、低い声でアレクに説明するように言った。


「私の知る限りだと、ここは非常食糧のエリアよ。主に飢饉対策用の」


 通路の左手には、木箱と金属製の保管容器が積まれており、表面には地域名と保存期限、管理番号が細かく記されている。

 金属の匂いではなく、乾いた穀物と薬品が混じった、独特の保存臭がかすかに漂っていた。


 その言葉に、先を歩いていた管理官が足を緩め、振り返る。


「はい。その通りです。ここは元々、金と銀のみを保管する区画でしたが、何年か前に地下区画の増築が行われまして。現在はこちら側が非常用食糧の保管エリアになっています」


 管理官は通路の正面、やや奥に設けられた分厚い隔壁を指さした。


「そして――あの扉の向こう側が、今回、申請された金の保管区画です」


 隔壁の中央に設けられた扉は、周囲より一段濃い金属色をしており、照明を反射して鈍く光っていた。


「……随分、奥まってますね」


 アレクが呟くと、管理官は静かに頷く。


「外部からの侵入を防ぐためです。地下構造の中でも最深部に近い場所になります。出入りは、すべて記録が残りますし、許可なく近づくことはできません」


 セシルは腕を組み、隔壁の構造をじっと観察した。


「扉の向こうは、保管庫と検査区画が直結している構造?」

「はい。搬入、検品、再封印、そのまま保管庫へ移送されます。途中で人の手が入る工程は、極力排除されています」


 アリスは隔壁の縁を一瞥し、ゆっくりと息を吐いた。


「それなら逆に分かりやすいわ。とりあえず、何か違和感がないか探してみましょ」

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